goo blog サービス終了のお知らせ 

ネコ好きSENの洋画ファン

ワン5ニャン9と共棲。趣味は洋画と絵画。ライフワークは動物・野生動物の保護救済、金融投資。保護シェルターの設立をめざす

座礁6

2015-04-16 12:07:53 | 小説はいかがでしょう★

 

 

不定期連載SF小説 「座礁」

 

 

 

 

 

 警報が鳴った。

 

「ジェットカーが追ってきます。コースを変えてもぴったりと」

「リーレイレイはしつこい」レンが苦笑した。

「アビィ、追跡機を振っ切れ」

「いや、むりだ」

レンが艇内を見回す。

「これじゃあね、もうぜんぜん。性能は向こうが上。はるかにずっと上」

「そうかい。向こうはおまえさえ返してくれたら文句はないとさ」

「まあ、そういうことさ」

 

レンは横に来て、自分の襟元をつかみ、のばして見せた。

 

「ぼくのここんとこにマイクロチップが入ってる。会社との契約で

発信機がチカチカってね。どこに逃げてもやつらにばれてる」

「アビィ、減速して窓を開けろ。こいつをおっぽり出す」

「待った、待った」

 

レンはカバンを差し出した。

古い友人に向けるような愛想のいい笑みを浮かべている。

 

「きみを信じる、クレイ・シン。

きみにこれを預けるから、ぼくをD区で降ろしてくれ」

「D区だって」

 

レンはうなずいた。

 

「ご存じのとおり認定ぎりぎりの区だ。そこの横丁に知り合いが

いる。

かなりメタボリックなやつだが、とびきり優秀な外科医でね」

「そこでチップをとってもらうって算段か」

「ご名答」

「じゃカバンは自分で持ってろ」

「ああ、いや」

 

レンはカバンをシンの横に置いた。

 

「悪い可能性がないこともない……ひとつめ、外科医が失敗してマイクロ

チップがあらぬ動きをし、ぼくの身体がこっぱみじんになる可能性。ふた

つめ、外科医に診てもらう前にリーレイレイにとっつかまる可能性」

 

シンは鼻先でふんと笑った。

 

「よほど危険な仕事につかされていたんだな」

「つかされていたわけじゃない、自分で選択したんだ」

 

シンは横目でちらりとカバンを見た。

あちこち黒く汚れた、年季の入ったかなりくたびれたカバンだ。

 

「中身は何だ?」

「ぼくが作った発明品」

「言いたくないのか」

「まあ、とにかく金にはなる。かなりの金に……いや、何人も救う

ことができる。もしかしたら何百人、何千人―――」

「開けてみろ」

「無理だ、鍵がない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


きみの首輪を外してあげる・5

2015-03-25 12:06:39 | 小説はいかがでしょう★

 

 

 

 

 5

 

 

テーブルに置かれた料理は新鮮な野菜や海鮮ものばかりで、

ベジタリアンな母親は肉を食さず、息子も自然とそうなっていた。

 

ホタテのトルネードを切っていた慶介はふとフォークの手を止めた。

「部屋に番号をかいた紙があったけど、あれって何の意味?」

「えっ?」

「部屋にあっただろう、B5の用紙に数字が書いてあって」

 

母親はワイングラスを唇から離した。

 

「ああ、あったわね。なにかしら、知らないわ。……捨てちゃったけど」

「意味なしか」

「あなたは何番だった?」

「8」

「8? わたしは……たしか34だったわ……もしかしたら年齢かしら。

きっとそうよ、年齢に合わせた部屋作りをしてくれたんだわ」

「ぼくはどう見たって8歳には見えないよ。母さんだって―――」

「失礼します」

 

紺色の制服に白いエプロンをつけた霧亜が入ってきた。

両手にトレイを持ち、料理をのせた大皿を運んでいる。

長い髪を結い上げてポニーテールにし、歩くたびにふんわりと左右に揺れ、

その顔がまた愛らしくて、慶介はフォークを宙にとめたまま見惚れた。

 

細い腕、ほっそりとした脚、こんなふうに働かせるのが気の毒なくらいだ。

慶介はなにか優しい言葉をかけてあげたくなったが、皿の上の甘いチョコ

レートケーキを見てげっぷが出た。

 

「デザートでございます」

「ぼくはコーヒーだけでいいよ」

「そう言わないの。一之瀬さんがわざわざ生地から作ってくれたんだから

ちゃんと全部お食べなさい」 

母親が目を細めた。

 

「はいはい、わかりました―――きみは食べたの? 霧亜」

 

霧亜は困った顔になった。

 

「わたしは……後で、後で食べますので……」

「それじゃぼくの分をあげるよ」

「いえ、わたしのぶんは他にあります。ありがとうございます、慶介さま。

わたしなんかのために気を遣っていただき……」

「おおげさだな」

「それでは失礼します」

 

霧亜は深く頭を下げた。

 

「ああ、ちょっと待って。このへんに子供がいる? ぼくくらいの男とか」

 

慶介の呼びかけにメイドが立ち止まって振り返った。

 「子供……」

「どういうことよ、慶介」

母親が眉根を寄せたので慶介は窓越しに見たことを話した。

 

「いやあね、レイプじゃないでしょうね」

「まさか、ふざけていただけだろう、きっと追いかけっこをしていたん

だよ」

「どうなの、霧亜」

 

霧亜はためらっていたが、しぶしぶ認めた。

 

「ときどき、そういうヒトを見かけたことはあります。でもあのヒトたちには

あのヒトたちの住空間がありますから、この敷地の中に入ってくることは

ありません。絶対に入ってきません。わたしが保証します」

 

あんたに保証されたって―――母親はふうとため息をついた。

 

「浮浪者がいるなんて知らなかったわ」

「これからすぐ見回りをしてきます」

「きみが?」慶介は驚いた声をあげた。

 

霧亜は一礼すると回れ右をして扉の向こうに歩いて行った。

その姿を見送っている息子に夫人は音を立ててケーキを切った。

 

「きれいな子よね。わたしが若かった頃によく似ているわ」

 

慶介は肩をすくめた。

 

「気があるの?」

「べつに」

「使用人に気安くするのはおやめなさい。あの子が迷惑するだけよ」

「こっちに誰も知り合いがいないからさ」

「学校に行ったら友だちができるでしょ」

「学校か」

「選ばれた子供たちだけが通える学校よ。途中入学は認めないのに、

無理を言って入れてもらえたんだから」

「金で無理を言わせた、だろ」

 

慶介は席を立ちたくなったが女主人の食事が終わるまでそれはできず、

ちぎったパンを口に運びながらも下半身に熱いものを感じていた。

 

 

 

第6話に続く

 

 

 


不定期連載小説「きみの首輪を外してあげる」・第4話

2015-03-23 12:11:52 | 小説はいかがでしょう★

 

 

 

  3

 

 

 

慶介は自分の部屋に行き、カバンを放って勢いよくベッドに飛び込んだ。

キングサイズの輸入ベッドで、スプリングが効いていて跳ね返ってくる硬

さが気持ちいい。

一息ついて見渡せばなんとも広い部屋だ。

机、左右に本棚、チェスト、すべてマホガニー質の高級品。

しゃれた縁取りの窓は大きく、左右に開かれた向こうに広々とした敷地が

見える。

緑色の芝生が日差しを受けて黄金色に輝いている。その先端は細くやわ

らかく、溶け込むように萌えている。

 

公園くらいあるんだな。馬も飼えそうな屋敷じゃないか。

父さんはこんなところに一人で住んでいたのか。

 

ふと見ると、窓辺の横手、チェストに置かれたベネチアングラスの下に紙が

はさまれている。

二つ折りにされていて、開いてみるとマジックの黒い字で「8」と書いてある。

 

「8?」

 

慶介は紙を裏にしたり表にしたりして見た。

なんだろう、ホテルみたいな部屋番号かな。

 

そのとき小さく悲鳴が聞こえ、慶介は視線を窓の向こうにもどした。

少女のような声だった。

見れば敷地の外の、こんもり茂った雑草が揺れている。

一直線に、すばやく雑草を左右に分けながら走っていくが、

後からもっと大きな何かが追いかけてきて、たちまち先の動きに追いつくと、

それは静かになった。

慶介は目を凝らした。

かすかに心臓が鳴るのを感じながら。

 

風に揺れ、雑草がなびいた間に何かが見えた。

乱れた髪、焼けた肌、しなやかな筋肉のついた腕―――人間?

振り返った相手は慶介が見ていることに気づくとすぐさま身を低くし、

雑草の中に隠れた。

 

 

 

 

 

 

 第5話へ続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


座礁5

2015-03-15 23:16:59 | 小説はいかがでしょう★

 

 

座礁

 

 

 

 

 

「シン、くるわ!」

「わかってる」

 

シンはスキャナーでミサイルを追った。

この前さんざん迷った挙句、修理屋のおやじの口車に乗って、やはり最新

モデルにアップグレードしておこうと、それを実行した自分のまれなる幸

運に感謝した。

ロックオン、

飛び出した弾が目前で花火のように広がる。

ミサイルは爆音を立てて吹っ飛び、その衝撃に船体は激しく揺れ、レンは床

にひっくり返った。

「あてててててて!!!」

 

飛行艇は発進し、しなやかな動きで上空高く舞い上がった。

スキャナーの中の赤いドットが小さくなり、数秒で消えた。

 

「河合のおやじの、あんたに損はさせないよ、は本当だったな」

シンはふうと息をついた。

「アビィ、修理にどれくらいかかる?」

「期間ですか? それとも費用?」

「どっちも」

「河合修理工場であれば、土日休業を入れて五日間、費用は

780万円プラス消費税」

「ナ、ナナヒャク、ハチジュウ……」

 

シンは振り返って倒れているレンを見た。

「大丈夫か?」

「なんとか生きてる」

「修理代をあんたに請求してもいいよな、ミスタートリプルA。

なにか反論はあるか?」

「もちろんあるとも」

 

レンは手をついて立ち上がり、ズボンのほこりを払った。

 

「ぼくはすぐ逃げるように提案した。レイレイはきみが何とかできる相手

じゃないとも言った。

貴重なアドバイスを無視したのはきみだろう」

「ほう」

「だが、きみが全面的に悪いとまでは言えない」

「あんたの年収からすればはした金じゃないか」

「OK、カードで払おう」

 

レンはEXカードをだし、あれ、と言って指先でかざした。

 

「使用が停止されている。ぼくが逃げのびたことをレイレイが通報したん

だな」

 

レンはにやついた顔であごを撫で、それを見てシンは片眉をつりあげた。

 

「使えなくなると知っていたな」

「何のことかな」

「それでは最初の場所にもどって降りていただきましょうか」

「えっ、いやだな。そう冷たいことを言わないで」

 

レンはジャケットのポケットに手を突っ込んだ。

 

「少しなら持ってる……ああ、ほらこれ、キャッシュで7万円ほど」