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胸に刻まれている言葉

2011-06-13 22:09:37 | 編集手帳
  

  6月8日付 読売新聞編集手帳


  この短い文章を毎日書いていると、
  取り上げた出来事や書き留めた言葉をすべて記憶していては身がもたない。
  忘れ去るのが仕事のようなところがある。
  それでも胸に刻まれて、
  そらで言える言葉が幾つかある。

  たとえば、
  3年前の北京パラリンピック・車いすで2種目を制した伊藤智也選手が、
  金メダルの喜びを語った言葉。
  「生きてきた人生のなかで5番目にうれしい。子供が4人いるので」。

  たとえば両親を津波にさらわれた昆愛海(まなみ)ちゃん(5)が母親にあてた手紙。
  「ままへ。いきてるといいね おげんきですか」。

  殺傷事件のあと、
  大阪教育大付属池田小学校を訪ねたことがある。
  祭壇の設けられた正門に手紙が供えてあった。
  近所に住む子供だろうか、
  5歳の男の子のたどたどしい字である。
  「8人のおにいちゃん おねえちゃんへ つよくなってわるいひととたたかいます」。
  心を凍らせた朝から、きょうで10年になる。

  三つの言葉を結ぶひとつの糸があるとすれば〈命〉だろう。
  大人たちも、あの坊やにならって誓うしかない。
  命を脅かす天災にも、
  凶悪な犯罪にも、
  「つよくなってたたかいます」と。
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