山本 譲司
この10年で、刑務所の中は本当に変わりました。「管理あって処遇なし」だったのが、教育や職業訓練が積極的に行われるようになり、隔世の感があります。
一時は7万人を超えた受刑者は、今は約5万人です。新たな受刑者をみると、窃盗や薬物、詐欺(無銭飲食)、交通事犯で8割近くを占めます。殺人にかかわった人は未遂を含めて1%ほどです。
犯罪認知件数が減る一方、再犯率は上がっています。高齢者と障害者の増加が目立ちます。何が起きているのか。社会の中に居場所のない人が、重罪ではない犯罪を繰り返しては、刑務所に「避難」している。刑務所というところは結局、社会の問題を映し出す鏡なのですね。
このように刑務所が福祉の代替施設となっている状況を著書で指摘してきましたが、受刑者処遇法の施行以降、改善しました。各都道府県に地域生活定着支援センターが設置され、本来の福祉へとつなげていく回路もできました。刑務所には福祉職や心理職のスタッフが配置され、更生プログラムが組まれています。一挙手一投足を監視され自由を奪われることは、言われたことをするだけなので実は楽なのです。はじき出された社会という場を常に意諭しながら、自分で考える訓練をさせられる方がずっと厳しい。だから、刑務所の中に社会をつくる必要があります。
私が運営にかかわっているPFIという半官半民方式の刑務所では、訓練生の責任感と自主性を培う処遇を行っています。ほかの刑務所でやっているような隊列行進はなく、受刑者はそれぞれ一人で歩きます。いつか戻る街には、行進している人などいませんから。資格の取得を促し、所内で就職面接もしています。
受刑者にとっては厳しい、充実した処遇をしてこそ、納税者の一人として社会に復帰させることができます。単純作業だけではなく、教育や職業訓練を徹底させ、生きる力を少しでもつけさせることが大事なのです。
今後の課題は、障害のある受刑者の処遇です。刑期を終えて社会に出ても、やっていけそうにない人たちがいます。そもそも裁判を受ける能力があったのか疑わしい人も見受けられます。付添人をつける少年事件の審判のように、第三者を加えた審理の進め方を検討してほしいです。
刑務所の中と出口がこの10年で変わったとはいえ、入り口の刑法は明治以来の旧監獄法を前提にした懲役刑一辺倒のままです。罪に応じた償い方の選択肢を増やしていく必要があります。社会にいながら奉仕活動をする刑もその一例です。罪を犯した人たちをどう受け入れるか、一人ひとりの意識も問われています。 (聞き手・北郷美由紀)
(朝日、2016年09月03日)
感想
筆者(聞き書きのようですから「話し手」とでもいうべきか)は元衆議院議員だった人で、秘書の給与か何かの問題で懲役刑となったようです。元々志の高かったひとなのでしょう。服役中も模範的で、所に協力して働いたようです。
この記事もたくさんのことを教えてくれます。ぜひこういう動きが伸びて行ってほしいものです。