6月24日付 読売新聞編集手帳
美空ひばりさんの『みだれ髪』(詞・星野哲郎、曲・船村徹)は
福島県いわき市の「塩屋岬(しおやのみさき)」を舞台につくられた。
ゆかりの地に、
ひばりさんの遺影碑と石像が立っている。
人が近づくと歌声が流れる仕掛けである。
「津波に耐えて、いまも歌っていますよ」。
先日、船村さんからそう教わった。
年間に10万人もの観光客を招き寄せてきた“稀代の歌姫”はきっと、
大震災から立ち上がる地元の人たちに手を貸してくれることだろう。
敗戦の焦土に生き惑う日本人を歌で励まし、
復興を見届けたかのように52歳で世を去った。
きょうは没後22年の命日にあたる。
『一本の鉛筆』(詞・松山善三、曲・佐藤勝)も忘れがたい。
一本の鉛筆があれば
人間のいのちと 私は書く…
一枚のザラ紙があれば
あなたをかえしてと 私は書く…。
親を亡くした子、
子を奪われた親、
伴侶を失った夫に妻――
震災のニュースで見たあの場面、
この場面が浮かんでくる方も多かろう。
死の前年、
病身で臨んだ伝説の公演がその名も「不死鳥コンサート」であったのを思い出す。
いままた、
いくつもの歌に羽ばたきの音を聴きつつ。