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菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

一片は今も。 『オッペンハイマー』

2024年04月21日 09時29分00秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2341回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

『オッペンハイマー』

 

 

 

原子爆弾製造に成功し<原爆の父>と呼ばれる物理学者ロバート・オッペンハイマーを二つの事件を中心に描く歴史サスペンス・ドラマ。

2006年ピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンによるノンフィクション『オッペンハイマー:<原爆の父>と呼ばれた男の栄光と悲劇』を下敷きに、オッペンハイマーの栄光と挫折、苦悩と葛藤を描く。

ノーラン監督最新作「オッペンハイマー」は「一種のホラー映画」 : 映画ニュース - 映画.com

映画『オッペンハイマー』公式|3月29日(金)公開

 

原題は、『OPPENHEIMER』。
『オッペンハイマー』。

 

製作年:2023
製作国:アメリカ
上映時間:180分
映倫:R15+

 

配給:ビターズ・エンド、ユニバーサル映画  
 

 

 

物語。

二つの視点が示される。<1.核分裂><2.核融合>

第二次世界大戦中、先進的研究をしていた物理学者J・ロバート・オッペンハイマーは、原子爆弾開開発プロジェクト<マンハッタン計画>の制作部門の長レズリー・グローヴスにより科学部門の長に誘われる。

その後、オッペンハイマーは、原子力委員長ルイス・ストローズにプリンストン高等研究所所長として招かれる。
だが、その後、告発により、オッペンハイマーは共産主義者と疑われ、委員会による組織内の閉じた聴聞会で追い詰められる。

ルイス・ストローズは、国務長官に任命してよいか、アメリカ政府から公聴会にかけられ、この聴聞会のことを問い詰められる。

 

監督・脚本は、『ダークナイト』『TENET テネット』のクリストファー・ノーラン。

主演は、キリアン・マーフィ。
共演は、エミリー・ブラント、ロバート・ダウニー・Jr.、マット・デイモン、ジョッシュ・ハートネット、ラミ・マレック、フローレンス・ピュー、ケネス・ブラナーほか。

撮影は、『インターステラー』以降のノーラン作品を手がけているホイテ・バン・ホイテマ。
音楽は、『TENET テネット』のルドウィグ・ゴランソン。

第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門で受賞。

日本では、アメリカから、ほぼ一年遅れで、公開となった。

 

 

スタッフ。

監督:クリストファー・ノーラン
製作:クリストファー・ノーラン、チャールズ・ローヴェン、エマ・トーマス
製作総指揮:トーマス・ヘイスリップ、J・デヴィッド・ワーゴ、ジェームズ・ウッズ
キャスティング:ジョン・パプシデラ

原作:カイ・バード、マーティン・J・シャーウィン 『American Prometheus: The Triumph and Tragedy of J. Robert Oppenheimer』
脚本:クリストファー・ノーラン
撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ
プロダクションデザイン:ルース・デ・ヨンク
衣装デザイン:エレン・マイロニック
編集:ジェニファー・レイム
音楽:ルートヴィッヒ・ヨーランソン

 

 

出演。

キリアン・マーフィ (J・ロバート・オッペンハイマー/原爆の父/オッピー)
ロバート・ダウニー・Jr (ルイス・ストローズ/米原子力委員会委員長/商務長官代理)

マット・デイモン (レズリー・グローヴス/准将)
ジョシュ・ハートネット (アーネスト・ローレンス)
ベニー・サフディ (エドワード・テラー/水爆の父)
デヴィッド・クラムホルツ (イジドール・ラビ/イジドール・イザーク・ラービ)
トム・コンティ (アルベルト・アインシュタイン)

エミリー・ブラント (キティ・オッペンハイマー/妻)
フローレンス・ピュー (ジーン・タトロック/心理学博士/愛人)
ルイーズ・ロンバート (ルース・トルマン/愛人)

デヴィッド・ダストマルチャン (ウィリアム・ボーデン/告発者)
ジェイソン・クラーク (ロジャー・ロッブ/特別検察官/弁護士)
デイン・デハーン (ケネス・ニコルス/中佐/アメリカ陸軍技官)
オールデン・エアエンライク (エイダ/ストローズの秘書)

ケイシー・アフレック (ボリス・パッシュ/防諜部将校)
ケネス・ブラナー (ニールス・ボーア)
ディラン・アーノルド (フランク・オッペンハイマー/弟/助教授/共産党員)
マシュー・モディーン (ヴァネヴァー・ブッシュ)
ジェファーソン・ホール (ハーコン・シュヴァリエ/文学博士)
ガイ・バーネット (ジョージ・エルテントン)
トム・ジェンキンス (リチャード・トルマン)
ジャック・クエイド (リチャード・ファインマン)
グスタフ・スカルスガルド (ハンス・ベーテ)
デヴォン・ボスティック (セス・ネッダーマイヤー)
ハリソン・ギルバートソン (フィリップ・モリソン/グループリーダー)
マイケル・アンガラノ (ロバート・サーバー)
オーリ・ハスキヴィ (エドワード・コンドン)
アレックス・ウルフ (ルイス・アルバレズ)
ジョッシュ・ペック (ケネス・ベインブリッジ)
トロンド・ファウサ (ジョージ・キスチィアコスキー)
メイト・ハウマン (レオ・シラード)
ダニエル・デフェラッリ (エンリコ・フェルミ)
ラミ・マレック (デヴィッド・L・ヒル)
ローランド・アウグスタ ’J・アーネスト・ウィルキンス)
クリストファー・デンハム (クラウス・フックス)
ジェームズ・ダーシー (パトリック・ブラケット/講師)
ジョッシュ・ザッカーマン (ロッシ・ロマネッツ)
ジェームズ・アーバニアック (クルト・ゲーデル)
アレックス・ウルフ (ルイス・アルバレズ)
マティアス・シュヴァイクホファー (ヴェルナー・ハイゼンベルク)
ジェームズ・レマー (ヘンリー・スティムソン/陸軍長官)
ジャック・カートモア=スコット (ライアル・ジョンソン)
グレゴリー・ジバラ (マグナソン上院議員)
ゲイリー・オールドマン (ハリー・S・トルーマン/大統領)

オリビア・サールスビー (リリー・ホーニグ)

 

 

 

 

『オッペンハイマー』を観賞。
20世紀、物理学者オッペンハイマーが量子力学に取り組み、原爆開発と周囲による反応で苦悩していくサスペンス・ミステリー・伝記ドラマ。
原爆の開発成功から<原爆の父>と呼ばれる物理学者J・ロバート・オッペンハイマーのいくつかの時期、特にアメリカの原爆開発と反共ヒステリックの時期、オッペンハイマーの隆盛と没落を中心に描く。
伝記ドラマとしては、青年期から壮年期までを2時間映画2本分描いていて、十分な量と語りがある。
2006年にピュリッツァー賞を受賞した、カイ・バードとマーティン・J・シャーウィンのノンフィクション『<原爆の父>と呼ばれた男の栄光と悲劇(アメリカン・プロメテウス)』を下敷きに大きく脚色しているが、原作の三章をそれぞれ、そのまま三幕に落とし込んだ内容が入っているそうです。
監督・脚本は、『インターステラー』『ダンケルク』のクリストファー・ノーラン。脳フル回転、時間操作、実物撮影、IMAX使いでおなじみの兄ノーランです。
なので、今作もこの4点ががっつり入ってます。
脳フル回転は、実際の歴史で40人を超える実在の人物の登場によるリアルな伝記である部分と、もう1つ。
二つの章に分かれていて、1、核分裂(fission)の章はカラーでオッペンハイマーの視点による原子力委員会の聴聞会と半生(原爆開発による対外)、2、核融合(fusion)では原子力委員会委員長ルイス・ストローズを中心とした公聴会(対内)になっている。
時間操作は、この二つの章が並行に展開し、それぞれの章の中で、時系列が前後するのだが、基本は、その中で質問されたことを回想する方で、さらにその中で思い出すような形になっている。
以前は、回想内回想という作法は映画文法の禁じ手のようになっていたが、ヒッチコックは『舞台恐怖症』でやっており、21世紀になり、禁じ手を逆手に取った話法として確立さえしている方法となった。ほかには、『ソーシャル・ネットワーク』などでやっている。
事件を出来事にごとに戻って回想するスタイルは王道で『市民ケーン』でも使っているが、ノーラン自身デビュー作『フォロウィング』でもやっている。原因と結果を同時に並べていく編集にもなっていて、脚注ページに飛びながら小説を読む感じに似ている。それの回想を主観的にする発展を『ソーシャル・ネットワーク』でやっており、今作はそれにさらに客観とも並べてみせ、新技と旧技を置くことで、技でも時間操作をしている。
さらにさらに、これにカット単位で時間を前後させ感情面を同時に並べる『21グラム』『マグノリア』で行ったシャッフル編集を組み合わせている。
さらにさらにさらに、これにノーランによる新技である異単位時間並列進行も入れ、7つもの時間操作技法が入っている(時間伸長も入っている)ので、ノーラン節の複合的時間操作の集大成となっている。
組み合わせることで生まれる効果は新しい発明。
しかも、伝記映画への新しいアプローチにもなっている。
実物撮影は、両氏の世界や脳内イメージ映像のアナログ撮影、原爆の爆発も大きな爆発を起こし、それをいくつかCGで組み合わせている。
IMAX撮影は、新しい白黒IMAXフィルムを開発し、それで撮影を行っているし、多くのシーンをカラーIMAXフィルムで撮影しているが、すべてではなく、パナヴィジョン65mmフィルムでも撮影が行われている。ただ、IMAX GTで見ていて、いわゆるフルIMAXのほぼ正方形と横長の画面の混在の意味を探って、ちょっと混乱した。どうやら、IMAXカメラの騒音で、音声が録りづらいシーンはPanavision Super 70(65mm)で撮影したからだそう。今作は、アフレコで音声を録り直したシーンがかなり少なく、ほとんどが同録で収録されており、時折、音声がくぐもっているのがIMAX上映でもあったのもそのため。
そう考えると、IMAX GTレーザーよりも通常IMAX、ドルビーシネマでの鑑賞の方が向いている可能性はある。(日本にはIMAX GTフィルム上映がないので)

実際、『オッペンハイマー』はそこまでややこしい作品ではない、と思う。
おいら自身は、これまで見てきたアメリカ映画知識と現代科学への知識があったので、混乱までしないで済んだということもある。
それに、偶然、広島の平和記念資料館館へ行ってきたばかりだった。(今行けばわかるが、来場者の多くが外人で、ごった返している)
博士系は名前が出てくるたび、「おー、あの人」と七割分かったのと、赤狩り系の映画を見てきたので会場を見ただけで公聴会だとつかめたからかな。
難解みたいなことがいわれがちだが、1000億円以上の興行成績から考えてると受け入れられているわけで、これはそこまで難しくはないということの証明の一つ。

よく知られた出来事を描く伝記映画は、物語が退屈というかお行儀良く並べられてしまうこともよくある。
今作は、映画として、見る者に強烈な感情を引き起こそうとしたこと、新しい取り組みをしたことが伝わる。
ノーランのもう一つはある種のルールを映画の話法にするという特徴もある。
『フォロウィング』の取り調べ、『メメント』における前向性健忘と逆行性健忘、『インセプション』の夢、『テネット』のタイムパラドックス、『インソムニア』の不眠症、『プレステージ』の手品、『インターステラー』の物理学・・・。
今作は核分裂と核融合。それは簡単に言うと、ある分子に中性子をぶつけることで反応(分裂と融合)が起きてその分子が別の分子となってまた中性子が飛び出していき連鎖が起きることである。分裂と融合は似ている。そして、原爆と水爆となったが、引き起こされるエネルギーは格段の差がある。
これが今作の話法となっている。核分裂と核融合は劇中で示されているが、中性子は何だろうか。
それはあなた=観る者かも。いや、あなた自身に今作が中性子となって分裂か融合の連鎖を起こしているのかもしれない。
物事には似た二つの面があり、それが引き起こす作用は想像し得ても、想像を超える。
テクノロジーにつきまとう功罪。スマホは便利だが、依存症を引き起こす。
ジーン・タトロックの性的なシーンを入れることで、レーティングをあえて上げたのかもしれない。
キャストは端の端に至るまで、素晴らしい効果を映画にもたらしている。
これだけ巨大な作品なのに、ある種、中規模のインディ作品のような挑戦に満ちている。
一時期、批判の対象になった音楽が鳴り続けるスタイルだが、それにより分断された意識を引き留め続けられる。そして、ある演出を際立たせる。
理屈ではなく、感情として日本人としては、それがないことをはまさに感情において沈黙ができなくもなるというものだろう。
そして、理性と感情の二面を暴き出されるのは、日本以外でもだろう。(原爆以外にも、当時、放射線による影響実験でアメリカにも被爆被害も出ているのだが、その点も今作では省かれている)
ただ感情と理屈を刺激するために、この題材が選ばれているわけではない。
アンケートによるとアメリカの若者は、原爆が戦争のために有効だったと考える若者は半数に上るという。
被害者の写真が一枚でも出ていたら何かが違っていたかもしれない。0か1か、どちらかを選ぶなら、より強い力を生み出すのはどちらだろうか。その一枚の写真をあなたは選べるだろうか。それは中性子となりえたかもしれない。
ちなみに、『オッペンハイマー』の海外版ブルーレイには、クリストファー・ノーランの要請で、『オッペンハイマー』の姉妹編といえるNBC Newsのドキュメンタリー『トゥ・エンド・オール・ウォー:オッペンハイマー・アンド・ジ・アトミック・ボム』(原題:『To End All War: Oppenheimer and the Atomic Bomb』)が収録されている。同作には、広島と長崎への核攻撃とその惨状が詳細に描かれているそう。
「見せないで想像させる」というのは映画の王道の考え方である。
と矛盾するように「見たことがないものを見せる」のもまた映画の王道。
そして、新しいものに挑むこともまた映画というテクノロジーで生まれたメディア形式においては避けることができない道でもある。
この作品後の連鎖にこそ、この映画の真価が問われるところでもある。この作品で起こる議論も、観る前に観た後であなたが起こした行動も、その連鎖。
私たちは原爆以後の世界を、産業革命以後の環境破壊の世界を生きている。
<『オッペンハイマー』以前『オッペンハイマー以後>という言われ方をするような連鎖が生まれるかを見守りたい。
それは想像できた内容と同じながら、想像した以上のことになるはずだ。


 

 

 

 

 

受賞歴。

2023年のアカデミー賞にて、作品賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr)、監督賞(クリストファー・ノーラン)、撮影賞(ホイテ・ヴァン・ホイテマ)、作曲賞(ルートヴィッヒ・ヨーランソン)、編集賞(ジェニファー・レイム)を受賞。
2023年のゴールデン・グローブにて、作品賞(ドラマ)を受賞。
2023年の英国アカデミー賞にて、作品賞を受賞。

他に、40以上の賞を受賞。

 

 

クリストファー・ノーラン監督『オッペンハイマー』初情報 - The Game is Afoot

映画 『オッペンハイマー』追加キャスティング情報 - The Game is Afoot

番外編 ノーラン監督「オッペンハイマー」予告編の紹介 - レタントンローヤル館

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ややネタバレ。

「古代ギリシャのプロメテウスは神から<火>を人に与えた」という逸話が出てくる。
原作ノンフィクションの原題は『アメリカン・プロメテウス』。

映画の最初のショットは、雨粒が水たまりに打ち付け波紋が広がるショット。
それは原子の世界の画像と並んで表示される。

 

ジュリアス・ロバート オッペンハイマー(Julius Robert Oppenheimer)について。
1904年4月22日 - 1967年2月18日。
アメリカ合衆国の理論物理学者。理論物理学の広範な領域にわたって大きな業績を上げた。
特に第二次世界大戦中のロスアラモス国立研究所の初代所長としてマンハッタン計画を主導し、卓抜なリーダーシップで原子爆弾開発の指導者的役割を果たしたため、「原爆の父」として知られる。
ブラックホールに関する先進的な研究(理論化の30年近く前)やマックス・ボルンとの共同研究による分子を量子力学的に扱う「ボルン-オッペンハイマー近似」などでも知られる。
戦後はアメリカの水爆開発に反対したことなどから公職追放された。
若い頃は奇行も多く、同席した列車の席のカップルがうるさいので、女性にいきなりキスして出ていかせたり(躁鬱病を患っていた頃)、考え事をするとにムニャムニャと独り言を言うのでニムニムマンとあだ名があったりした(だが、すでに学会で認められてもいたので、それを真似するものもおり、慕っていた学生たちはニムニムボーイズと呼ばれていたとか)。
略称はオッピー。
1947年、物理学教育への貢献によりリヒトマイヤー記念賞受賞。1963年、「エンリコ・フェルミ賞」受賞。(アメリカ政府はこの賞の授与により、反共ヒステリック状態でなされた1954年の処分の非を認め、彼の名誉回復を図ったとされている)。
公職追放は2022年12月16日に撤回されている。(wikiより)

「J」は「ジュリアス」の略です。この映画の原作となった本『アメリカン・プロメテウス』によると、J・ロバート・オッペンハイマーは父親のジュリアスにちなんで名付けられたが、「J」は意味がないと常に主張していたという。

 

ロバート・オッペンハイマーが晩年に言った言葉。
「世界はもう元には戻らない。ヒンドゥー教の経典の一節を思い出した。今、私は死神となり、世界の破壊者となった」

 

 

追加クレジット。

フローラ・ノーラン (火傷の被害者(burn victim))

クリストファー・ノーランの娘を起用している。

 

 

クリスマスパーティーで、爆弾実験の直前にボンゴドラムを演奏する人物の姿が見られる。それは、ロスアラモスで働いていた最年少の科学者の一人であるリチャード・ファインマン。

 

膨大なリサーチを行った『オッペンハイマー』の俳優たちに対して、ノーランは通常のフィルムメイキングよりも多くの裁量を与えたという。
「前はあまりできなかったことです」とノーランは振り返っている。
例えば、科学者たちが教室で一斉に議論を交わすシーンでは、それぞれにセリフが用意されていたにもかかわらず、演者たちのアドリブに任せたそうだ。
「脚本はありましたが、彼らが情熱と学びから得た知識をもっていたからこそ、そこに挑むことができたんです」。

 

クリストファー・ノーランは、俳優の起用条件として、俳優が、演じる人物の歴史や性格やほかの人物との関係について、きちんと調べ、知識を得てきてくれる下準備の確かさを挙げている。
(彼の手による伝記映画に近いものは三作だが、他も、原作ありや高い科学的知識などが求められるので)
俳優の下準備の確かさは、以前の仕事での評判から知るのだそう。

 

 

マット・デイモンは、最初に提示された脚本を読んだとき、これまで見たことのない一人称で書かれていたと発言している。
『オッペンハイマー』のオリジナル脚本は、無料で公開されている。

 

撮影日数は57日間。(プリプロは約100日)
キャストからは1億ドルのインディ映画のようだったと評された。

 

ホイテ・ヴァン・ホイテマは、インタビューで、映画には絵コンテが描かれたフレームは一つもなかったと述べている。

AEC 公聴室のシーンは、エアコンのない実際のオフィスで撮影された。

製作に使用されたIMAXフィルムストックのリール全体の長さは11マイル(17.7キロ)。

IMAX 15 パーフ 70mm フィルムのサイズと、フィルムがカメラを通過する速度のせいで、カメラを動かしながら現場で音声を録音することはほぼ不可能。
同録するために、ほとんどの会話シーンがフルフレーム IMAX ではなく、5 パーフォレーション 70mm フォーマットで撮影された。

 

映画の白黒部分をフィルムで撮影するために、コダックに依頼。
コダックは、モノクロ部分の色の精度を確保するために、特にこのフィルムのために史上初の白黒 IMAX フォーマット フィルム(70mm の Double-X 白黒フィルム)を開発した。

元々は第二次世界大戦中にスーパー XX として写真家に販売され、当時のフォトジャーナリストの間で非常に人気があったものをベースにしている。


コダック社は、ストローズの資金提供で出来た会社でもある。

 

ノーランは参考作品として、『JFK』を挙げている。
撮影前にスタッフに『JFK』を上映して見せている。

 

 

 

ネットで解説されまくりました。
そのうちのひとつ、相関図を紹介。
【50人以上がわかりやすい!】映画オッペンハイマー人物相関図【鑑賞前でも鑑賞後でもOK】
https://www.youtube.com/watch?v=83_hVZ4Rs1s

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

アインシュタインとの時間で、自分の内側に向くオッペンハイマー視点で始まり、同じ状況で自分に戻してしまうストローズの視点で終わる。
帽子を持っている手を変えているなど、主観と客観のズレも表現している。

 

カラーの画面(オッペンハイマーが出ている)に <1. FISSION(日本語字幕で、核分裂)>と、白黒画面(ルイス・ストローズが出ている)に<2. FUSION(日本語字幕で、核融合)>と出る。
あとは、タイトル以外には載せられた英語字幕はない。
これは『ダンケルク』と同じ技法で、あちらでは3つのシークエンスに対して、時間で提示された。
日本語字幕では、核分裂と核融合にすることで、多少知識があると時間軸がわかる。
核分裂が成功し原爆へ、核分裂から核融合させ水爆へとなっていくので、カラーと白黒の関係は、カラー後に白黒ですよ、という順番になっている。
核分裂(カラー)と核融合(白黒)での時間軸は操作されているので、バラバラではあるが、そもそもカラーはオッペンハイマー視点で、白黒はストローズ視点なので、二人の主人公を同時に語っていると言える。
これは、『プレステージ』『インソムニア』『ダークナイト』『バットマン・ビギンズ』で用いた語り口。
オッペンハイマーの名を冠した彼の伝記ではあるが、彼を際立てる人物としてのもう一人の主人公ストローズから見たオッペンハイマーを語っており、この構造は、『アマデウス』(モーツァルトの伝記で彼の名が冠されている)におけるサリエリ(もう一人の主人公)に似ているが、あくまで映画内での二本の軸の一方でだけ用いている。
これは、『ダークナイト』が同じで、バットマンの別名でありながら、ジョーカーをもう一人の主人公として語っていた。
これに近い技法を『ソーシャル・ネットワーク』で、マーク・ザッカーバーグのある時期を語るが、エドゥアルド・サベリン、キャメロンとタイラーのウィンクルヴォス兄弟をサリエリ的な影の主人公として置いている。しかも、裁判劇の最中に主観での回想も『ソーシャル・ネットワーク』で用いた話法。
核融合編はオッペンハイマーの聴聞会(原子力委員会の閉じた聞き取り)で、核融合編はストローズの公聴会(米政府による公の聞き取り)という対比になっている。
しかも、その聴聞会で突きつけられた質問からのオッペンハイマーの回想、公聴会で突きつけられた質問からのストローズの回想という現在時間から過去の時間軸へと時間が引き延ばされるのは、『インセプション』の夢の奥へ遠くへと行けば、時間が引き延ばされるという設定に近い。
その上、質問という形での情報は一緒に聞いている人物の視点にも広がり、別の人物(キティとテラー)から見た自分(オッペンハイマーの脳内映像)が入る。
けっこう序盤い、自分が見ていないボーアの授業のカットも入るので、実はオッペンハイマーが見たことがあるものだけが写されているわけではない。(ジーンの死では、頭に手が添えられており、自殺と他殺の両方をオッペンハイマーが想像したことがわかる)
だが、自分が見ていないが聞いたエピソード(トリニティ事件のいくつかは主観以外の映像も入る)や想像(脳内イメージ)が挿入されていると考えると、納得できる。
実際、核融合の方でも、ストローズの主観だけでない、ボーデンの発言シーンやボリス視点のストローズがあるが、公的な情報だけになっているので、ストローズが知りえたというよりは、オッペンハイマーが知りえたことでもある。
個人の狭い主観で、伝記をある事件で描くのを『ファーストマン』がやって(伝記だがニール・アームストロングの主観で語り、彼しか見えない妄想が映る)いるので、これを取り入れたのかもしれない。(かの作品をノーランは非常に高く評価している)
そう捉えると、ストローズのシーンもまたオッペンハイマーが彼と会ったところからしか語られないので、これもまたオッペンハイマーの脳内映像と言えるのかもしれない。自分をストローズから見て状況を理解しようとしているのだと。
つまり、すべてはオッペンハイマーの脳内イメージ化であり、記憶や記録や想像の映像化であり、映画の語りとしての方法として、現実ではなく人の脳内で構築されたものの顕在化と考えられる。
これは、そのまま理論物理学者であるイオッペンハイマーが実際にそれを目に見える形(原爆)にしたこととも通じる。
想像(脳内で理解)したことを、顕在化し、それを機能させたら、想像した通りのことが起きたが、その影響は外に広がり、自分の想像以上の影響を及ぼす。
それにより、現実の力を思い知る。
現実に目にできるものにすることの意味。
その点で、現実に見えないものは映画内で見せるが、現実に見れるものは映画内では見せないというルールが見えてくる。
写されないことは現実に存在し、あなた(観客)がイメージしたものと照らし合わせてみて欲しいという意図なのではないか。
想像の方が恐ろしいならば、それはあなた自身に影響するし、現実の方が恐ろしければ、さらにあなたの世界に影響するだろう。
だから、オッペンハイマーがイメージできるはずのこと、または目にしたもの、を映画内で映さないということは、それは彼がイメージしたくなかった見たくなかったことという提示なのだ。
だが、それの影響を見せることで、それを見た者(観客)に想像させる。
(ノーランのアクションなどが野暮ったく見えるのも、現実化するための手段かもしれない。『バットマン・ビギンズ』は犯罪者から見たヒーローの攻撃という見えないものという意図でつくられていたのがわかるので、アクション演出にも意図を組み込んだ前例がある。)

 

 

オッペンハイマーは後年、古代インドの聖典『バガヴァッド・ギーター』の一節、ヴィシュヌ神の化身クリシュナが自らの任務を完遂すべく、闘いに消極的な王子アルジュナを説得するために恐ろしい姿に変身し「我は死神なり、世界の破壊者なり」と語った部分(11章32節)を引用してクリシュナと自分自身を重ねた。「世界はそれまでと変わってしまった。我は死神なり、世界の破壊者なり」と吐露した。

オッペンハイマーの親友であるロバート・サーバーの著書「Peace and War」内では、「原子爆弾が善意ある武器かのように語るな」と話している。

弟のフランクが、ドキュメンタリー映画『The day after Trinity』の中で、「ロバートは現実世界では使うことのできない(ほど強力な)兵器を見せて、戦争を無意味にしようと考えていた。しかし人々は新兵器の破壊力を目の当たりにしても、それまでの兵器と同じように扱ったと、絶望していた」と語っている。また、原爆の使用に関して「科学者(物理学者)は罪を知った」との言葉を残している。

水爆開発に反対して、公職追放された後は私生活も常にFBIの監視下におかれるなど、生涯にわたって抑圧され続けた。
1960年9月に来日した際に原爆開発を後悔しているかという質問に対して「後悔はしていない。ただそれは申し訳ないと思っていないわけではない」と答えた。ただし、この発言はFBIの監視下に置かれて以降のものであり、前述のような後悔の念が垣間見えるような発言を避けている。広島県・長崎県を訪れることはなかった。
死の2年前のインタビューでは原爆開発について「大義があったと信じている。しかし、科学者として自然について研究することから逸脱して、人類の歴史の流れを変えてしまった。私には答えがない」などと話した。

ロスアラモスの爆弾に名前を付けたいと尋ねられると、オッペンハイマーは「三位一体」と言う前に「心を打ち砕け、三人の神よ」とつぶやいた。これはジョン・ダンの聖ソネット 14の最初の行からのもの

ジーンと初めてセックスした後、彼女はオッペンハイマーに、彼が実生活で引用したことで有名な『バガヴァッド・ギーター』の一節「今、私は死、世界の破壊者になった」を(サンスクリット語で)読むように言います。彼はトリニティ実験中に爆弾の爆発を目撃した後、この有名な言葉を繰り返しました。

 

この映画の中で、オッペンハイマーは8回以上間違える。
学生時代の実験の失敗、講師の殺害未遂、核分裂の計算間違い、ルースとの不倫、ジーンとの不倫、ジーンの死亡、組合の失敗、シュバリエ事件・・・。
だが、大気引火(地球滅亡)の可能性が計算では、ほぼ0%、つまり確実に起こらないとはいえない状況で、トリニティ実験を行ってしまう。間違えている可能性はあったのに。
そこには、どこか、彼がリカバリーができるという考える傾向があったように描いている。
実際に、リンゴも未遂に終わらせられた(失敗は裏返せば成功となる)し、ルールを破っても自分は特別であると思っていたし、不倫後も結婚生活は破綻しなかったので。
それは、周りの圧に押されていたから(6兆円を投入した超国家プロジェクト)でもあり、自分を信じてしまう自信過多のところがあったから。
だが、大気引火は起こらなかったが、原爆連鎖は置き、いつでも世界は滅びれる状態になった。
だが、ここでリカバリーできるという彼のもう一つの面が動き出す。
原爆開発、水爆開発に反対しようとする。
人間は間違えるが、リカバリーできるということが訴えられる。

 

この映画は、物事には二つの面があり、二つのことは同時にある、ということを見せる。
分裂と融合という二つの章を描くのもそうだが、聴聞会と公聴会を同時に並べて、オッペンハイマーの勝利と敗北を並行して見せる。
リンゴもアダムとイブの逸話(本当はマルメロだが)とニュートンの逸話で知恵の象徴でもあるが、童話では毒リンゴという印象もある。
核分裂と核融合は、中性子による、エネルギーを引き出すこととしては同じ。
原爆も科学の勝利と敗北であり、人間の英知と野生の証明になり、抑止力として戦争を失くすはずが新たな戦争を生み出す。
それは、オッペンハイマーが見る原爆の被害の幻視に特に表れており、歓喜の涙は悲痛な涙に見え、喜びで酔った男の反吐は放射線の影響に見える、賞賛の足踏みは地獄の行進に聞こえる。
時系列を操作したのも、mさにこのものごとが同時に二つ起きているのを見せるために並べるために行われているといえる。
ストローズはオッペンハイマーに賞賛と憎悪の両方を抱く。
それは、主観と客観という観測の状態としても提示される。
それにより、オッペンハイマーとアインシュタインの会話はオッペンからのアインシュタインと自分への揶揄であり、ストローズにとっては自分への侮蔑にとれるという一つの物事が二つの相反する面を持つように構成される。
これは、『ダークナイト』で悪と正義の相互関係や二つのフェリー、トゥーフェイスの存在、『インセプション』における夢か現実かどっちにもとれるなど、クリストファー・ノーランは幾度も語ってきたテーマでもある。
実験と理論。
科学者と軍人のタッグで開発が進む。
原子力と原子爆弾。
原爆は進め、水爆は止める。
原爆成功で持ち上げても、共産主義者として貶める。
原爆開発の責任はあるが、使用の責任はない(とトルーマン大統領に言われる)。
オッペンハイマーは現場の被害を実際には見てないが、幻視で見る。
過去と現在が並べられたり、カラーと白黒があるのもその一つ。
キュビズムの絵が写されるのも、同時に二つの面があることについての映画であることの提示。
そして、光は波であり粒であるという二つの性質をもつ。
量子物理学のネタである<シュレディンガーの猫>の箱の中で猫は生と死の二つの状態が重なっている状態というのを映画化したともいえる。
情愛と憎悪を同時に抱える様もそう。
一枚のコインは裏表がある。
この両面を同時に描くのは、映画の文法を拡大させた。
そして、この映画の賛否もまた二つの面と言える。


水と球(変形した球)がライトモチーフになっている。(これはそのまま、光の波と粒になっている)
水は、雨と波紋、池、絵の具、雨、ガラス、日焼け止め、風呂、水素・・・。
球は、量子、リンゴ、ブラックホール、原子爆弾・・・。
コップ、割れたコップ、帽子、齧られたリンゴ、乳房、丸眼鏡、キノコ雲・・・。
特に、最小の球である量子と地球という最大比較は、映画でもなかなかないライトモチーフの使用の仕方は凄まじい、

 

連鎖がテーマになっている。
核分裂が成功したら、爆弾へと連鎖していく。
その連鎖は、各国による原爆開発戦争になる。
そして、原爆は連鎖で爆発する。
それは大気引火の連鎖を起こすと思われる。
原爆所有戦争が起こる。
現代までその連鎖は続いている。

 

 

好みのセリフ。

「物理学300年の歴史のたどり着く先が、爆弾なのか?」

「ほぼ0」「0ではなく?」

 

 

ジーン・タトロックは、風呂に自分で頭を突っ込んで溺死(睡眠薬を服薬)しており、自殺と診断されているが暗殺という説もある。
(アメリカ映画では、たまにこの死に方に対するネタが出てくる)

 

デヴィッド・L・ヒルは、原作のノンフィクションには出てこない実在の人物で、彼がクライマックスにパンチを入れるので、原作者もこの脚色を高く評価した。

 

原作に書かれているのは、リンゴに仕込んだものはかなり毒性の低いもので、青酸カリではなかった。
しかも、見つかって叱られたそうです。

 

『ツイン・ピークス』の25年後を描く『ツイン・ピークス:リミテッド・イベントシリーズ』の『第8章 火はあるか?』で、トリニティ実験のシーンの描写があり、凄まじいシーンとなっている。これにより、悪(BOB)の誕生が起こる。
ドラマでは、その後、量子世界が数分に渡って描かれる。(これらをデヴィッド・リンチが一人で作り上げたという。リンチは何度か原爆や放射能について描いている)
今作の量子世界の描写は、こちらの影響もあるか。

 

 

スピーチするシーンで背景が揺れるのは、プロジェクションマッピングで揺らした映像を重ねて撮影している。

キリアン・マーフィーは、J・ロバート・オッペンハイマーの憔悴した見た目を維持するために、撮影中のほとんどを1日アーモンド1粒にして制限していたという。

 

秘書エイダ(演じたのはオールデン・エアエンライク)は、この映画の中で唯一の架空の人物だそう。

 

『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)を抜き、世界で最も興行収入を上げた伝記映画となった。
どちらにもラミ・マレックが出演している。

 

ニューメキシコ州アルバカーキにある国立原子力科学歴史博物館には、日本の被害の展示もある。

ロバート・オッペンハイマーが設立したバークレー理論物理学センターの現在(2023年)の所長は日本人の野村泰紀。

 

映画の序盤で、オッペンハイマーはT・S・エリオットの終末詩『荒地』を読んでいる。
これは、若返り、死、不妊、停滞、狂ったオフィーリアの入水自殺、人類の継続的な破壊などのテーマに触れた第一次世界大戦後の混沌とし​​た寓話である。
この詩は、都市全体、そして聖杯の守護。この映画は、詩と同様に春の雨のしずくから始まる。
ある章は、荒廃した世界に精製された火、閃光が渡り、雷鳴が響き、不穏な空気が迫る中、雨粒が打ち付け、打ちひしがれた男が海岸に一人で立っているところで終わる。
映画は、雨粒が落ちる波紋で始まり、池のそばで佇むオッペンハイマーで終わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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