先日、戸建てを売却し、儲けがほとんどなかったと書きました。
入退去が短い期間に続けて発生したため仕方がないのですが、改めて、不動産投資シミュレーションにより、戸建て投資の収益性や、木造アパートとの比較について考えることにしました。
これまでおよそ6-7年不動産投資を続けてきてどういった費用がどれくらいかかるのかといったこともわかり、ある程度現実的なシミュレーションもできるのではないか。そして、本当にこれからも戸建が良いのか、1棟もの木造アパートはどうなのか、といった比較。さらに、期待される収益性が実現できるのか、実現するための条件は何か、も併せて調べたいと思ったからです。
また、こういったシミュレーションは、他にも掲載しているサイトはあったりしますが、ある特定のパラメータの変化だけを取り上げて計算するだけで、いくつかのパラメータ空間に対してある程度の網羅的な比較検討をしているものは見たことがありません。また、不動産会社のシミュレーションだと、その背景には物件を買ってもらいたいという思いが潜むことからパラメータや仮定が甘くなりがちだと思います。そういったバイアスをすべてなくして、客観的な視点でシミュレーションをしたい、というのも目的の一つです。
いきなり詳細な話になると分かりづらいので、まずは金額の推移から簡単に説明します。
◆木造アパートのシミュレーション結果
シミュレーションでは運用期間はすべて15年間とします。
以下は、この運用期間での賃料収入、NOI、税引前CF、税引後CFです。
- 賃料収入とNOIとの差は、管理費・保険・原状回復費・大規模修繕積立金等です。つまり、NOIとは賃料収入から各種経費を差し引いたものです。
- NOIと税引前CFとの差は、借入金の返済(元本および利子)です。
- 税引前CFと税引後CFとの差は、所得税・住民税の支払額です。
税引後CFが11年後7年後に大きく下がっているのは、この木造アパートの建物に対する減価償却がすべて終わったために税金が増えたためです。その結果、税引後CFは11年目7年目以降はほぼ0になっています。
なんとなく、イメージがつかめてきたと思うので、この計算で採用したモデルを説明します。
- 購入時の初期費用:司法書士報酬・不動産取得税・ローン事務手数料など(物件価格の3%)+登録免許税(100万円と仮定)+仲介手数料
- 運用時:管理報酬(家賃の5%+消費税)、入退去に伴う部屋の原状回復や空室期間の機会損失(物件価格*利回り*0.1)(※1)、火災保険や固定資産税(物件価格の0.4%)
- 大規模修繕積立金:物件価格の0.5%(毎年積立)
- 家賃下落:5年までは家賃変わらず。その後の5年間は元の家賃の95%、さらにその後の5年間は元の家賃の90%。
- 消費税10%、所得税・住民税33%、長期譲渡所得20%
- 売却時の費用:仲介手数料のみ。
- ローン:金利2.0%の元金均等払い。20年ローン。
- 自己資本率:1%~100%
- 売却価格:元の利回りに対して5年後は+0.5%, 10年後は+1.0%, 15年後は+1.5%で売却されると仮定。例えば、利回り10%の物件を購入した場合、15年後には11.5%で売却可能と仮定。5年ごとに減額される家賃を使って利回り11.5%となる価格であるため、購入直後の利回り11.5%よりも安い価格となる。
- 物件価格に対する建物価格の割合:50%
- 築年数:20年
- (購入時)物件利回り:6%~10%
(※1)これは、5年に一度、6か月のコストを見込んでいることになります。りも物件価格*利回り*6/12 が減額になります。この状態が5年に一度発生するならば、1年あたりでみると、物件価格*利回り*6/12 *1/5 = 物件価格*利回り*0.1 が減額になります。ここでは退去が5年に1回生じ、その結果6か月間空室になった、ということを仮定しています。あるいは、原状回復費用として家賃3か月分かかり、3か月間空室の末、入居が開始した、と考えても、コストとしては同じです。
赤い数字はパラメータであり、ここで示した数字を使ったモデルは標準モデルと呼ぶことにします。
これらの条件をもとに、15年間(物件購入時から売却時まで)のシミュレーションを行いました。
木造アパートの売却時期と売却額、ローンの残債、そして最終収益示したのが下のグラフです。
(残債は連続性のあるデータのため折れ線グラフとし、売却額や最終収益は、運用期間終了後に決まる額であるため棒グラフとしています。)
オレンジが売却額です。当初5000万円で購入した物件は15年後には4000万円ほどで売却されることになっています。
残債は緑の直線であり、返済と共に年々減少していきます。
そして、青は最終的な収益、つまりいくら儲かったか、という額です。建物の減価償却は10年ほどで終わりますが、収益の増加という点ではさほど大きな影響はないことになります。
次に、税引前のIRR、税引後のIRR(※2)、DCR(借入金償還余裕率)(※3) は以下の通りです。
(DCRは連続性のあるデータのため折れ線グラフとし、IRRは運用期間終了後に決まる額であるため棒グラフとしています。)
縦軸(左)はIRRに対するもの、縦軸(右)はDCRに対するものです。
家賃が減少することで、DCRは小さくなるものの、最後の段階でも1.4を超えているため、比較的安全です。
IRR(税引後)が8%を超えるのは10年後くらいであり、ちょうどそのころ建物の減価償却が終わり、所得税・住民税が増え、最終的なCFはほぼ0とはなりますが、IRRで見ると収益性としてはさほど悪化していないことがわかります。10年を経過しても、当然ながら家賃収入により残債の減少が続き、売却時のキャッシュを増やす効果になりますし、その儲けに対する税率(譲渡所得の税率)が20%であり、所得税・住民税33%よりも少ないこともメリットです。したがって、運用時のキャッシュは、10年を過ぎるとほとんどないものの、それだけの理由で急いで物件を手放す必要はないと思います。
ここまでで、物件購入から売却までのおおまかなお金の流れがつかめましたので、次は、物件購入時の利回りを6%-10%、自己資本の割合を1%-100%の範囲で変えた時に、IRRや最終収益/自己資本、DCRの値を評価してみます。
最初の家賃・築年数等で示したパラメータは先ほどのグラフで用いたパラメータでもあり、先ほどの標準モデルでの値ということです。
IRRのセルの色付けは、7.0-8.9%黄 9.0-10.9%緑 11%以上青。また、フォントの赤字はDCR<1.2の場合です。
最終収益/自己資本とは、物件売却で最終的に残ったキャッシュが、投下した自己資本に対して何倍となったかを示しています。直観的にはこちらの数字のほうがわかりやすいですね。0以上であれば最初に支払った金額(自己資本)が回収できたことになり、1.0以上の場合にセルの背景色を青にしています。
DCRの表を見ると、自己資本比率が10%以下では、利回りが10%でも1.2未満です。DCRが1.2以上であるためには、自己資本比率は最低でも30%以上必要になります。そして、自己資本比率が30%であったとしても、利回りが10%でIRRは7.8%8.4%です。もし、利回りが9%だと、IRR6.1%6.6%です。
私にとっての判断の基準は、今は、ある不動産会社の社債です。この会社の社債は不動産を担保とした社債と無担保社債の2種類あり、前者は配当5%(税引後4%)、後者は配当8%(税引後6.4%)で運用できます。つまり、税引後IRRはそれぞれ4.0%と6.4%になります。
したがって、多少のリスクがある資産運用であればIRRは6%以上は欲しいところ。不動産投資は、それなりにリスクの高い投資だと考えているので、IRRで7%が最低ラインだと私は考えています。これを下回るのであれば、不動産投資はしません。
その基準に照らすと、先ほどの木造アパートであれば、自己資本比率30%で、少なくとも物件利回りが9.5%となる物件でないと、IRR 7%を超えることができず、チャレンジするメリットは無いと考えています。
市場で築20年、物件利回り9.5%を超えるような木造アパートもあるにはありますが、ここで想定されているような、入居率95%前後(※4)を維持できるような物件はなかなか見つからないかもしれません。
また、物件利回り7%以上であれば、自己資本比率が減るとDCRは悪化しますが、収益性は向上します。これが普通の感覚ですね。しかし、物件利回り6%の場合を見ると、自己資本比率が低くなるにしたがって収益性も悪化しています。これは、借入金が多い分、借入金利息の支払いも多くなり、収益を圧迫するためです。
さらに、この表から、物件利回りが1%増えると、自己資本比率が100%の場合は0.7%ずつ、50%では1.2%ずつ、30%では1.75%ずつ、10%では3.6%ずつ増えていることがわかります。自己資本比率を下げる(レバレッジを効かせる)と、物件利回り1%の違いでも実際の収益性はそれ以上に変わるということですね。
まとめると、木造アパートの標準モデルの場合:
- 減価償却期間が過ぎても収益性には大きな影響はない
- 自己資本率は10%以下ではリスクが高い。
- 利回り9.5%が最低ラインであり、10%であれば検討の価値がでてくる。
- 融資を受けて物件を購入する場合、物件利回り1%の違いでも収益性はそれ以上に変わる。
次回は、モデルパラメータを変えた場合の収益性について議論してみたいと思います。
(※2) IRRは内部収益率
IRR(内部収益率)とは、投資の収益性を示しています。通常の利回りと違うのは、ある時点でのキャッシュを売却時の時の価値に置き換えて収益性を計算している、ということです。例えば、5年前の100万円と今の100万円では、同じ100万円でも5年前の100万円のほうが、5年間運用でさらに増やすことができるので価値がある、ということを考慮した収益性という意味です。
また、例えば元本がその会社によって保証されている社債では、元本償還の場合、その配当利回りとIRRの値は一致します。つまり、配当5%の社債であればIRRも5%になります。
(※3) DCRは借入金償還余裕率
借入金償還余裕率とは、どれだけ余裕をもってローンを返済できるかを示しています。所得税・住民税の還付・納入は、このDCRでは考慮していません。家賃収入から修繕積立金や管理報酬や各種経費を引いた金額をローンによる返済額で割っていますので、1.0だと余裕がありません。一般には、DCRは1.1以上が必須で1.3なら安心だと言われています。
(※4)このシミュレーションモデルが入居率95%前後である理由:
このモデルでは、5年に一度、空室3か月、原状回復費用家賃3か月分と想定しています。5年間で空きが3か月なので、3 / ( 12*5 ) = 5% より、入居率は95%になります。
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