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美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

量子力学について(その4)電子の発見②

2020年01月08日 17時59分54秒 | 科学

J.Jトムソン

イギリスのJ.Jトムソンなどの研究により、陰極線の次の3つの性質が明らかになりました。

1) 電場や磁場によって曲がる。
2) ガラス管に当たって蛍光を発する。
3) 物体によってさえぎられ影を作る。

以上より、陰極線の正体は「負電荷を持つ粒子の流れ」であるとされ、その「負電荷を持つ粒子」は「電子」(エレクトロン)と名づけられました。

以下、それぞれについて若干の説明を加えましょう。

1) について。



上図のようにC(+極)とD(-極)に電場を加えると、陰極線は+極側すなわち上方に曲がります。この現象から、陰極線は負電荷であることがうかがえます。

*「C(+極)とD(-極)に電場を加える」とは、要するにCからD方向に電流を流すことです。「電場」にはきちっとした定義があるのですが、それに深入りすると話が見えにくくなるのでやめておきましょう。



上の図のように、陰極線に磁場を加えると下方にローレンツ力が生じ、陰極線は下に曲がります。



ローレンツ力とは、「動く荷電粒子が磁場から受ける力」です。中学生のころに教わった「フレミングの左手の法則」の親指の方向がローレンツ力の方向です。ひとつ前の図に戻ると、「電流の向き」が右から左の方向(電流の向きと電子の向きは逆です!)、「磁界の向き(磁力線の向き)」が手前から奥への方向とすると、ローレンツ力は下向きになります。ちなみに、薬指と小指は折り曲げないほうがやりやすいですよ。

次に、3)について。



上の図のように、陰極線の進路をさえぎるように金属製の障害物を置くと、陰極線は、その形と同じ影を作ります。これは、陰極線に直進性があることを示しています。またこのとき、陰極と陽極を逆にすると影は現れません。これは、陰極線は陰極から陽極に流れていることを示しています。

以上のような考察から、J.Jトムソンは、陰極線は、負電荷を持つ電子の流れであると結論づけました。

次回は、電子の比電荷の測定に話が移ります。物理学特有の数式が登場します。できるだけ話の筋道を明らかにしながら進みますので、おつきあいくださいね。

*今回は、ほとんどの図とその解説の多くを「わかりやすい高校物理の部屋」http://www.wakariyasui.sakura.ne.jp/#atom に負いました。この場を借りて、お礼を申し上げます。

高校物理解説講義:「電子の発見」講義2
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量子力学について(その3)電子の発見①

2020年01月07日 21時43分35秒 | 科学


「電子の発見」は、厳密に言えば量子力学の範囲内に入りません。電子の発見にとって画期的な実験だった「真空放電」が実施されたのは19世紀の半ばだったからです。

しかしながら、電子が発見されたプロセスをたどることは、目に見えないミクロな世界を学ぶ上での出発点としてふさわしいのです。

では、電子がどういう実験で見つけられ、どのような電荷を持ち、どのような質量を持っているのかをこれから学びましょう。

*「電荷」という言葉に戸惑われた方がいらっしゃるのではないでしょうか(私もそうでした)。電気のことを物理的、あるいは微視的にいうとき、電荷といいます。電荷には正と負がありそれぞれ正電荷、負電荷といいます。同じ符号同士の電荷は反発し合い(斥力、せきりょく)、異なる符号同士の電荷は引きつけ合います(引力)。

電子は、真空放電をきっかけに発見されました。


真空放電とは何でしょうか。蛍光灯と同じような形をした放電管というガラス管に電極をつなぎ、管内の空気を抜いていきます。そして、上記の電極A(陰極)と電極B(陽極)に高い電圧を加えると、図のように光っている部分が見られ、放電が起こります。このように、気圧が低いときに空間に電流が流れる現象を、 真空放電 といいます。

真空放電をしているガラス管内に蛍光塗料などをぬると、明るく発光します(蛍光灯は、このようなしくみで明るく光るのです)。

ちなみに「真空」とありますが、本当の真空のなかで光は発しません。1/100気圧から1/1000気圧くらいの非常に薄くした空気中で「真空」放電は起こるのです。それ以上もっと薄くすると光を発しなくなるのです。

この〈光を発する何か〉は、「陰極線」と名付けられました。

この陰極線の正体は何なのかということが次に問題になってきます。


高校物理解説講義:「電子の発見」講義1

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量子力学について(その2)量子力学概論②

2020年01月06日 19時51分24秒 | 科学


古典力学と量子力学の考え方の主な違いは、次の三点です。

一つ目。古典力学が「エネルギーなどのすべての物理量は、連続量である」と考えるのに対して、量子力学は「エネルギーは、連続量ではなく、とびとびの値しかとりえない」と考えます。連続量ととびとびの値の違いは、アナログ時計とデジタル時計を思い浮かべれば分かりやすいのではないでしょうか。

二つ目。古典力学が「光は波の一種である」と考えるのに対して、量子力学は「光は波であるが粒子としてもふるまう」と考えます

ニュートン以来、光は粒子であるという考え方が主流でした。ところが1800年の「ヤングの実験」によって光が干渉することが発見されました。お互いに強め合う場所と弱めあう場所が生じる干渉は、波特有の現象なので、当実験をきっかけに「光は波である」という考え方が主流となったのです。

で、19世紀末に、金属の表面に光を当てると電子が飛び出す「光電効果」という現象が周知されることになり、「光は波である」という古典物理学では、その現象をうまく説明することができませんでした。

1905年、アインシュタインは、光は粒子としてもふるまうという内容の「光量子仮説」を発表し、「光電効果」をうまく説明できるようになりました(詳細については、いずれ触れましょう)。

三つ目。古典物理学が「物質は粒子でできている」と考えるのに対して、量子力学は「物質は粒子であるが波としてもふるまう」と考えます

以上のように、古典物理学の考え方は、マクロな世界に生きるわれわれの常識感覚に合致しますが、目に見えないミクロな現象をうまく説明することができないのです。それに対して、量子力学の考え方は、われわれの常識感覚に反するのですが、ミクロな世界を説明することができます。


高校物理解説講義:「量子力学の概論」講義2


高校物理解説講義:「量子力学の概論」講義3
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量子力学について(その1)量子力学概論①

2020年01月05日 18時23分34秒 | 科学


以前から、量子力学に興味はありました。しかし、物理学の基礎である力学もろくすっぽ知らない状態の当方には敷居が高すぎ、近づくことはありませんでした。

ところが八か月ほど前、仕事の関係で物理学とがっぷり四つを組む必要に迫られ、そのなかで量子力学の初歩に触れる機会を得ることになりました。

触れてみて、その世界の面白さに魅了されました。みなさんにもそれが伝われば、と思い、当シリーズをアップすることにいたしました。

なお、当シリーズは、全面的にbutsurikyoushiさんという理科のおそらく高校教師をなさっている方が作成・運営をしている理科専門サイト「高校物理を攻略!」https://www.youtube.com/channel/UCoQUbU6FTLtyrBILnuyAwIgとそこでの講義に使われる資料をプリントアウトできる「大学入試攻略の部屋」http://daigakunyuushikouryakunoheya.web.fc2.com/ にもっぱら依っています。この方には、いくら感謝してもし切れません。わが物理学の師であります。三年前には、わが化学の師でもありました。

では、早速はじめましょう。

***

17世紀から19世紀までの物理学を「古典物理学」といいます。この物理学は、17世紀に確立されたニュートン力学と19世紀にマクスウェルによって、ファラデーなどの業績をふまえて集大成された電磁気学とを二つの柱にしています。19世紀には、この世界のあらゆる現象は、この物理学によって説明されうる、物理学は完成された、と信じられていました。

ところが、原子などのような、肉眼では見えない小さなミクロな世界で起きている現象は、これまでの物理学では説明できないことが次第に分かってきたのです。そこで登場したのが、20世紀の新しい物理学、すなわち、量子力学だったのです。それと区別するため、17世紀から19世紀までの物理学は「古典物理学」と呼ばれるようになりました。

ちなみに量子力学の「量子」とは何かについては、いずれ詳しく説明いたします。

高校物理解説講義:「量子力学の概論」講義1
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量子力学の「コペンハーゲン解釈」についての雑感

2018年12月17日 23時25分11秒 | 科学



高3生に小論文を教えていたら、テキストに「量子力学のコペンハーゲン解釈」という文言が出てきました。「ん?」と思い授業後調べてみると、興味深い事実が出るわ出るわ。みなさんとそれを共有したいと思い、筆を執った次第です。

断るまでもなく、私は、量子力学の門外漢です。だから初歩的なお話が多くなると思われます。その点、笑って見逃していただければ幸いに存じます。

量子力学とは
まずは、量子力学が扱う「量子」について。原子や分子のように、物質を形づくる素材にあたる小さいものを量子と呼びます。量子の中には原子や分子、電流の正体である電子とか、光子(光のこと)とか、いろんな種類があります。話題のニュートリノも量子です。

目に見えるくらいの大きさのものに関して「どういうルールで動くのか」は、おおむね分かっています。玉がどう転がるかとか、固体に熱を加えると液体になって、もっと熱すると気体になるとか。中学生のときに教わる、氷から水、水から水蒸気への状態変化。そういうことはおおむね分かっているわけです。

だけど、それよりも小さい単位である量子になると、これまでのルールが全然通用しません。今までの感覚からするとまったくもって意味不明な動きをする。おのずと「じゃあ、量子はどういうルールで動いているんだ」という疑問が湧いてきますね。その疑問に答えようとする学問領域が量子力学である、ということだそうです。

観測問題
量子力学の「観測問題」について述べるには、まず「2重スリット」実験に触れる必要があります。


http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/physics/2slits.htmから拝借しました。

上記のように、電子銃から電子を発射して、二本のスリットを通過させると、その先の感光板(写真乾板)で、干渉縞が発生します。これは電子が波の性質をもつことを示唆するそうです。
このことを理解するには、波の「回折」(かいせつ)と「干渉」についての基礎的な理解が必要みたいなので、気になる方は、次のURLでご確認ください。
https://phys-and-program.com/entry/doubleslitexperiment




複数の電子を同時に発射するのであれば、複数の電子が相互に干渉するのはわかりますね。
では、電子を一つずつ発射したときは、どうでしょうか?
普通に考えれば、電子は一つだけなのだから、干渉するはずがない。干渉するにも、干渉する相手がいないからです。
ところが、干渉が起こる
つまり、電子を一つずつ発射しても、それらの電子をたくさん蓄積すると、感光板には同じような干渉縞が現れるのです。
実験事実は以上の通りなのですが、これについての解釈が問題となります。
とりあえず次のように考えられたそうです。
「一つずつ電子が発射されても干渉縞が生じるのは、電子が二つのスリットを同時に通過したからだ」
しかし、これは、あまりにも不自然ですね。というのは、「一つの粒子が二つのスリットを通る」というのは、「一つの粒子が同時に別の場所に存在する」と言っているのに等しいから。
では、どう考えるべきなのでしょうか。
ということで、これが量子力学の「観測問題」です。

コペンハーゲン解釈
「観測問題」をめぐって有力な仮説が登場しました。それが、「コペンハーゲン解釈」です。
それは以下のようなものです。
電子が発射されたあとでは、電子の存在確率が、波動関数で示される。途中で二重スリットを通り抜ける時点でも、電子は波動関数で示されるので、存在確率が雲のように拡散しながら、二重スリットを通り抜ける。その後、波動関数が感光板に達すると、観測される。観測された時点で、波動関数が急激に収束して、電子は一点に決定される
ちょっとかみくだけば、《粒子はどこにでも確率的に存在できる。観測した瞬間に確率が収束してある一点に存在するようになる》と言っているわけです。ざっくりと言えば、電子は見られると粒になるが見られていない時は波になっている、となります。
これが量子力学の主流だそうですが、正しいことが証明されているわけではありませんし、異説もあるようです。
***
自然科学は、世界を主観と客観とに二分する近代的〈知〉を土台に展開されてきました。
そうして、物理学は自然科学の雄です。
実験の精度が上がることによって、従来の物理学では説明できない現象があれこれと出てきました。
それらを説明するために、量子力学という20世紀の物理学が誕生した。
つまり量子力学は、近代的〈知〉の根幹である主客二分論のサラブレッドなのです。
ところがそのサラブレッドは、「観測問題」をめぐって、主客二分論を超えた言説フィールドをのびやかに駆け回っている。
これが驚かずにおられようか、というわけです。


参考にしたURLを掲げておきます。どうもありがとうございます。
http://hp.vector.co.jp/authors/VA011700/physics/2slits.htm
https://phys-and-program.com/entry/doubleslitexperiment
http://www.buturigaku.net/main01/Quantum/Copenhagen_interpretation02.html


コメント (2)
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