時事解説「ディストピア」

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NHKの歴史秘話?ヒストリア「富岡製糸場」

2014-05-22 00:04:42 | マスコミ批判
「明治の青春」という副題で本日、放送されていました。

明治初期の製糸場に1年間勤めた和田英の日記をもとに、
明治の女工がキャリアウーマンであるかのように説明されていました。


明治といえば聞こえは良いですが、要するに大日本帝国の時代です。
慰安婦や南京事件、集団自決などの戦争犯罪の隠ぺいは知っていましたが、
こういう所でも地道に工作活動をしていたのですね。敵ながら天晴れ。


http://cicadan.blog111.fc2.com/blog-entry-45.html

富岡製糸場について私が言いたいことは、ほとんど上のページで語られているので
この記事では、上記サイトで触れなかったことについて考えてみようと思います。



①歴史の語られ方について


ある人がギャンブルをしているとします。10回でワンゲームです。
このゲームでは、勝った場合、10万円、負ければ15万円、
手元から失うとします。この人の所持金は50万円です。


最初の3回までは、勝ちました。30万円の儲けですね。
途中からは2回勝ち、3回負けました。25万円の損失です。
最後の2回は負けました。30万の損失になります。


計算をすると、10×3+10×2-15×3-15×2=30+20-45-30
                    =20-45
                    =-25

結果的には所持金がゲームをする前の半分になったわけです。


さて、この出来事をこのように表現してみる。


「私はゲームに弱いというイメージが強いようですが、
 10回のゲームのうち、半分の5回は連続で勝っていたんです。
 勝率は50%だったんですよ。これはかなり高いと思いますがね」




「おかしい」と思ったそこのあなた、正解です。
 5回勝ったところで、5回負けたことも事実。「敗率」も50%です。
 そして、所持金が半額に減ったという最大の事実を考えれば、
 やはりこの男はゲームに弱いと考えられても仕方ないでしょう。
 (第一、本当に強い男は負けのリスクが高いこのゲームには参加しないはず)



少々(かなり?)特異な例を挙げてしまいましたが、
製糸工場の歴史の語られ方がまさにこれで、
肝心要の事実が語られず、美談ばかり強調されている。



明治の経営は紳士的だったというのは、ごく短い期間のことにすぎません。
和田英の就労期間がわずか1年(!)だったことからも想像がつくでしょう。


製糸工業の歴史をひもとけば、その大部分は『女工哀史』の世界であり、
低賃金、長時間勤務、不衛生な環境に支配された奴隷労働の世界だったのです。


・・・などと書くと、日本だけが悪いような気がするのですが、
実は、欧米の製糸工場(Cotton mill)でも奴隷的な搾取労働がされており、
20世紀初頭前後で、社会問題となり、多くの市民運動家が改良を唱えています。



アメリカの場合は、特に女性と少年の労働が問題視され、
州や連邦政府も事態改善に専念しています。もっとも、私はこの改革自体、
労働力の確保ということを考えれば、一見、温情主義的行為でありながら、
実のところ、女性や年少者を国家が望む職へとチェンジさせることだった
のではないかと疑っています(国益に沿った範囲内での改革)。


ともかく、製糸工場の歴史というのを、世界を視点にして見ると、
経済発展に必ず伴う経済的弱者への一種の暴力行為がなされ、
それと引き換えに国家の発展が遂げられた歴史と言えるでしょう。



これは現在、急速な経済発展を遂げている諸国、
たとえば皆さんの大好き(?)な中国でもそうです。

言ってみれば、世界史の法則です。

とするならば、やはり私たちは現代に生かすためにも、
富岡製糸場の負の歴史、明治中期以降の同工場の歴史も伝えるべきです。


女工哀史を否定して初期の美談を強調する歴史は、
結果的にギャンブルに負けたことに触れず、
途中まで勝っていたことだけに言及する行為と同じです。


※ちなみに、細井和喜蔵の傑作『女工哀史』は大正期の女工を描いたものです。
 よく「女工哀史のイメージが強いけど~(実はそうじゃない)」という詭弁を
 聞きますが、和田英の時代と和喜蔵の時代はズレがありますから違うのは当然。


 むしろ、この手の言葉は明治中期以降の実態を
 初期のイメージで上書きさせようとする姑息な手口だと言わざるを得ません。

 (初期ファミコンが現代のテレビゲーム機の主流だと言うようなもの)


 女工哀史では、女性労働者の歴史を3期に区分し、
 それぞれの期間の特徴を説明する構成になっています。

 本来は、このように初期・中期・後期と分けて説明すべきです。



②女工と慰安婦の共通点


 実は、募集の際に詐欺的な手段をこうじたという点で、
 慰安婦と女工は全く同質のものであったりします。



勤務内容や実態を教えないまま美辞麗句で騙すようにして契約させるのは
慰安婦制度に通じますし。契約の際に借金をさせて逃げられなくする手口は
日本の公娼・私娼制度と同じものです。


逆を言えば、国内の女性労働者(娼婦を含む)に対する
明治以降の詐欺的手段のノウハウが慰安婦の募集・管理においても
活用されたということにもなります。この点は非常に重要です。


もちろん、より詳細な検討をしなければ、定説にはなりませんが、
すでに慰安婦制度が過去の公娼制度を継承したものだという説があり、
日本の女性差別の歴史のなかに、女工哀史は位置づけることが可能でしょう。



③女工哀史否定論の支援


ネットでは、富岡製糸場の世界遺産を巡る動きに反応して、
女工哀史の内容まで否定しようとする工作がかけられています。


小林多喜二の『蟹工船』の内容まで否定する人まで出現している。
同作は同時期の蟹工船の実態をかなりリアルに描写したもので、
決して誇張した内容ではないのですが、たぶん極右本でも読んだのでしょう、
「本当は~だった」と嘘八百を並びてている始末です。


なぜ、こういう行為が起きるのかなと彼らのコメントを読んでみると、
要するに、美しい日本の誇らしい歴史を語りたいようです。


この手の歴史を美化する動きは
明治や大正にも多いけれど、それは百害あって一利なしです。


アメリカにも、ポカホンタスのようにイギリス人と結婚した
インディアンの美談を強調して肝心の、彼らインディアンの
領地を奪いながらアメリカという国家が発展したという事実を
故意に隠す愛国者がいますが、どうやら日本にもいるようだ。


こういう矮小な連中を調子づかせることを、
ヒストリアがやったという自覚は製作サイドにはたぶん無いと思います。


しかし、仮にも受信料を強制的に奪って番組を流しているのですから、
多少は社会的責任というものを感じたうえで行動してほしかったですね。