ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

リベルタンゴ

2021年12月01日 | 名曲

【Live Information】


これまでにいろんな音楽を聴いてきました。
もちろんすべてのジャンルを深く聴いているわけではありません。
20代のころに出演させていただいていたお店は、一応ジャズのお店でしたが、昔のキャバレー・バンドのバンドマンだった先輩方も出入りしていたところで、ジャズのほかにかつて流行したラテン、シャンソン、そしてタンゴの曲も演奏することもありました。
そのお店で当時「ラ・クンパルシータ」や「小さな喫茶店」「真珠採りのタンゴ」などを演奏していたことを覚えてはいますが、ロックが大好きだった当時のぼくにとってみればラテンもシャンソンもタンゴも年配の人が聞く地味な音楽だと思っていましたから、とくに興味を持つこともなく、どんな曲だったかは正直忘却の彼方です。


馴染のあるタンゴの曲といえば、「黒ネコのタンゴ」とか「だんご三兄弟」くらいかな。
「黒ネコのタンゴ」は、ぼくが子供のころに大ヒットした曲です。わが家にもシングル・レコードがありました。
「だんご3兄弟」は、NHKの「おかあさんといっしょ」で取り上げられて火がつき、大ヒットしたのがもう20年以上前の1999年。「だんご」と「タンゴ」を洒落ているのに気づいたのはだいぶあとになってからでした。


ここ最近、サポートとしてライブに加わるときに、セット・リストの中に「リベルタンゴ」が入っていることがちょいちょいあります。
今までは「タンゴ」というだけであまり興味が湧かず、通りいっぺんの練習だけで本番に臨んでいたわけですが、やっぱり真剣に聴き込んでから取り組もうと思い、いろんな「リベルタンゴ」を聴いてみたんです。
ヨーロッパのタンゴバンドをはじめ、ヨー・ヨー・マや小松亮太が演奏したものなどなど。
今までの自分は、タンゴの面白みというものをほとんど感じられないままでしたが、いろんな「リベルタンゴ」を探して聴いているうちに、ちょっとずつ興味が湧いてきたんです。
そして見つけたのが、ジャズ・バイオリニスト寺井尚子さんのライブ・バージョン。
これがドンピシャリ自分の好みなのです。



Expo Music Park 2003 寺井尚子(violin)、佐山雅弘(piano)、細野義彦(guitar)、ジャンボ小野(bass)、中沢剛(drums)


革新的だったピアソラの意図した「自由度」剝き出しの、エキサイティングな演奏です。
情熱的に愛情表現する男女のように。
奔放なインプロヴィゼーションの応酬は、愛情表現というより、もはやバトルのよう。
でも、単に相手を攻撃するという意味の「戦闘」ではなく、死力を尽くしつつもお互いの良さ面白さを引き出し合っている感じがするんですね。それがなんとも清々しく、微笑ましくさえあるんです。


寺井さんの挑発的な演奏にとても惹かれます。
4バースを仕掛けに、ステップを踏むようにしてピアノに近づいてゆく様子なんて、まさに「女王」の風格。
顔を美しくゆがませながらテンション高く弾き続ける寺井さん。
そして一瞬見せる笑顔。
「深キョン」こと深田恭子さんを彷彿とさせる彼女の表情にも目が釘付けです。


ピアノは佐山雅弘さん。
遊び心満載。
ユーモラスでエキセントリックなプレイですが、変幻自在なフレーズの数々は底力と懐の広さを感じます。
自由奔放なこのふたりの演奏を支える堅実なリズム陣がまた安心安定なんです。
とくにベースのジャンボ小野さんの、シンプルながらもどっしりとした揺らぎのない大木のようなベースは、まさにバンドの「屋台骨」と言っていいんじゃないでしょうか。



アストル・ピアソラ


リベルタンゴ(Libertango)は、アルゼンチンのバンドネオン奏者にして作曲家、アストル・ピアソラの代表曲のひとつです。
タイトルは、自由(libertad)とタンゴ(tango)を合わせた造語で、文字通り「自由のタンゴ」という意味です。
ピアソラ本人も、「この曲は自由への讃歌のようなものだ」と語っています。
1973年10月、アルゼンチンの大統領選挙では亡命中だったフアン・ペロンが勝利しました。
ピアソラは、独裁者として知られていたペロンの返り咲きを許してしまう母国アルゼンチンに絶望してしまいました。そんななかで、ロックのエッセンスを取り込んで1974年に書いたのがこの「リベルタンゴ」です。


いわゆる一般的なタンゴのリズムは、「1.2.3.4」と取りますが、リベルタンゴは1小節を8個の8分音符に割り、その1個目・4個目・7個目に強いアクセントを置いて、1小節の8分音符を3個・3個・2個のグループに分けています。この革新的なリズムは、形式的なリズム・パターンを持つ通常のタンゴとは全く異なる味わいをこの曲にもたらしています。
エレキ・ギターやベースを加えたロック寄りの編成や、アドリブのスペースを取ったジャズ風の構成は、膠着している現状を打破するかのよう。
まさに「自由のタンゴ」です。


タンゴは、伝統的かつ国民的音楽ではありますが、ダンスのための音楽であったことから非常に保守的でした。
自分の音楽を求めていたピアソラは、制約の多いタンゴの中にジャズやクラシック、ロックなどの要素を大胆に持ち込みましたが、その代償として「タンゴの破壊者」と罵られるようになり、一時は大衆から激しく反発されました。
しかしのちに、彼の作った曲の数々はアルゼンチン国民だけでなく、世界中の人々に受け入れられるようになりました。
世界有数のサッカー大国であるアルゼンチンでは、ピアソラのバンドに入るということは、サッカーのナショナル・チーム入りすることに匹敵する名誉なことだとされていたそうです。


伝統的なタンゴとは一線を画すとはいえ、エキゾチックで情熱的なメロディーは南米の香りそのものではないでしょうか。
と同時に、演奏者の解釈によっては、例えばフリー寄りのジャズやプログレッシブ・ロックなどにも親和する幅広い懐を持った曲、とも言えるかもしれません。
先日弾いた「リベルタンゴ」では、ぼくもそれまでより多少自由なアプローチができたかな、と思っています。
また近々弾く機会が来ないものでしょうか。



リベルタンゴ/Liebertango
  ■発表
    1974年
  ■作詞
    オラシオ・フェレール/Horacio Ferrer
  ■作曲
    アストル・ピアソラ/Astor Piazzolla
  ■収録アルバム
    Libertango
    



Album from 「The Vienna Concert」 1983 Astor Piazzolla y su Quinteto Tango Nuevo : Astor Piazzolla(bandoneon)、Pabro Ziegler(piano)、Fernando Suarez Paz(violin)、Oscar Lopez Ruiz(guitar)、Hector Console(contrabass)



Original Video Electronic Band - Conjunto Electrónico




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