【俺は好きなんだよ】第1440回は、『緑色の髪の少年』(1948)
原題は、『THE BOY WITH GREEN HAIR』。
『緑色の髪をした少年』。
製作国:アメリカ
上映時間:82分
配給:セントラル
スタッフ。
監督:ジョセフ・ロージー
製作:ドア・シャリー
原作:ベッツィ・ビートン
脚本:ベン・バーズマン、アルフレッド・ルイス・レヴィット
撮影:ジョージ・バーンズ
音楽:リー・ハーライン
出演。
ディーン・ストックウェル (ピーター)
ロバート・ライアン (おじいちゃん)
パット・オブライエン (Dr.エヴァンス)
バーバラ・ヘイル (ミス・ブロンド)
サミュエル・S・ハインズ (医師)
ドウェイン・ヒックマン (ジョーイ)
物語。
第二次世界大戦中のアメリカ、警察に保護された丸坊主の少年が、精神科医に話し始める。
ロンドンから両親から離れて暮らし、親族をたらい回しにされた少年は、遠縁のアメリカの老人に引きとられ、ようやく明るさを取り戻す。
ある日、戦災孤児の話とある事実を聞いた少年の髪は一夜にして緑色に変わってしまう。
最良の反戦映画の一本と数えられるカルト作。
戦争シーンがないこと、戦時中の国での人の反応だけで、戦争の愚かさ、人の偏見を描き切る。
大人が謎の子供の話を聞くという構造から、子供から大人まで、まさに全年齢へ向けて語られている。
ジョセフ・ロージーは、学生時代から演劇に傾倒、記録映画、ラジオドラマなどを経て、43年にMGMと監督の契約を結ぶ。が、第二次大戦のためチャンスを失い、48年にRKOの『緑色の髪の少年』で長編劇映画の監督デビューを果たす。
5本の作品(いずれも未公開のB級作品だが評価は高い)を残し、最後の『拳銃を売る男』で偽名での発表を強いられる。の完成後、赤狩りにひっかかり英国へ亡命。
その後、アナーキーな視点で『召使』、『銃殺』などを発表。
1967年の『できごと』でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を、1970年の『恋』でパルム・ドールを受賞。1976年の『パリの灯は遠く』はセザール賞で作品賞と監督賞を受賞している。
ハリウッドへは戻ることなく、異色作を発表しつづけた。
他にも『唇からナイフ』、『人形の家』、『暗殺者のメロディ』などがある。
当時、RKOのオーナーであったハワード・ヒューズは公開を咎めたが、製作者のドア・シャリーが退社を懸けて本作を救い、公開された。
夕陽の赤から始まり、二人の警官が動くと坊主の少年が現れる。この冒頭のシーンでこの映画がまっとうな演出がされていることが伝わる。
ネタバレ。
好みの台詞。
「何があったんだい?」「話すと長くなるよ」「長い話は好きだ」「信じないと思う」「信じられないような話も好きだ」
「なら、僕が生まれたところから話さなくちゃならない」
「おじいさんの仕事は?」「歌う給仕さ。歌う給仕は給仕とは違う。客が望む料理を届けるだけでなく、望む歌も届けることが出来るからな」
「昔、アイルランドで暗闇が禁止された。最悪だよ。昼と夜がわからなくなった」「どうなったの?」「廃止された」「どうやって?」「署名運動でね。だから、暗闇を悪く言うな。暗いところでしか見えないものもある」「暗いところでしか見えないものもある」
「いい顔つきをしてる」
「(牛乳配達夫が言う)勉強すれば、なんにだってなれる。おれは後悔してる。なにかなりたいものはあるかい?」「牛乳配達」
「晴れた日は釣りに行きたくなる」「雨の日は?」「釣りに行きたくなる」
「手品師は金を消せるけど、増やすことはできない」
「もうバットを持って寝なくてすむようになった。部屋にはあったけど」
「殺し合いは人間の本質よ」「そうなら殺されないように準備しなきゃ」「その本質こそを変えるべきなのよ」「とにかく準備はしておかなくちゃ」「思考法を変えなくちゃ、歩み寄れるようにしなくちゃ」「平和と理解し合うためには軍備が必要でしょ」
「すべてがもの悲しく、はっきりとしない。だから、緑のものをそばに置くんだ」
「彼女は緑を愛した。希望の色だ」
「パパとママが死んでいるのは知っていた。でも、旅行中だと思い込もうとしていたんだ」
「大人は心変わりするからな」
「何を診察するの?」「お前が素晴らしいところをさ」
「君は医学の歴史に残る」
「牛乳のせいか?」「水のせいだろう」
「君の髪が緑色なのが重要なんだ。その原因は戦災孤児だからだと君は言うことが出来る。そうすれば、人々はその言葉を聞く」
「その髪が牛乳のせいだと噂が広まっている。牛乳が原因ではないことは分かっているが、牛乳を買う客が減っているのは事実だ」
「髪が緑色だということは危険なんだ」
「分かった、切るよ」
「僕は眼鏡をかけているから馬鹿にされるのさ」
「もう大丈夫。これで普通の暮らしを送れるさ」
「温かい牛乳を飲んで落ち着くといい」
「彼が話そうとしたことを信じる」
「どうせまた、緑色の髪が生えてくるよ」
耳の裏まで洗えと言われていたことで、少年がユダヤ人なのが分かる。
ロバート・デ・ニーロが赤狩りに正面から立ち向かう映画監督に扮した『真実の瞬間』で、マーティン・スコセッシが演じるジョセフ・ロージーらしき監督が編集中の『緑色の髪の少年』らしき作品の完成をデ・ニーロ扮する映画監督に託し、赤狩りを逃れて英国に渡る展開がある。
ソフトは字幕が酷いバージョンがある。
楳図かずおの長編SF漫画『14歳』には、緑色の髪をした子供たちが出てくる。
倉本聰(脚本)の青い血の人々が出て来る『ブルークリスマス』も今作の影響下にあるのではないか。
体から植物が生えてくる少年の『ティモシーの小さな奇跡』やしっぽが生えてくる『パコダテ人』なども今作の系譜と言える。
特殊な髪の色にするなら、今作を基準にしなくてはならないほど素晴らしくなじんでいる。
坊主、黒髪、金髪、茶髪、赤毛、白髪、散髪屋、帽子など髪の色と人の違いを髪をモチーフにしている。
社会主義の脅威が囁かれ始めた頃に映画化されたこともあり、赤に染まることを描いているともとられたのだろうし、実際、それを主張している。