日暮しの種 

経済やら芸能やらスポーツやら
お勉強いたします

花を愛でる機会なく

2011-06-19 19:43:52 | 編集手帳



  

  6月14日付 読売新聞編集手帳


  詩人にして読売新聞の政治記者でもあった中桐雅夫は書いている。
  〈戦いと飢えで死ぬ人間がいる間は/おれは絶対風雅の道をゆかぬ〉と(「やせた心」)。

  地震と津波の災禍に区切りがつくまでは花鳥風月を取り上げぬ――と、
  先輩記者にならって誓いを立てたわけではないのだが、
  小欄を借りて季節の花を愛(め)でる機会がなかなか見つからない。
  サクラはいつのまにか咲いて散り、
  フジの花房も見損ねた。

  〈紫陽花(あじさい)や白よりいでし浅みどり〉(渡辺水巴)。
  色の七変化ではことに初々しい「浅みどり」も、
  今年はどうやら見のがしたらしい。

  梅雨入りを控えた福島県では、
  原発事故現場から20キロ圏内の警戒区域にある家屋の雨漏りが心配されている。
  屋根瓦が大きな揺れで壊れたまま放置されており、
  柱が腐れば、住民は自宅に戻れたとしても住めない恐れがあるという。  
  被災地に親類縁者がいない人のなかにも、
  東北地方の気象情報にそのつど耳を傾けている方は多かろう。
  身近な花に気のまわらぬときもある。

  せいいっぱい美しく咲く花たちには、
  なんとも張り合いのない初夏だろう。
  人が泣けば、花も泣く。
コメント