サイエンス好きな男の日記

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不動産投資シミュレーション(木造アパートの場合のモデルパラメータによる影響)

2020-11-21 10:38:22 | 不動産賃貸業

前回、木造アパートの場合のシミュレーションモデルを説明しました。

今回は、その時のモデルパラメータをいくつか変えた場合の効果がどれほどかを調べました。

その際に重要なのは、どのパラメータの影響を調べるのか、そのパラメータの変動幅をどのように見積もるのか、という点だと思います。

パラメータの選択の基準は、自分でパラメータの値をコントロールできるかどうか。今回、金利や借入期間はすべて固定にしています。なぜなら、金利が低い、借入期間が長いことが収益にはプラスに働くことは自明ですし、それを自分がコントールすることは難しいからです。実際に物件購入時にはその時に利用できるローンの金利や借入期間を入れてシミュレーションを行うのですが、今回はすべて固定にしています。

パラメータの変動幅については、以下で個別に説明します。

 

まず、標準モデルの場合の結果は以下でした。(IRRやDCRでセルの数字が赤字なのは、DCR<1.2を示しています。)

自己資本10%以下ではDCR<1.2となりリスクが高い。一方で、自己資本が50%以上では収益性が悪くなります。したがって、投資の検討対象となりうるのは、自己資本30%ぐらいで、物件購入時の利回りは10%ぐらいとなります。

(1)修繕積立金の効果

このモデルでは、修繕費用として毎年計上しています。その費用の内訳は、

  • 火災保険や固定資産税として物件価格の0.4%
  • 空室による機会損失・入退去に伴う原状回復費用として物件価格*表面利回り*0.1 (これは5年に一度空室が発生し、空室期間3か月、原状回復費用家賃3か月分と仮定)
  • 大規模修繕費用として、物件価格の0.5%

ここでは、最後の大規模修繕費用として 0.5%の部分を 0%, 1% の2通りでシミュレーションを行いました。

具体的な金額で言うと、0%は大規模修繕の積み立てなし、標準モデル(0.5%)では年間25万円、1%では年間50万円を積み立てることになります。
年間だと大した金額ではないですが、例えば10年間では標準モデル(0.5%)は250万円、1%では500万円を外壁修繕等にあてることができます。
大規模修繕が必要な額は購入時の状況によって当然ながら大きく変わるわけですが、ここでは、上記の積立金額からわかるように、購入時にはある程度の修繕が行われていることを前提にしています。

結果は次の通りです。

大規模修繕費用の積み立てなし:

大規模修繕費用は標準モデルの倍:

投資として検討可能な条件である自己資本比率30%、利回り10%でIRRを比較すると、標準モデルに対して±1%であることがわかります。ただ、大規模修繕の積立なしというのはやや極端でもあるので、初回から、ちょっと甘く見積もってしまったかもしれませんね。

 

(2)築年数の効果

次に築年数の違いが収益性にどう影響するのかを調べました。築浅だと現状では投資可能なレベルの利回りを見つけることは非常に困難であり、また15年の運用期間では建物の減価償却も終わらず、収益性は悪くなってしまうため、除外しました。運用期間が20年でシミュレーションする場合には築浅も検討するべきとは思います。また、築40年とかになると、償却期間は非常に短くなり、また大規模修繕の必要性も考えられるため、除外しました。ここでは、築10年~30年として検討します。

築10年の場合

築30年の場合

DCRの値は築年数で変わらず、標準モデルと同じなので、割愛しています。

投資として可能性のある自己資本比率30%、利回り10%のIRRを比較すると、この場合も標準モデルに対して-1% ~ +0.5%であることがわかります。

築年数は建物の減価償却期間に影響します。築年数が10年、20年、30年の場合の建物の減価償却期間はそれぞれ18年14年、10年6年、4年です。
築年数が10年の場合、建物の減価償却が終わる前に売却されることとなり、節税の効果を十分に受けられていないことになります。築年数20年および30年ではどちらもいずれの場合も建物の減価償却は終わっていますが、築30年のほうが、築10年や築20年よりも減価償却期間が短いため、節税の効果を早い時期により多く受けることになります。つまり、トータルでは同じ節税の効果があったとしても、より早い時期に多くのキャッシュを得ることができるのであれば、そうでない場合に比べて、IRR(収益性)は高くなります。
また、築年数30年のほうがIRRが高いということは、建物の減価償却が終わり次第すぐに売る必要はないとも言えます。

 

(3)建物比率の効果

次に、建物比率(物件価格に対する建物価格の割合)の効果を調べました。

標準モデルでは建物比は50%です。したがって、この表の建物比50%は標準モデル(自己資本30%)と同じです。

築20年ぐらいであれば、建物比は30%-70%の範囲であることが多いため、利回り10%で確認すると、IRRは6.8%, 7.8%, 8.9%7.0%, 8.4%, 9.9%となっています。したがって、建物比率の影響は標準モデルに対して±0.5%±1.5%であることがわかります。

建物の割合が高いほうが、減価償却できる費用を増やすことができ、結果として節税につながります。ただ、売却時には、逆に減価償却した金額がまるまる譲渡益として計算されるため、その分譲渡所得が増えます。ただ、税率が33%の場合には、長期譲渡所得税20%よりも税率が高いため、建物の割合が高いほうが収益性が高くなる、ということです。建物の割合には、プラスとマイナスの効果があるため、標準モデルに対する影響度合いが比較的小さくなります。

 

(4)売却時の利回り増加分

次に、売却時の利回り増加分(購入時と売却時の表面利回りの差)の効果を調べました。

標準モデルでは売却時利回り増加分は1.5%です。したがって、この表の増加分1.5%は標準モデル(自己資本30%)と同じです。

例えば、標準モデルの場合、10%の利回りで購入した物件は、15年後に11.5%の利回りとなる金額で売却されたと仮定しています。
売却時利回り増加分が0.5%の場合、10%の利回りで購入した物件は、15年後には10.5%の利回りとなるわけでこれは11.5%とくらべて売却時の価格が高いことになります。よって、収益性も1.5%にくらべて0.5%のほうが高くなっています。逆に、売却時利回り増加分が2.5%の場合には収益性は低くなります。

建物の状態や市況によってかなり変わるものの、以前、楽待掲載物件のアパートの利回りの傾向から、築年数が比較的短いものは15年で2%、築年数が20-30年はそれ以下ぐらいの増加となっていました。そのため、15年後の物件利回りは、10%で購入した物件は10.5~12.5%の範囲というのは妥当な利回りだと思われます。その場合のIRRは標準モデルに対して±0.6%であることがわかります。

また、築年数20年の木造アパートなので建物の減価償却はすべて終わっています。したがって、ほとんどの場合譲渡益が発生(利回り6%、売却時利回り増加分3.5%は発生せず)しますが、それに対して長期譲渡所得税20%がかかってきます。

 

(5)家賃の効果

家賃が一定とした場合の収益性も調べました。

標準モデルに比べて、自己資本100%の場合は0.6%0.7%、自己資本50%の場合は1.0%1.1%、自己資本30%の場合は1.4%、自己資本10%の場合は2.1%2.3%ほど多くなりました。

自己資本30%の場合は標準モデルに対して+1.4%となったため、他のパラメータよりも影響が大きいと言えそうです。ただ、家賃が一定というのは条件としては、やや極端でもあるので、修繕積立金や築年数による収益性への影響は同程度かと考えます。

 

(6)所得税・住民税の影響

最後に、税金の影響を評価してみました。

標準モデルでは、所得税・住民税は合計で33%としていましたが、これを20%とした場合の結果が上記です。

例えば、標準モデルの自己資本30%、利回り10%では、IRRは7.8%8.4%でしたから、税率20%の場合は税率33%の時と比べて0.8%0.5%ほどの違いでした。最終収益/自己資本も0.1しか改善されませんでした。

不動産は税金との戦いだと言われますし、もう少し大きな差が生じるかと思っていましたが、そうでもありませんでした。

具体的な数字を示すと、物件価格が5,000万円の木造アパートでは、15年間で支払う所得税・住民税は、20%と33%とで、それぞれ380万円320万円と630万円520万円。その差は、250万円200万円。これだけを見ると、結構な違いがあります。しかし、そもそも税引前の最終キャッシュは1830万円ほどもあります。そのため、250万円200万円の差はたいしたことにはなりません。建物の償却は10年6年で終わるため、その間は特に支払う税金が少なく、その結果税率の違いがあまり問題にならないのでしょう。一方、RCなど償却期間が長いと、そうもいかないのではと思います。

 

まとめると

  • 家賃の変動、建物比率>修繕積立金>築年数>税率、売却時の利回り の順で収益性に与える影響が大きい。
  • 修繕積立金の影響が大きいため、大規模修繕が当面必要のない物件か、その費用を当初から見込んでおく。
  • 建物比率の影響も大きく無視できないため、購入時には建物比率がどの程度になるのか確認する。
  • 建物の償却がすべて終わった後で売却するべきだが、終わったからと言ってすぐに売る必要はない。
  • 建物比50%もしくは築30年ぐらいの物件で、自己資本率は30%、かつ利回り10%ぐらいの物件であれば、IRR 8% を獲得できそう。

 

(2020年12月29日 追記)
築10年および築20年の場合の耐用年数の値に誤りがあったため、修正しました。

 

 

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