菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

「何の為に人は動く」と己は言える者か? 『新聞記者』

2019年07月08日 00時00分15秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1537回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

『新聞記者』

 

 

 

 

官邸とメディアの深い闇を赤裸々な筆致で現代日本の裏を表に引きずり出す衝撃のポリティカル・サスペンス。

 

“権力の監視役”としてのマスメディアの力が急速に弱まっている現代の日本で孤軍奮闘する現役新聞記者による同名ノンフィクションのベストセラーを基に、フィクション化している。

 

監督は、『デイアンドナイト』、『青の帰り道』の藤井道人。

 

 

 

物語。

あるレイプ事件の判決がメディアを騒がせていた。
日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育った東都新聞社会部の若手記者の吉岡エリカは、部内でも異色の存在。記者会見でただ一人鋭い質問を繰り返し、政治部的遠慮か、官邸への遠慮が蔓延する記者クラブでも異彩を放っていた。そのレイプ事件に関して、動いている内閣情報調査室(内調)の若手エリートの杉原拓海は仕事の質の変化と向き合っていた。
ある日、社会部に匿名の情報リークの匿名FAXが届く。それは大学新設計画に関する極秘情報が記されたもの。
上司の陣野から吉岡が取材を任される。
すると、内閣府の神崎という人物が浮上してくる。

 

原案は、望月衣塑子 『新聞記者』(角川新書刊)、河村光庸。
脚本は、詩森ろば、高石明彦、藤井道人。

 

 

 

 

出演。

シム・ウンギョンが、吉岡エリカ。
松坂桃李が、杉原拓海。

高橋和也が、神崎俊尚。
北村有起哉が、陣野和正。
田中哲司が、多田智也。


本田翼が、杉原奈津実。
高橋努が、都築亮一。
西田尚美が、神崎伸子。

岡山天音が、倉持大輔。

郭智博が、関戸保。
長田成哉が、河合真人。
宮野陽名が、神崎千佳。

 

 

 

 

 

スタッフ。

製作は、河村光庸
企画は、河村光庸
エグゼクティブプロデューサーは、河村光庸、岡本東郎。
プロデューサーは、高石明彦。
ラインプロデューサーは、平山高志。 
共同プロデューサーは、行実良、飯田雅裕、石山成人。

演出補は、酒見顕守。

撮影は、今村圭佑。
照明は、平山達弥。

美術は、津留啓亮。 
衣裳は、宮本まさ江。
ヘアメイクは、橋本申二。

録音は、鈴木健太郎。

編集は、古川達馬。

音楽は、岩代太郎。

 

 

 

 

現代日本、父の遺志継ぐ女性記者と内調の男が匿名告発文書の取材で出会うポリティカル・サスペンス。
望月衣塑子 『新聞記者』を基にフィクション実写化。
現内閣の醜聞を若者向けかつカリカチュアライズして娯楽政治映画に。対立図の分かりやすさは今の日本のメジャー映画ならでは。明確な対象がいるからこそ、二段降りたともとれる。この不足さにも戦略を見る。今の日本の忖度の圧力、国内経済制裁への恐れを映画の外に感じる。これもまた忖度かもしれないが。印象操作に印象操作で立ち向かうプロパガンダ戦。知とは上に上がるために下にも降ろさねばならないもの。
欧米映画、韓国映画、黄金期の邦画に連なる批判精神が発揮されている。
二人の主人公は片方は葛藤が弱い、人物を記号化しすぎ、結局上は見せていない、芯を見せないのでサスペンスが弱いなど、上質な娯楽映画としてはまだまだ韓国映画の背中がちょっと見えた程度ではあるが、0と1では無限の差。この公開タイミングと規模も大事。
知性と気概ある若者を体現するシム・ウンギョン。灰色の中の正義に葛藤する松坂桃李。坩堝の中で立っている北村有起哉。キャラの整理はイマイチ。だが、全キャストに敬意を抱く。もちろん、スタッフにも。
入門編としてのシンプルさとリアルタイムの戦いの面白さを味わえる。
攻め切らないことで大きく芽を出させた搦手の木作。

 

 

 

 

 

 

 

おまけ。

上映時間は、113分。
製作国は、日本。
映倫は、G。

 

 


キャッチコピーは、「内閣官房vs.女性記者――」。
微妙に示しきれていない半端さがある。もう一歩踏み込んで欲しかった気はする、それは内容とあっているとも言えるし、妨害を防ぐための凡庸のふりかもしれない。

 

 

 

 

 

撮影の今村圭佑は、山戸結希の『ホットギミック ガールミーツボーイ』、永井聡の『帝一の國』、熊澤尚人『ごっこ』、『ユリゴコロ』、湯浅弘章『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』などの仕事がある。
米津玄師のMV『Lemon』でも撮影を担当している。
藤井道人とは『デイアンドナイト』、『7s [セブンス]]、 『けむりの街の、より善き未来は』などTVドラマでも組んでいる盟友である。

 

 

 

 

 

 
木下恵介の『陸軍』が透ける。母と息子と感情で歯向かったものが、ここでは父と子で寄り添う。
今後、日本でもマイケル・ムーアに連なる政治ドキュメンタリーが生まれることを期待したい。


 

 

 

 

 

 

 

 


ややネタバレ。

『空母いぶき』の騒動などを思い出してほしい。
『シン・ゴジラ』でもそうだが、軍事関連にすれば表に出せるのだろうな。『亡国のイージス』の冒頭でも近い話が描かれたり、『空母いぶき』でも記者が情報等せされる描写がある。

軍事なら現代の日本でも批判可能で、映画的娯楽にしやすいというのはあるのだろう。

 

 

 

 
 
カメラワークは主観と客観をどうにか切り分けようとスーパークローズアップと手持ち揺らしを遠距離と近距離にし、託しているなどの意図が出ている。他にも線対称の反転といった鏡構図などで人物を繋げるなどテクニカルなだけに、さらに攻め込んで欲しかったとは思う。あえて、ぎこちなさを狙っているということもありそうだ。だが、それでも見やすさを指向して、ぬるさになった気はしないでもない。とはいえ、予算の少なさ、ロケ地や美術の弱さをカバーする目的はあったのだろう。

日本にメジャー映画の主演女優として知性と英語力、記号に陥らない演技力とスター性まで持った若手女優が何人いるか。
シム・ウンギョンの霊安室での演技はこういった映画の中で見落とされるかもしれないが輝いている。

映画全体も、起伏の少ない2つのストーリーの並列に分かりやすい回想、合いの手のようなお助け差し込み展開をするのでリズムが弱い。
展開も敗北や苦闘や努力をあまり感じさせない最近の日本映画に増えたストレスフリー映画になっているが、それは最後のオープンエンドと引き受ける覚悟のためにあえて、と好意的に受け止めたい。

 

 

 

 

アメリカ映画でなんでもカーチェイスが入るのと同じように、日本映画ではなんでもラブチェイスを入れているのかもしれない。
ラブチェイスはそれだけで一ジャンルになるものなので、入れ方のバランスが難しいことに気づいていないものが多い。
『新聞記者』ではそこを省いたことは評価したい。下手すりゃ同僚とのラブチェイスを入れていたことだろう。キャスティングでもそこを意識しない設定にし、その役を作ってくれるキャストとしてシム・ウンギョンにしたそうだ。彼女は『ザ・メイヤー 特別市民』でも近い役をやっており、そこでも恋愛話はほぼ出てこない。
最近は『シン・ゴジラ』、『空母いぶき』、『新聞記者』とそこを分かっている作品が増えている。

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

刺さった台詞。
「この国の民主主義は形だけでいい」

 

 

若く、まだ政治に取り込まれていない、攻め込んだ描写出来ない監督にしたのも映画の一つの狙いなのではないかと。
映画は経済の影響をすごく受けるため、中堅では政治に絡んでいない監督はごく少数だから。
攻めた描写をすれば、映画そのものが潰される可能性も考えたのではないかとも思う。選挙前に議論を起こすためにも。

『ペンタゴン・ペーパーズ』をスピルバーグ先生が異例の速さで製作したり、『1987、ある闘いの真実』を取材や妨害できないようにして秘密裏かつすべてセットを建てて制作したように。ある種の政治映画はつくるだけで戦いでもある。

ドキュメンタリーでは特にそう。マイケル・ムーア作品だけでなく、インドネシアの『アクト・オブ・キリング』などは本当に命がけであったことがエンドクレジットでも分かる。

 

ただ、あの生化学研究施設には現実の元ネタがあるので、そこはフィクションの度が過ぎるというわけではない。

 

 

 

だが、杉原の葛藤はとてつもない。
自分が言った言葉の意味を理解した恐ろしき葛藤。
彼はそれでも突き進めるのか。
二つの死を知っているからこその葛藤。
松坂桃李が見せる体の歪み。
そして、三つの死を知っている吉岡の葛藤がそこで生まれる。
吉岡が主人公になる瞬間がラストに来る。
これは難しい構成であり、演技としても非常に難しい。
シム・・ウンギョンの想像力がこちらに透けて見える。
勝ち、正しささえ人を追い込むことを知る。
敵は権力だから。
父の記事も誤報ではなく、誤報にさせられたのかもしれないのだから。

その時、その場で私は立っていられるだろうか。
その時、その場で私は抱き止められるだろうか。

 

 

 

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