goo blog サービス終了のお知らせ 

about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『カリギュラ』(2)-7(注・ネタバレしてます)

2009-02-21 02:56:32 | カリギュラ
・ケレアが現れた直後、カリギュラは衛兵に命じて松明に火をともさせる。
この炎によって舞台装置の雰囲気が代わり、実際の炎(のように見える)が赤々と燃えていることで、観客に新たに緊張感を抱かせる効果をあげている。

・「ぶしつけなことをしたな」とカリギュラはごくすなおにケレアに詫びる。これまで何かとケレアを侮辱するような態度を取ってきたカリギュラが、ここから始まる会話においてケレアを敬意を持って遇することの前振り。

・「少し話をしたい」といいながら、カリギュラはヴィーナスの鬘を取りスカートを脱ぐ。素のままにケレアと向き合おうとする気持ちを外見から示す。

・カリギュラはこれまでになくまともな態度でケレアに向かい、「同じ魂と誇り高さを持っているふたりの男が、生きているうちに少なくとも一度、心の底から話をするのは、可能だと思うか」と言う。
立場は敵対していても人間として尊敬している相手に言われたなら胸が震えるような名台詞ですが、カリギュラの態度にはケレアへの敬意が感じられるのに(衛兵に彼を呼ばせるにあたって「手荒な真似はするな」と注意を与えたところからしてすでにそう)、ケレアのカリギュラへの対応は率直ではあっても敬意は感じ取れない。
ケレアにしてみれば自分や多くの人間が割り切ってきた部分を割り切れず、割り切ろうともせずに抵抗を続け周囲に害を及ぼしているカリギュラは「手に負えない破れかぶれの子供」(※11)であり彼ら皆に恐怖を与えている暴君なのだから、尊敬の念は起こらなくて当然か。

・二人は階段の同じ段に腰掛けて話す。対等の目の高さで、でもはっきり正面から向きあうのでもない微妙な位置関係は、精神的に近しくも緊張感をはらんでいる二人の距離に似つかわしい。

・なぜ命を危険にさらすような発言をするのかと尋ねられたケレアは、「嘘がきらいなんです」と答える。
すでに反乱の証拠を握られたと気づいて覚悟を決めているとはいえ、実に率直な物言いは、第一幕第十場でのカリギュラの発言「おれは物書きは嫌いだ。連中の嘘にはがまんできん。」「偽りの認証をたてるやつらは嫌いだ。」への返答といえます。

・ケレアたちの反乱の証拠のタブレットを燃やすカリギュラ。それに先立って彼は「自己矛盾もしてみたい」「たまには矛盾するのも気持がいい」と言い、さらに「息抜きになる。おれには休息が必要なんだ、ケレア」と続ける。
この「自己矛盾」とはもちろん、その最高の権力をもって人の命を無差別に奪ってきたカリギュラが今さら反乱の証拠などを気にする、「おまえたちを証拠なしには殺せない、そう思ってみたい」などと言い出すことを指していますが、「どこまでも論理を追ってゆけ」と自らに言い聞かせたばかりのカリギュラがここでケレアを見逃し、さらには自分を殺すよう示唆さえすることをも意味しているように思えます。ここで殺されてしまえば結局月は手に入らぬままになってしまうのだから。
結局カリギュラは自分の論理に追いたてられて他人を傷つけ自分も傷つけ続けることにすっかり倦み疲れてしまったのでしょうね。三年前にはエリコンやセゾニアが休むように眠るようにと言うのを拒否したカリギュラが自ら「休息が必要なんだ」と言い出すのですから。

・「おまえの皇帝は休息を待っている」と言われたケレアは、驚いた顔になるが、崩れるようにカリギュラの足元に跪く。まるで「拝命に従います」とでも言うように。
戯曲だと「なにか仕草をしかけ」とだけあるので、見逃してもらったことへの屈辱を強く感じたのですが、この舞台では屈辱を感じつつもカリギュラの「自殺」幇助をすることを受け入れているように思えました。

・「この殺しには尊敬できる保証人がいる」からと、カリギュラ暗殺計画に参加するようシピオンを口説くケレア。
「保証人」という言い方からすると、彼はシピオンを立会人として欲していて実際に手を下させはしないつもりなのかもしれない。年若く純粋なシピオンを大事にしているのが感じ取れます。

・「今度ばかりはきみが要るんだ!」「きみにとどまってほしい」といつになく激しい調子でシピオンに迫り、彼の両肩をつかむケレア。
誰に対しても一定の距離を置くケレアが唯一他人の身体に触れる場面で、シピオンへの思い入れの強さを感じさせる。

・「それがぼくの不幸です」とケレアに背を向け手で顔を覆うシピオン。後姿が少しよろめくのに、彼の精神的な憔悴がよく表れています。

・静かながら思いつめたようにケレアはシピオンを見つめ、「あいつのせいできみはそうなった」と言う。
この台詞、どことなくエロティックに響きます。彼は現在のシピオンの精神状態をいびつな、痛ましいものと感じている。
ケレアがシピオンを見つめる視線には労わりと(彼を変えたカリギュラに対する)怒りがある。あたかも羽根をもがれ飛べなくなった天使をでも見るような。彼の視線と「そうなった」という言葉が、シピオンが精神的に「陵辱された」ことを突きつけてくる。
しかもその天使は自分の羽根を奪った男を憎みながらも愛することを止められず、ためにケレアの元を去っていこうとしている。
ケレアはそのことに動揺し、カリギュラへの怒りと嫉妬を隠そうともせずシピオンを繋ぎとめようとする。いわば一種の三角関係。
この三角関係を捉えているのはこの第四幕第一場が唯一であり、それがこの場面に他にはない艶っぽさをもたらしています。

・「ええ、あの人から教わりました、なにもかも要求することを」。言いながらシピオンは嘲るような、挑発的な表情をする。
言葉の内容と表情が、彼の「堕ちた天使」感をより強める。

 

(つづく)

※11-岩切正一郎訳『ハヤカワ演劇文庫Ⅰ カリギュラ』(早川書房、2008年)「訳者あとがき」。

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする