詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

雨上がりに

2015年07月18日 | 
病を得たひとは
自分に割り当てられた小さな空間を
顔から消してしまった希望のかわりに
虚無で満たしてしまったが
十階の病室の窓から
ふいに自分を超越した者のように
眼下の街を眺めることができる

この日
日暮れのあたり
少しずつ薄墨を流して
ゆっくり掻き混ぜるように雲が動いて
誰かが押していく点滴の車の音に
紛れてしまいそうな遠雷を
ようやく聞き分けるとまもなく
固まった空気が動かし難い
クリーンなクリーム色に整えられた
こちら側から遠く隔てられた向こう側の世界を
雨風が黒く乱暴に塗りつぶしていて
建ち並ぶビルの間のまっすぐな道を
小さな人が傘をようやく持ちながら
歩いていくのが見える
その激しさが自分の上に降ることはもうないと
喉を掻き回すこともなくなった

けれど固まった空気さえぶるぶる震わせる
隠されていた怒りのエネルギーが
次々に破裂し始めると
キーボードを叩く指のように
稲光が街の上を這いまわり


彼の中に
どのような文字を打ち出していったのか
それともなんの文字も打ち出すことができなかったのか

すべてから切り離されてしまった彼が
渦中であってほしいと
なんらかの文字を打ち出してほしいと
勝手に願っているのは私で
むなしさも切なさも悲しさも
未来に向かっていることに初めて思い当たる

実際はカーテンすら開けず
もちろん稲光を見ることもなく
煮こごりの中に凝固したまなこだけだった
私だって明日をも知れぬ身だ
などと
言ってみたところで
未来を信じている眼の光は
きっと隠せない

ただ水たまりに映っているものを
揺らさないようにと思って
ううん、そうじゃなかった
ひとつ
ふたつ
固まってしまった景色を揺らす
波紋をおくりたくなって
そっと近付く
他愛のないことを
話しかけてみる
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