不定期連載SF小説 座礁
7
古い皮カバン、金メッキを塗った留め金も褪せている。
シンは目を細めてあきれ顔になった。
「よかったらおれが開けてやろうか?」
「無理に開ければ中のものが壊れる。とてもデリケートなんだよ、
きみと違って」
レンはジャケットの袖をめくって腕時計を見た。
「時間がない。今後きみとどうすれば連絡がとれる?」
「よしてくれ」
「直接アクセスできるかな?」
「逢う気なんかないね」
ボイスが鳴った。
「D区に入ります」
「アビィ、速度を落とせ」
「落とすな、追いつかれる!」レンが叫んだ。
「金を払えば機嫌を直すのか?」
「その可能性は……おまえのそれ、女に言うみたいなセリフだな」
「わかった、OK。そんじゃ五日後に【オール・シングス・グッド】で逢お
う。D区の繁華街にある店だ」
「オール、シット……」
「【オール・シングス・グッド】だ。ミュージシャンのいるライブハウスだよ。
いや、まあ、とりあえずそういう看板だけど、扉の向こうはストリップとイカ
サマ師だらけのカジノになってる」
シンはヒューっと口笛を吹いた。
「最高の社交場か」
「D区に真っ当なやつはいないって? そういうこと」
レンはシートに手をつきながら後部に移動し、指先で壁を撫でるように
してサブユニットの在り処を確かめている。
「おいおい、ヒトのものに勝手にさわるなよ」
「その店にミンダミンというやつがいる。カバンを見せれば、好きなだ
けの金を払ってもらえるだろう」
「ほう」
シンはシングル銃にかけた手を放した。
「だったらもうおまえに逢う必要はないな」
ユニットのキィロックがはずれ、レンはふりむいた。
「シン、ぼくにはきみが必要だ」
「ご利用ありがとうございました」
「忘れるなよ、五日後に―――」
「リーレイレイが接近中です」
レンはレバーをひいてサブユニットに飛び込んだ。
一人用シート、腰を入れると即座に電気系統が点滅し、スタートボ
タンが点いた。
「逃げ足だけは準備を怠らないってことかな」
サーキットが流れてエッグ型ユニットは宙に放り出された。
しばらくきりもみ状態でころがった後、水平になり、勢いよくジェッ
ト噴射した。