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マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

緑の防波堤で日本全体を囲う提案

2012年07月22日 | ハ行
 宮脇昭著『瓦礫を活かす「森の防波堤」が命を守る』(学研新書)を読みました。その趣旨に賛同しましたので、急所だけ引用し、感想を添えます。

01、「森の防波堤」づくりの要点と手順

① マウンド(植樹地)の材料──震災によって出た大量のがれきの中の毒及び分解不能なものを除いて、それ以外の物に土を混ぜてマウンド(植樹地)を作る。
② マウンドの大きさと形──幅10メートル以上、可能なところは100メートル以上のカマボコ状の堤を造る。

③ 表層土・復土──まわりの耕作放棄地などの有機質に富んだ表層土、または現場の地表の10~20センチメートルの表層土などを、層にならないようマウンドの表面の土と混ぜながら、ほっこらとマウンド上にかぶせる。根群は息をしているので、上から踏み固めないよう注意する。鉢植えなどと異なり、森をつくるための表土は、落葉、枯れ草、枯れ枝など、そこにある有機物をすべて混ぜる。いわゆるゴミなどをすべて混ぜて、表層土として利用する。

④ 樹種の選定──その土地の潜在自然植生を構成する主木を中心に、その森の構成種 群からできるだけ多くの樹種を選定する。標準的には、主木となる高木樹群とともに、主木群を支える亜高木を3~4種、低木を3~5種以上使用するのが好ましい。
⑤ 苗木の植樹……選定した樹種の根群が良く発達した樹高30センチメートルほどのポット苗(幼苗)を用いる。ポット苗を植える直前にさっと水に浸し、1平方メートルあたり2~3本の密度で、線状ではなくランダムに混植、密植する(植樹)。ポット苗は、自分で育てるのが最も好ましい。

⑥ マルチング──植樹後、1平方メートルに4キログラム程度の敷きワラで表土が見えないくらいにマルチング(表土を保護するために稲ワラ、または干草などを敷くこと)をして、縄でワラを固定する。

⑦ 維持管理──植樹後、2~3年間ほどは必要に応じて1年に1回程度除草作業を行う。抜いた雑草は捨てず、焼かずに土に還す。4~5年経つと自然の管理、自然淘汰に任せておけば15年~20年で多層群落の自然林に近い樹林に生長し、最終的には樹冠の高さ20~25メートル以上の多層群落、柔構造で、あらゆる災害に対して堅固な「森の防波堤」になる。根こそぎ破壊しない限り個体の交代はあるが、森のシステムとしては永続する。(同書211-4頁。趣旨を明快にするために少し添削しました)

02、森の防波堤に関する環境省からの質問事項とそれへの回答

① ガレキには大きなコンクリート片とか違う大きさのものが含まれているが、これらの大きさはバラバラでも良いのか?

 回答・可能な限り、大きなものは子供の頭ぐらいの大きさに砕いて(大きさほ均質でな くて良い)、土や砂礫と混ぜながら盛ってゆく。そのようなマウンドは、根群の発達にもっとも重要な通気性が良好である。また土中で根はガレキを抱くので、津波、台風にも倒れにくくなる。

② ガレキをそのまま埋めて、このようなマウンドをつくると、強度に問題は出ないか?

 回答・新日鉄君津・名古屋・大分などの製鉄所の境界防災・環境保全林形成の実例が実証している。上記のようにガレキをおおまかに砕いて土や砂礫と混ぜつつ、ほっこりとマウンドを形成すると通気性が維持され、木片はゆっくりと分解されて木の養分となり、10~20年間で5~10%沈下して安定し、樹林帯の基礎としての強度は確実に確保できる。

③ 相当の穴を掘って、このようなマウンドをつくり、ガレキを埋めるという作業だけでも、相当の作業量になり、費用的にも決して安くないのではないか?

 回答・提出した図にあるように、森の長城は地上部に盛る土量が大半であり、地表を掘削する穴は、土量によって規模が異なる。埋め立て、焼却に較べて労力・作業量は格段に小さく、費用的には将来の維持・管理コストに比してはるかに安価である。

④ 土地の確保の問題もあり、どこでもこういう形で整備することは困難ではないか?

 回答・ガレキのマウンド上の森は、土地や費用をかけた埋め立てよりも、

・津浪から命と生活を守る波砕効果
・新しい緑豊かな自然に近い地域景観の形成
・可能なところでは林内に遊歩道を作るなど、将来にわたって内外の来訪者を誘致する観光資源として、地元経済を活性化する経済効果
・思い出のこもった家屋の木片などが命と生活を守る森林に生まれ変わる心理的な安心感
・国家戦略である生物多様性の保全空間となる

などの持続的で多様な効果を持つ。

 このような防災森林は、いのちを守り、地域経済と共生する。コンクリートなどのハードな防波堤以上に、原則的に災害に見舞われた地域の全てに形成する。津波の波砕効果の必要性や土地利用の状況を考え、まずできるところから直ちに実施する。同時にドイツ、スイスの林業のように100年、120年伐期に対応して、将来超高木は択伐して、慎重に持ち出し、焼かない、捨てないで、家具、建築、建設材として積極的に利用する。客員、外来樹種林と異なり林内の低木層、亜高木層に待機していた後継樹が直ちに生長して土地本来の多層林群落を形成し、持続し、防災・環境保全と地域経済活動を将来的にいつまでも多面的に維持・発展させる。地域の皆様にも正しく理解していただき、できるところからすぐ着手する。

⑤ 照葉樹の生長の北限に近く、このようなアプローチは岩手とか北の方では限界があるのではないか?

 回答・岩手県北部以北の森の長城の樹種選定については、研究者による現地調査での再確認の必要な地域もあるかもしれない。しかし、大津波後の現地調査と、これまでの植生調査結果の集大成である宮脇編著『日本植生誌』(宮脇他1980~89)を基礎資料として〔判断するならば〕、潜在自然植生の主木群のタブノキ、スダジイ、カシ類を主体とした常緑広葉樹の植林は将来的に管理費もかからず、エコロジカルにも好ましく十分可能である。タブノキ、カシ類は釜石の北まで自生しており、現在では、ポット苗など根群の充満した幼苗を自然の森のおきてに沿って混植・密植すれば、常緑広葉樹林の再生はさらに北まで十分可能と判定される。これらの樹種は現に今回の大津波に耐え、波砕効果によってそれを抑制している事実を、南三陸町、大船渡市などでも確認している。

⑥ ガレキには塩分を含んでいるものもあるが、それらは塩抜きしてからでないと埋められないのか?

 回答・植林地はカマボコ型にガレキなどを発生土などと混ぜて盛ったマウンド(土塁)であり、降水量の豊かな日本では表層からの雨水の浸透により早期に塩分はマウンドの下の地中に流下する。したがって植樹直後に板を張る表層土部分からガレキなどの「塩抜き」は不要である。

⑦ ヘドロが堆積しているところもあるが、ヘドロなどを混ぜて埋め立てることはできるのか?

 回答・ヘドロは主に高チッソ性の有機富養土で、砂礫や土、ガレキなどと良く混ぜ込むことにより、樹木などの植物への最も有効で重要な養分(肥料)として利用が可能である。

 木材ガレキについても焼却すれば炭酸ガスが発生し、さらに有機物としての貴重な地球資源を失うことになる。法律上の整備を行い、マウンド内に土砂と混ぜてそのまま埋め込むことにより、ゆっくりと分解し木の養分となり、森林づくりの遅効性の堆肥として活用できる。木片を生きた防災林の形で再生することにより、極めて有効な利用が可能である。また、将来的にほ経済林としても役立つ。ドイツ、オランダなどでは州条例などで伐採、剪定(せんてい)したりした木質系のいわゆる廃棄物は、焼却処理を禁じているところも少なくない。木片などの植物性有機ガレキは焼却したり廃棄したりしないで土と混ぜて森・緑地形成などに積極的に利用するように条例などで決められており、都市林(アーバンフォレスト)などが第二次世界大戦後、戦災ガレキを土中に埋めて作られている(例・ロッテルダムの干拓地の森づくり、ミュンヘンのオリンピック会場など)。

 かつて木質材の地中埋設については発酵熱やメタンガスの問題が机上論議されていたが、私たちが三菱商事の支援で現実に行ったブラジル・アマゾンのベレンやボルネオビンツルでの実績、酒田市などで輸入木材の樹皮などのいわゆる木性廃棄物を土と混ぜて形成されたマウンド上の森の再生などに、我々はすべて成功している。(同書57-63頁。原文のまま)

03、宮脇さんの提案

 私たちもそれ(万里の長城)にならって、東北地方から始めて、日本列島の海岸沿いに、将来的には3000キロメートルに及ぶ「森の長城」を築いてはどうか?

 この3000キロメートルに及ぶ「森の長城」は、鎮守の森を残してきた日本人ならではの知恵と、エコロジカルな脚本に則った本物の森づくりのノウハウの結晶であり、地球人類の未来にとってのすばらしい見本となる。

 私は、こうした取り組みこそが、今回の震災によって亡くなられた方々、今なお大変な生活を続けておられる多くの被災者たちの遺伝子、文化、想いを後世に引き継ぐ最も有意義な方法であると同時に、どんな試練にも打ち勝って生き残ってきた、日本文化の象徴でもあるタブノキの精神を世界に伝えていくことが、私たちの役割、使命であると確信している。(同書228頁)

04、牧野の感想

 ① 大賛成です。今、浜松市と静岡県では、一条工務店が「防波堤のために300億円を出す」と言ってくれたので、その具体化が進み始めているようです。が、その内容は「コンクリート製の15メートル位の防波堤を作る」ということのようです。我々はそれを止めさせて、「緑の防波堤」に替えさせるように発言してゆくべきです。

 ② その他の所でも、出来るところから、直ちに、「鎮守の森」を作り始めるようにしましょう。

 差し当たって問題なのは「浜松市のセントラルパーク構想」です。元城小学校を解体するらしく、その跡地に「文化センター」という名の「非文化的な粗大ゴミ」を作ろうとしているようです。これを止めさせて、そこに「宮脇方式」による「いのちの森」を作らなければなりません。今駐車場になっている「体育館跡地」も「いのちの森」に替えたいものです。

      関連サイト

いのちの森プロジェクト

          関連項目

森の防波堤を実現する財団法人

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