T塚高校。我々は彼等から目を離せない。新人顧問のタナチン先生が、5人の草食メガネ系男子部員と顧問歴35年のトシ先生とくんずほぐれず格闘する姿が笑いと涙を誘うからである。
位置決めの25分。万全の準備をしたはずが搬入時間を間違え、セットの机を忘れ、知ってるはずのトシ先生も何にも指摘せず笑って楽しそうにしているので、タナチン先生は
焦っていた。セットの位置決めやシュート、音響レベル合わせにキッカケ稽古などやることは多い。25分でやり切れるだろうか。
客席中央の指令位置に付いたタナチン先生から指示が飛ぶ「T高校出てきてセット組んで。」(間)誰も出てこない。やむなく袖に呼びに行く。部員が出てきた。調光に上がったトシ先生が明かりを打ち込み終わるまでにセットを組まなければ。ところがサスのシュート要請がスタッフさんから入り作業中断。4人いる役者のうち3人が自分のサス位置に停止した。2人のスタッフが手早くシュート。する事が無くなったタナチン先生から音響に音出しの指示。効果音が流れるが誰もレベルについて触れない。気が付くとシュートは終わったハズなのに3人の役者が自分のサス位置に立ち続けている。時間が無い。照明の打ち込みはまだか? 調光に向かってタナチン先生は叫んだ。「トシ先生!トシ先生!聞こえてないんかな?トシ先生!」
「これ、そこに貼っといて。」我々はぶっ飛んだ。調光で打ち込みをしているハズのトシ先生が下手袖から現れた。誰が打ち込みをしているのだろう。
「あ、後ろの吊り物、もう少し上げてくれる?」道具さんに平然と指示を出し始めたトシ先生を止める余裕は既に、タナチン先生には残ってなかった。
「役者、サス中でも顔が暗いからもっと後ろに立って。あらぁ照明さん、これでシュートお願いします。はい、バミり張り替えにて。」薄れゆく意識の中でタナチン先生はつぶやいた。「
トシ先生、自由過ぎますって。」こうしてT塚高校の25分間は、終わった…。