不定期連載小説・その2
「寮母の鈴木さんだ、彼女が部屋に案内してくれる。荷物を置いたら、書類を持ってわたしの部屋にきなさい」
ぼくが降りると車は車庫のほうに向かって動きだし、にこにこ顔の寮母が前にきた。
「こんにちは、はじめまして。森瀬くんだったわね。わたしのことは校長先生から聞きましたでしょう」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃ、まずお部屋ね」
彼女は荷物を手伝おうとしたけれど、ぼくはそれを断って自分で持った。
「とりあえずレディファーストってわけ?」寮母はくすくす笑った。「それにしても大きなカバンね。ずいぶんと勉強家なのね」
「いえ、あの、ぜんぶ服です。そうそう洗いに出せないと思って、着替えをたっぷり」
「おしゃれさんね?」
ぼくは愛想笑いを浮かべた。笑いたくなかったけど、なんとか楽しい雰囲気を作ろうとしている彼女の気持ちをくんで。
並んだり、前後ろになったりして、校舎の横を歩いていく。
溶け落ちた雪から芝生の緑が顔を出し、踏みならされた道はだいぶ歩きやすい。
今日は休日だけど学校に残っている生徒が多いということかな。
敷地はどこも塀が張り巡らしていて、もう逃げだせない、ここにいるしかない。
どっちにしろ、ぼくにはいくところがない。
「校長が自分で迎えに行くなんて信じられないわ。あなたは特別待遇なのね」
「さっきの人? あの人が校長先生だったのですか」
嫌そうな顔をされなかっただけましか。
「特別待遇だなんてとんでもない。ぼくの後見人がこの学校の出身で、校長と知り合いなのだそうです」
「あら、そうだったの」
「知り合いといっても校長先生にとっては、なぜ、自分が、という気持ちだったかもしれません。
彼の在校中、校長は教師だったそうですが、習ったこともなければ口をきいたこともないそうで」
ぼくをどこかに預けたくて、引き出しから名刺入れを取り出しては片っ端から電話をかけていた彼の姿が思い浮かんだ。
「わずかなつてを頼りに、ぼくを預かってくれるならどこでもーーー」
「ええっ?」
「ぼくにとって最良の環境だということで」
前近代の遺物のような寮にあがりつつ、階段はきしみ、廊下はすき間風にさらされている。
火のついたマッチを落としたら、あっという間に全焼するかも。
シャワー室、レストリーム、あれだこれだと案内され、
細胞よろしく同じサイズのドアが続き、ようやく目的の部屋にはいると、ベッドが二つ、左右におかれている。
それぞれの壁に机があり、小さな棚がついている。
「あら、ミッチィは図書館かしら。今週も家には帰っていないはずだから」
「相部屋の人?」
「そう、すごくかわいくて、この学校のアイドルみたいな子よ。でも」
寮母はぼくを見つめた。
「あなたもいい勝負ね」
「なにが?」
「きっと上級生が騒ぐわ。ミッチイ目当てに忍び込んでくる上級生が絶えないけど
あなたもそうなりそうね。やれやれだわ」