詩と写真 *ミオ*

歩きながらちょっとした考えごとをするのが好きです。
日々に空いたポケットのような。そんな記録。

イートインコーナー

2019年07月03日 | 
小さなケーキ屋のイートインコーナーで
様々な角度から大きなイチゴの乗った
カスタードクリームパイを眺めた後
ようやくあなたはフォークを口に運んだ

とても自由になりますでしょうね
あなたをきれいに型抜いて
外が暗くなり始めていた

サクサクした生地をまぶしてあるモンブランを
とっくに食べ終えていたわたしは
紅茶を飲みながら
路地の角にあるこのケーキ屋の
細い道を隔てた向こう側に建っている家を見ていた

雨や埃で黒ずんだコンクリートの壁
二階のこちら側は洗濯物を干す
屋上のようなスペースになっていて
鉄柵は三階にあがる外階段と同じように赤錆びていた

子どもの頃よく訪れた海の家の町
海岸をぐるりと囲むように
ひな壇式に建っている家々の中に
そんな家があったような気がして

見えている景色の中で
ケーキ屋の斜め向かいの家がその同じ家で
波が寄せたり引いたりする中で
潮にざらざらとなだめられ
見えない景色の中で
変わらず何十年も
同じ場所に建ち続けているような気がした

でも世の中一般の
網の目に刈り取られた齧歯類は
とてもよくひっかかります
その様子は点でつながれた
山から見える海沿いの町の夜のようです
そうですね、よくわかります

ようやく食べ終えたあなたは
今度はケーキが乗っていた金色の厚紙容器を手に取り
様々な角度から観察を始めた

ですが
頭の中のどこか
襞の間に隠れているはずの景色のために
何十年かかってもいい
ふさわしい縁飾りを彫り上げることができるなら

最後までしがみついていた
オレンジ色の光が
斜め向かいの家の三階の縁を
ついにつかみ損ねて
建物の形を見届けるのは
実体を失った光の残滓だけになった
それは青みがかった緑色に見えたが
何色と呼ぶべきなのか
目を凝らすほどにわからなくなった

口の形や喉の太さなどで
見えない声が似てしまうように
きっと思い出すことができると思うのです

わたしはあなたの隣のテーブルに座っていて
まだ紅茶を
形だけで飲んでいた
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