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俳優・勝地涼くんのこと。

『機動戦士ガンダム00』(1)ー31(注・ネタバレしてます)

2025-08-07 20:15:53 | ガンダム00

ヴェーダのバックアップを失って以降、とくにセカンドシーズンに入ってからのソレスタルビーイング、というかプトレマイオス2のクルーは大きく変質している。
以前のように守秘義務やら理念やらに縛られるところがほぼ無くなった。ファーストシーズンなら事情はどうあれ正規メンバーではないマリー(ピーリス)や沙慈を艦に乗せたり、ましてや支援機の操縦を任せたりなど考えられなかったはずだ(小説版ではアニュー・リターナーがプトレマイオス2に搭乗することになったさいその“ゆるさ”に戸惑い、「二名の非参加者を保護していた」ことにも驚くシーンがある)。
二代目ロックオンことライル・ディランディがカタロンの構成員なのも皆うすうす察しながらあえてはっきり問い正さず、そのくせラッセが「情報をくれたカタロンに感謝しなきゃ、な?」と意味ありげにロックオンに笑いかけ、ロックオンが苦笑しながら「言っとくよ」と応えるなど、もうはっきり言っちゃってもいいんじゃないのというレベルの“公然の秘密”状態になっているのも含め、ファーストシーズンでは考えられなような“ゆるさ”である。
守秘義務についてはすでにファーストシーズン最後の戦いを前にブリッジのクルーたちが「そういや、こんな風にお互いのことを話したのは初めてだな」「それは守秘義務があったから・・・。でも、今さらよね」などと語り合う場面ががあり、この時点でもすでにヴェーダの管理下から外れたことで、これまでの決まり事が彼らの中で急速に形骸化しつつあるのがうかがえた。
もう一つの「理念」についても、ファーストシーズンではタクラマカン砂漠での合同軍事演習やフォーリンエンジェルス作戦の時など、まず勝ち目はないとわかっている状況でも紛争根絶という組織理念のために逃げるわけにはいかない局面がたびたびあったが、セカンドシーズン冒頭では4年間もの雌伏をやむなく受け入れている。
この間にアロウズが台頭し中東諸国を初めとする地球連邦に異を唱える者たちに苛烈な攻撃を続けていたのだが、怒りに打ち震えつつも少なくともソレスタルビーイングとしてはっきり正体が特定されるような形での武力介入は行っていなかった。
ティエリアを除くマイスター3人のうち1名死亡2名行方不明、ガンダム4機はエクシアがGNドライヴとパイロットごと行方知れず、キュリオスはGNドライヴのみ残してパイロットごとやはり行方知れず、結局全機体1から造り直し、戦術予報士も失踪という状況では雌伏を選んで当然だが、その常識的判断を受け入れず“引くことは許されない”という理念を優先させてきたのがかつてのソレスタルビーイングだった。
しかも合同軍事演習とフォーリンエンジェルス(第二次攻撃)の両方で断固戦うべしと主張した張本人であるティエリアがいながら武力介入を見送り続けてきたのだから、いかにヴェーダの申し子のようだったティエリアとプトレマイオスクルーが軟化したかがわかろうというものだ(一方で、あまり緩くなりすぎてもまずいという危機感が働いたのか、ファーストシーズンにはなかった制服が導入されている)。

戦闘面においても、セカンドシーズンの方がスメラギの戦術プランはより冴え渡っている。戦闘能力において圧倒的に有利だったファーストシーズン前半、三国家群の連携及び疑似GNドライヴが国連軍に渡ったことで圧倒的不利になったファーストシーズン後半と違い、ツインドライヴと支援機オーライザーとのドッキングモードを得たエクシアの後継機ダブルオーガンダムを筆頭に戦力アップを果たしたガンダム4機+武装を追加し大気圏突入や海中行動も可能になった旗艦プトレマイオス2を巧みに運用し、物量で遥かに勝る国連軍の皮一枚上を行くかのようなスメラギの作戦の数々は実にスリリングだ。
これは圧倒的有利でも不利でもなくいい具合に戦闘力が均衡してきたからというだけでなく、ヴェーダの監修という枷が外れたのもあるのではないか。ファーストシーズンでも戦術プランはスメラギが考案したうえでヴェーダの承認を受ける形だったが、最終判断はヴェーダが行うことにより無意識にヴェーダの気に入りそうな優等生的プランに小さくまとめてしまってたのかもしれない。
スメラギの畏友であるカティ・マネキンは収監施設に捕らえられていたアレルヤとマリナを刹那たちが救出した際の作戦を「大胆さと繊細さを合わせ持つこの戦術、どこかで・・・」と思いを巡らせている。マネキンは合同軍事作戦以降の対ソレスタルビーイング戦にずっと参加しているが、彼女がソレスタルビーイングの戦術にかつての盟友リーサ・クジョウことスメラギの癖を嗅ぎ付けたのはこれが最初だ。この事実はファーストシーズンでの、ヴェーダの紐付きだったり状況が不利に過ぎたりする中ではスメラギの本領は十分に発揮されていなかったことを示唆しているのではないか。

(個人的には戦術予報士というか指揮官としてスメラギが最も格好良かったと思うのは、マリナを送るために海中をアザディスタンへ向かうプトレマイオスがホルムズ海峡でアロウズの新型トリロバイトに待ち伏せ攻撃を受けた際の「ラッキーね、私たちは」のシーンである。
絶対不利としか思えない状況下で、不敵な笑みとともにこの先の展開を完璧に予測して見せ、敵の直接攻撃で甚大な被害を受けたにもかかわらず、かえってそれが勝機に繋がる点を冷静に指摘して見事に劣勢を引っくり返してのけた。
読みの正確さ、それに基づくスピーディーな計画立案も素晴らしいがそれ以上に、「ラッキー」という表現と不敵な笑顔で、絶望に傾きかけていたブリッジの雰囲気を見事に塗り替えてしまった。味方を鼓舞し士気を高めた点で、戦術予報士としてより指揮官としての彼女の才が鮮やかに示された場面だ。
同時にまだソレスタルビーイングに本格復帰することをためらっていた彼女の完全復活を視聴者に一瞬で印象づけた名演出でもあると思う)

これ以外でもマリーという最適の人材を投入して微妙なタイミングを掴み、一気に攻勢に転じて畳みかけるような連続攻撃で敵本丸を見事に破壊した第一次メメントモリ攻略戦、あえて素顔をさらしての呼びかけでアフリカタワー付近の人々を救ったブレイクピラーなど、セカンドシーズンのスメラギは実に腹が座っていて格好いい。ヴェーダの助けが得られないぶん、そしてプトレマイオスごと最前線に出ることが多くなったぶん、皆の命を背負っているプレッシャーは増しているはずなのに。
ファーストシーズン以来の試練をともに乗り越えてきた、気心も能力もよくわかっている仲間たち(二代目ロックオンやミレイナなど新しい仲間もいるけれども)が一緒だから、彼らへの信頼がスメラギの精神を支えているのだろう。

スメラギに限らず、セカンドシーズンのプトレマイオス内部はシステマティックな統制によってでなく、“あいつならこう考えるだろう、こう動くだろう”という経験に基づく感覚、ごく人間的な阿吽の呼吸による連携で成り立っているように感じる。
ファーストシーズンでは出撃時のガンダム間での指示は最年長のリーダー格・ロックオンが担当していたが、後を継いだ二代目ロックオンはメンバーでは一番の新参となるため、誰かが指示出しをするスタイル自体がなくなった。皆戦闘時にはスメラギの指揮に、かなりの無茶ぶりであってさえ文句を言いつつも従っている。
スメラギが絶対者だから逆らえないのではなく、無謀に思えても彼女の判断が最も勝率が高いと経験によって知っているからだ。上下関係でなく信頼によって成り立つ組織――アニューを驚かせた「ゆるさ」の正体はこれであろう。
そしてそれはイオリアがソレスタルビーイングの面々に望んだものでもあり、ヴェーダは突然バックアップを(リボンズの造反行為にあえて乗っかってみせる形で)切るという荒療治を通してイオリアの希望に応えたのである。

こうして書いていくとヴェーダは全く欠陥のない、全能の神にも等しい存在と思えてくる。実際ヴェーダの端末は世界中のあらゆるコンピューター機器に入っているそうで、国家の重要機密から一般家庭の日常会話まであらゆるものがヴェーダによって把握されていることになる(その膨大すぎるデータを蓄積・分析できる能力もヴェーダは有している)。
エイフマン教授は自身が思いついたトランザム理論を紙のメモで書き残したが、ネットに接続していないコンピューターを使うのでなく手書きという手段を取ったのはコンピューターである限りソレスタルビーイングの監視網を避けることはできないとうすうす気づいていたからだろう。
改めて教授の慧眼が偲ばれるが、それでも「あなたは知りすぎた」認定されてしまった。教授のパソコンにこのメッセージが表示されたのはGNドライヴの原理についての研究を進め、小説版によれば「もう少しで特殊粒子の解明に手が届くところまで来ていた」時だ。
独自のトランザム理論をデジタルデータで残さなかった教授ならGNドライヴの研究にコンピューターを使う危険も承知していただろうが、さすがにこちらはデジタルデータなしでは難しかったのと、そもそも“あらゆるコンピューターはソレスタルビーイングの監視下にある”事実に気づく前にかなりの程度研究が進んでしまっていたため今さら隠してもしょうがない状況だったのだろう。
腹をくくって一刻も早くユニオンのため世界のため理論を完成させようとした(+科学者の性として理屈抜きで画期的技術の原理を知りたかった)が、ソレスタルビーイングの行動の方が想定以上にに早くかつ苛烈だったということなのではないか。

ところでエイフマン教授はトリニティの攻撃を受ける直前に「だとすれば、やはりイオリア・シュヘンベルグの真の目的は紛争根絶などではなく・・・」と考えているが、彼が見出した真の目的とは何だろうか。エイフマン教授の全てを見通す能力があるかのような立ち位置からすると彼の洞察は正解である可能性が極めて高い。
セカンドシーズンでリジェネ・レジェッタが初対面のティエリアに語ったところでは「第一段階はソレスタルビーイングの武力介入を発端とする世界の統合、第二段階はアロウズによる人類意志の統一、そして第三段階は人類を外宇宙に進出させ来たるべき対話に備える」というのがイオリア計画の全貌である。その後もたびたびイノベイドたちの会話に登場するこの第三段階の「来たるべき対話」=外宇宙生命体との遭遇と対応が教授の察知したイオリアの真の目的なのか。
彼はもともと早い段階からイオリアがビリー言うところの「紛争根絶なんていう夢みたいなこと」を始めた理由を「紛争の火種を抱えたまま宇宙に進出する人類への警告」ではないかと発言していた。そして教授はすでに劇場版で「意識を伝達する新たな原初粒子」とE・A・レイが説明していた「特殊粒子の解明に手が届くところまで来ていた」。
であるなら教授はリジェネがイオリア計画の全貌として語った中に含まれていないものを、イオリアの真の目的として発見していたかもしれない。――意識を伝達する性質を持つ特殊粒子が散布された領域内で、脳量子波による意識共有を行える人間、すなわち純粋種のイノベイターを造り出すこと。


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