アガサ・レーズンの困った料理―英国ちいさな村の謎〈1〉 (コージーブックス) | |
M.C. Beaton,羽田 詩津子 | |
原書房 |
世の中には無数の本があります。和洋の古典、哲学書、ドキュメンタリー、
実用書、辞書類、そして小説。その小説だって、大衆文学と純文学とか、
いろんなふうにジャンル分けされますが、そのうちの1つに推理小説とい
うのがあります。そしてそれも、本格物とかハードボイルドとかサスペン
とかいろいろに分けられ、その端っこにコージー・ミステリーなんていう
のがあります。「お気楽ミステリー」とも言えるでしょうか。主人公はたい
ていすてきな女性で、男に苦労しながらも、カフェかレストランを経営し
て、元気に生きている。結末はハッピーエンドと決まっているので、深遠
な思想も人生について考えさせられるような深さも一切なし。途中に出
てくる美味しそうな食べ物やお菓子を想像しながら、お気楽に暇つぶし
ができます。レシピ付きというのも結構あります。
アガサ・レーズンの完璧な裏庭 (コージーブックス) | |
M.C. Beaton,羽田 詩津子 | |
原書房 |
M.C.ビートンの「アガサ・レーズン・シリーズ」もその仲間ですが、ヒロイン
がかなり風変わり。ロンドンのスラム街に生まれ、刻苦勉励、悪戦苦闘
して広告会社を立ち上げ、辣腕をふるいます。やがて長年憧れていたコッ
ツウォルズに家を買い、悠々自適の田園生活を送ろうとするのですが、
口が悪く、押しが強く、わがまま、時にかなり下品。土地の人々の間に
溶けこむのは容易ではありません。でも広告業界で長年培った行動力
を発揮して徐々に馴染んできます。
数年前訪れたコッツウォルズ地方のはちみつ色の家並みです。イギリス
の都会の人も、やはり晩年はこういう美しいのんびりしたところに住みた
いと思うのでしょうね。日本なら、さしずめ軽井沢とか那須とか?ヒロイ
ンのアガサは怖いもの知らずのおばちゃんですが、貴族や上流階級の
人たちの前に出ると、自分が労働者階級の出だということを意識して、
妙に自信がなくなるという場面が頻繁に出てきます。イギリスには、未
だにそういう階級意識が厳然としてあることも教えられます。
アガサ・レーズンと貴族館の死 (コージーブックス) | |
M.C. Beaton,羽田 詩津子 | |
原書房 |
ともあれ、羽田詩津子さんの上手な訳のお陰げでもありますが、アガサが時々
切れた時の口きたない啖呵が楽しく、気分が沈んだ時に読むとスカッとします。