美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その27)

2019年10月04日 12時23分25秒 | 経済


*下記のウォール・ストリート・ジャーナルの矛盾した記事は、ほとんどブラック・ジョークではありますが、これが通説としてまかり通っている現状を考えると、笑ってばかりもいられません。長年にわたってプライマリー・バランスの黒字化に血道を上げ、日本をデフレの泥沼に叩き込み続けている日本政府・財務省は、笑う資格などまったくありません。

要点:財務省証券の発行などの10億ドルの赤字の支出は、民間部門(民間部門とは政府部門以外のすべてを意味します)の貯蓄への新たな財務省証券という形での10億ドルの増加をもたらします。

買い手の、新しい財務省証券という10億ドルの貯蓄は、彼の当座預金口座から財務省証券の保持(すなわち普通預金口座)に移し変えられます。そうして、財務省が財務省証券を売った後に10億ドルを支出したとき、その10億ドルの受取人の貯蓄については、彼の当座預金口座が10億ドル分増加します。

だから、この議論のはじめに申し上げたとおり、財政赤字は、政府の外側に金融資産(すなわち、USドルと財務省証券)をシフトさせることなどありません。それとは逆に、財政赤字は、民間部門に赤字分の額の金融資産の貯蓄を増やします。同様に、財政黒字は、私たち民間部門の貯蓄から同額分を差し引きます。そうして、メディアも政治家もさらには頂点の経済学者たちでさえも、《逆に》受けとめています。

*つまりモスラ―は、通説では「財政赤字は、民間部門の貯蓄によって補てんされ、財政黒字は、民間部門の貯蓄の増加をもたらす」となっているが、実は逆に「財政赤字は民間部門の貯蓄を増やし、財政黒字は民間部門の貯蓄を減らす」、と言っているのです。財政赤字がもしも本当に民間部門の貯蓄によって補てんされるのならば、大幅な財政赤字は民間部門の貯蓄の激減をもたらし、利子率を高騰させ、経済に混乱をもたらすことになります。世に出回っている議論は、おおむねそういったところですね。モスラ―は、それらを「空騒ぎにすぎない」と一蹴しているのです。つまり、杞憂にほかならない、と。

1999年の7月のウォール・ストリート・ジャーナルの一面に、見出しがふたつありました。向かって左には、記録的な財政黒字を達成したクリントンを絶賛し、財政政策がいかにうまく展開されているかという説明がなされていました。向かって右には、アメリカ人は十分に貯蓄をしていないので私たちアメリカ人はもっと貯蓄をするためにもっと一生懸命に働かなければならないと述べた見出しがありました。数ページ先に、財政黒字が上昇していることを示す折れ線と貯蓄額が低下していることを示す折れ線のグラフがありました。それらは、ほとんど同じことなのですが、グラフに表すと反対向きになります。政府の財政黒字は、おおむね民間部門のお金の損失(貯蓄の減少分)に等しいのです。

民間部門の貯蓄が増えて、なおかつ、財政黒字が実現される、なんてことはありえません(この場合、民間部門には、非居住者のUSドル金融資産の貯蓄も含まれます)。そんなことはありえないのに、正統派経済学者たちや政府は、それが正しいと思っているわけです。

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