不定期連載SF小説 「座礁」
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警報が鳴った。
「ジェットカーが追ってきます。コースを変えてもぴったりと」
「リーレイレイはしつこい」レンが苦笑した。
「アビィ、追跡機を振っ切れ」
「いや、むりだ」
レンが艇内を見回す。
「これじゃあね、もうぜんぜん。性能は向こうが上。はるかにずっと上」
「そうかい。向こうはおまえさえ返してくれたら文句はないとさ」
「まあ、そういうことさ」
レンは横に来て、自分の襟元をつかみ、のばして見せた。
「ぼくのここんとこにマイクロチップが入ってる。会社との契約で
発信機がチカチカってね。どこに逃げてもやつらにばれてる」
「アビィ、減速して窓を開けろ。こいつをおっぽり出す」
「待った、待った」
レンはカバンを差し出した。
古い友人に向けるような愛想のいい笑みを浮かべている。
「きみを信じる、クレイ・シン。
きみにこれを預けるから、ぼくをD区で降ろしてくれ」
「D区だって」
レンはうなずいた。
「ご存じのとおり認定ぎりぎりの区だ。そこの横丁に知り合いが
いる。
かなりメタボリックなやつだが、とびきり優秀な外科医でね」
「そこでチップをとってもらうって算段か」
「ご名答」
「じゃカバンは自分で持ってろ」
「ああ、いや」
レンはカバンをシンの横に置いた。
「悪い可能性がないこともない……ひとつめ、外科医が失敗してマイクロ
チップがあらぬ動きをし、ぼくの身体がこっぱみじんになる可能性。ふた
つめ、外科医に診てもらう前にリーレイレイにとっつかまる可能性」
シンは鼻先でふんと笑った。
「よほど危険な仕事につかされていたんだな」
「つかされていたわけじゃない、自分で選択したんだ」
シンは横目でちらりとカバンを見た。
あちこち黒く汚れた、年季の入ったかなりくたびれたカバンだ。
「中身は何だ?」
「ぼくが作った発明品」
「言いたくないのか」
「まあ、とにかく金にはなる。かなりの金に……いや、何人も救う
ことができる。もしかしたら何百人、何千人―――」
「開けてみろ」
「無理だ、鍵がない」