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アメリカは「自由の国」と言われます。
民主主義を掲げ、自由を侵す勢力と戦ってきたことを自他ともに認めています。
しかし、その陰には、長年にわたる人種差別がありました。
リンカーン大統領は、有名な「奴隷解放宣言」を行いましたが、それ以降も人種差別は合法化され、公然と行われてきました。
現在では、「アメリカの人種差別はなくなった」と思っている人たちも少なくありません。しかしこれは主に北部の中流以上の階層としか交流していない人たちの感想であり、未だに一部では「南部では、見知らぬ有色人種が車を運転していると、いきなり撃たれるおそれのある地域がある」とも言われています。撃たれても、裁判において陪審員が白人ばかりである場合、発砲者は有罪にはならないこともあるんだそうです。
アメリカのジャズ音楽の世界では、黒人に対する差別は比較的うすかったようです。
しかし、マイルス・デイヴィスが「オレはいい音を出すのであれば、肌が緑のヤツだって雇うぜ」という言葉を残しているように、こだわりなく白人ミュージシャンを使うマイルスに対する強い風当たりもあったようです。
そのマイルスも、ただ黒人というだけで警官から不当な拘留や暴力を受けたことがあるのです。
しかし、1950年代から1960年代にかけて、「公民権運動」が盛んになります。アメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)が、公民権の適用と人種差別の解消を求め、ある意味命がけで行った社会運動です。
「ローザ・パークス事件」「リトルロック高校事件」「マーティン・ルーサー・キング牧師」「ワシントン大行進」「血の日曜日」などの、できごとや人名は、多くの人がどこかで見たり聞いたりしているはずです。
そんな激動のさなかの1962年、公民権運動を支持する曲としてジャズ・ピアニストのオスカー・ピーターソンが「自由への讃歌」を発表しました。
ヴァーヴ・レコードのノーマン・グランツ社長はこの曲をたいへん気に入りました。そして歌詞をつけることを思い立ち、編曲家のマルコム・ドッズに相談したところ、ドッズは黒人霊歌を手がけてきたハリエット・ハミルトンを紹介しました。そしてハミルトンが作詞することになったというわけです。
現在では、コーラス曲としても、よく歌われています。
オスカーのピアノは、実にすばらしいスイング感と明るさを持ち併せていますが、それがともすれば暗く攻撃的なメッセージを持ちかねない、この重いテーマから希望を感じさせてくれるのだと思います。
曲のメロディーは、ゴスペル・タッチの荘厳なものです。ブルース・フィーリング豊かで、そのうえ美しさにあふれています。
淡々、訥々と語るイントロ。
静けさと温かみを感じることができます。
コーラスを重ねるごとに、徐々に音に厚みが増してゆきます。
ベースも、ドラムも、シンプルで、そしてゆるぎないサウンドを奏でています。
そのふたりに委ね、自在にピアノで歌うオスカー。
圧巻は、3分48秒からの、オスカーによるトレモロ奏法。
エンディング・テーマは、一転して穏やかなトーンになります。
静かなエンディングは、希望の光がひとすじ射しこんでくるかのようです。まさに愛ですね。
ほかに公民権運動に関わるジャズの曲として、チャールズ・ミンガスによる「フォーバス知事の寓話」が知られています。
また、人種差別に関わる曲としては、ビリー・ホリデイの「奇妙な果実」があまりにも有名です。
現代のポピュラー・ミュージックには、黒人音楽をルーツにもつものがたいへん多く、ぼくたちは知らず知らずのうちに黒人文化から多大な影響を受けています。
ポール・マッカートニーとスティーヴィー・ワンダーが歌ったように、ピアノは白鍵盤だけ、黒鍵盤だけでは演奏できません。その2種類があってはじめて豊かな音楽が生まれるのです。
そして、生まれるのは、音楽だけではないんですね。
◆自由への讃歌/Hymn To Freedom
■発 表
1963年
■作 曲
オスカー・ピーターソン Oscar Peterson
■作 詞
ハリエット・ハミルトン Harriette Hamilton
■プロデュース
ノーマン・グランツ/Norman Granz
■演 奏
オスカー・ピーターソン・トリオ/Oscar Peterson Trio
オスカー・ピーターソン/Oscar Peterson (piano)
レイ・ブラウン/Ray Brown (bass)
エド・シグペン/Ed Thigpen (drums)
■収録アルバム
ナイト・トレイン/Night Train (1962年12月録音)
オスカー・ピーターソン・トリオ『自由への讃歌』
Oscar Peterson Trio Live in Denmark,1964.