美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

参政党・松田プラン(その3の1)日銀の金融政策にも「出口」を作る「松田プラン」

2022年06月20日 15時22分45秒 | 政治


今回は、図が6つも登場します。「松田プラン」をきっちりと語ろうとすると、そういうことになってしまう。それは、しかたのないことでしょう。

今回の、ご本人による「松田プラン」を理解するには、簿記の基礎的な知識が必要であると思われます。まずは、それに触れておきましょう。

「簿記の基礎的な知識」とは、バランス・シート、すなわち貸借対照表についての知識です。



貸借対照表は、私企業や組織の財政状態を示す会計情報の一覧表です。上の図の左側は「借方」(かりかた)と呼ばれ、そこには要するに資産の会計年度末における残高が記載されます。次に右側は「貸方」(かしかた)と呼ばれ、そこには負債、端的にいえば「借金」が記載されます。そうして、資産と負債の計算上の差額が純資産と呼ばれ、借方と貸方は常に原理的に同額になります。貸借対照表がバランス・シートと呼ばれるのは、左右の金額が天秤のお皿のように均衡しているからです。

もうひとつ付け加えたいのは、純資産は、簿記の初歩レベルにおいて、利潤と一致します。つまり純資産の基本的性質は利潤です。

それゆえ、利潤追求法人である私企業と違って、公益を追求する政府のバランス・シートは純資産を略したものになります。別言すれば「もうけにならないけれど、国民・国家にとって必要な事業を担う」ところに政府の存在根拠があるのです。

さらにもうひとつ。親会社と子会社のバランス・シートを合算したものを連結バランス・シートといいます。その場合、親会社の子会社に対する債務(支払い義務)は、子会社の親会社に対する債権(支払い権利)と相殺されます。連結決算組織の外部者にとって、正確な会計情報を知るために、親会社と子会社間の貸し借りは相殺されるべきものであるからです。

これくらいの知識があれば、「松田プラン」の中身に入っていけるはずです。

以下、松田氏の図を順に掲げます。松田氏のお話と図をきちんと照合していただければ、「松田プラン」の基本的な理解は得られるはずです。

それぞれの図の理解のための補足事項を列挙しておきます。

図1

上の図の「☆全体」とはバランス・シートの借方の合計を指しています。また、2013年末は、日銀黒田総裁の「異次元緩和」の直前です。その時点から2022年3月末までの間に日銀が市中銀行から買い取った国債残高は、526.2兆円に達しました。それは政府が発行した国債残高の526.2÷1026.5=51%にも及びます。この、借方に記載される日銀保有の国債526.2兆円は、政府発行の国債に対する債権者が民間から日銀に変わった金額を意味します。

また、日銀が市中銀行から国債を買い取るたびに、同額の日銀当座預金が貸方に記載されます。ちなみに、日銀当座預金残高と国債残高が一致しないのは、市中銀行との国債のやり取り以外にも日銀当座預金を増減する取引があるからです。その詳細は3枚目の図に書かれているので、ここでは略します。

図2 

MSM(大手マスコミ)では、上記の政府のバランス・シートのうち貸方の国債残高1376兆円だけがクローズ・アップされて「国の借金1000兆円!」と騒ぎ立てるのが年中行事のようになっております。

しかし、会計学においては、貸方の負債額は借方の資産と相殺された「純負債額」が正しい負債額であるとされています。そのルールに従えば、政府の純負債額は、負債総額1376兆円-資産総額721兆円=655兆円となります。

次に、真ん中の下にある日銀のバランス・シートに目を移します。借方の、異次元緩和によって大量に購入された国債401兆円を含む国債残高532兆円は、政府に対するものなので、政府との連結会計すなわち統合政府において、政府保有の同額の国債と相殺されます。

それゆえ、統合政府の純負債額は、政府の純負債額655兆円-日銀保有負債残高532兆円=123兆円に縮小します。

では、統合政府において123兆円に縮小した国債は何に姿を変えているのか。それは日銀の貸方にある日銀当座預金、です。日銀にとって負債扱いされている日銀当座預金は市中銀行にとっては資産です。しかし、だからといって、日銀当座預金がそのまま市中マネーになるわけではありません。その意味で、日銀当座預金は、帳簿上のお金にほかならない。だから、日銀にとって市中銀行への返済が必要なお金というわけではありません。

このことをふまえないと異次元緩和のメカニズムに対する誤解が生じます。

***

この回で「松田プラン」を終えるつもりでいたのですが、説明するにつれて事の大きさを再認識し、ついつい熱が入り、話が詳細に及んでしまいました。

今回は、ここまでにしておきましょう。次回も、よろしかったらお付き合いください。「松田プラン(3)」の動画は、次回アップします。

〔付記〕
鈴木俊一財務相は3月16日の参院財政金融委員会で、政府と日銀のバランス・シートを一体として認識する統合政府バランス・シートの考え方について適切でないと述べたとの由。その理由は、「日銀は政府から独立して金融政策を行っているにもかかわらず、日銀が永久に国債を保有し、結果的に財政ファイナンスを行うと誤解される恐れがあるため、財政を統合政府で考えるのは適切でない」とか。

上記の「財政ファイナンス」とは、中央銀行が政府の発行する国債を直接引き受けて、政府の財政赤字を穴埋め・補填する措置のことを言います。インフレを招く放漫財政に陥らないための「禁じ手」とされています。鈴木財務相は、そのタテマエをかざして統合政府という考え方を否定しているわけです。

統合政府というコンセプトは、財政問題や金融問題を解き明かし、それを根本的に解決するための強力な武器です。つまらないタテマエに固執して、そういう武器を手放すのは、愚かしいふるまいであるとしか言いようがありません。鈴木財務相は、財務省内の守旧派からそう言わされているのでしょう。とても残念なことです。

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