日暮しの種 

経済やら芸能やらスポーツやら
お勉強いたします

めずらしく鳩山氏の言い分に理がある

2011-06-04 23:01:53 | 編集手帳

  6月4日付 読売新聞編集手帳


  米国の第20代大統領ガーフィールドが暗殺されたとき、
  全米200紙を超す新聞に広告が載った。
  〈私は、合衆国政府が作成した故大統領の肖像版画を入手した。
   熟練の彫版工が彫った原版からカラー印刷したものを、
   1枚1ドルでお分けしよう〉。

  1ドルを支払った数千人が受け取ったものは、
  大統領の肖像が描かれた5セント切手であった――と、
  青土社刊『詐欺とペテンの大百科』にある。
  広告文に嘘はないにしても、
  しかし…である。

  「震災対応に一定のメドがついた段階で、若い世代に責任を引き継ぎたい」。
  菅首相も“退陣”を口にしたわけではないが、
  これが続投の意思表明とは不埒(ふらち)な切手屋と異なるところがない。

  早期退陣を確信して造反のホコを収めた鳩山由紀夫氏からは
  「ペテン師」と酷評された。
  めずらしく、鳩山氏の言い分に理がある。
  言葉の詐術を弄する首相の国会答弁などはおよそ無意味であろうし、
  どこの国もまともに外交の相手をしてくれまい。

  歌人、小池光さんの一首を。
  〈毎日毎日四月一日 つくづくと「娯楽としての政治」を見しむ〉。
  菅さんひとりシメシメ、ニヤニヤの娯楽である。
コメント

復興の“砂音”が聞こえる

2011-06-04 11:05:44 | 編集手帳
  

  5月24日付 読売新聞編集手帳


  〈この吉里吉里(きりきり)という言葉はアイヌ語の「砂浜」からきたらしゅうございます〉
  とある。
  東北地方の独立国を舞台にした井上ひさしさんの長編小説『吉里吉里人』(新潮文庫)である。
  浜辺を歩くときに砂がきしむ音、
  キリキリから生まれた言葉である、と。

  「鳴き砂」という。
  石英の奏でる音はキュッキュッともクックッとも聞こえる。
  不純物が混じると音がしなくなるため、
  自然環境が守られているかどうかのバロメーターといわれている。

  宮城県気仙沼市の
  「十八鳴(くぐなり)浜」と「九九(くく)鳴き浜」が天然記念物に指定されるという。

  震災で津波に襲われながら、
  鳴き砂の海岸は奇跡のようにほぼ無傷で残った。
  地元の中学校では校歌にも歌われる郷土の誇りである。
  歩けば復興の槌音(つちおと)ならぬ“砂音(すなおと)”が聞こえるだろう。

  小説では、東北の海や川のそばに吉里吉里、
  木里木里などの地名が幾つもあることを挙げて登場人物が言う。
  同じ地名の場所に住む人は皆、遠い縁つづきではないのか――
  〈つまり東北人(とーほぐづん)は誰も彼もが皆親戚。
   もひとつ言(ゆ)えば日本人(ぬっぽんづん)はみな仲間〉
  だろう、と。
  そのセリフがいまほど胸にしみる時もない。
コメント