すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【サッカー日本代表】戦術は自分たちの欠点を修正するためにある

2017-12-20 05:00:00 | サッカー戦術論
よさを伸ばすと同時に「悪いところ」を直す

 サッカージャーナリストの小宮良之氏が、「戦術は自分たちの優位を生かすためにある」と唱える記事を興味深く読んだ。小宮氏はタテにボールを入れるハリルの戦術を「ただ蹴り込むだけ」と批判し、日本代表は自分たちのよさを生かして「ボールを持てる選手を主軸にせよ」と結論づけている。

 戦術は自分たちの優位を生かすためにある?

 なるほど確かに、一面では真実だ。だが物事には両面ある。他方では「戦術は自分たちの課題を修正するためにある」ともいえる。氏は、この別の面をそっくり見落としている。

 タテに速く大きな展開を狙うハリルの戦術は、ややもすると1〜2メートルの弱々しいショートパス一辺倒になりがちな日本人の「小さいサッカー症候群」(意味はこの記事を参照のこと)を修正するための処方箋になっている、ってことだ。

 日本人のパスにはボールスピードがない。川崎フロンターレのMF大島あたりが典型だが、日本人のパスは弱く、しかもショートパスばかりだ。強くて速いパスが出せない。

 一方、現代サッカーでは守備戦術がますます高度化している。そのため特に中盤にはスペースがない。そんな現代サッカーにおいては、日本人のような弱いパスは通用しない。敵にすぐカットされてボールを失う。スペースのない密集地帯でパスを通すには、強くて速いパスが絶対的に必要なのだ。

 裏を返せば日本人の弱くて短いパスはJリーグ限定である。フィジカルコンタクトの少ないJリーグでしか通用しない。完全にガラパゴス化している。世界で勝てない。それが日本人の「パスサッカー」なるものの正体だ。

日本人はフィニッシュで終われない

 加えて日本人の最大の欠点は「ゴールではなく、パスをつなぐこと」をめざす点だ。たとえば東アジアE-1サッカー選手権の日韓戦を見ればよくわかる。韓国は攻撃に移ると必ずシュートで終わるが、日本はほとんどフィニッシュに行けない。

 いや、「行けない」のではなく「行かない」のだ。

 本来、パスをつなぐのは最後にゴールし試合に勝つためだ。パスは勝つための手段にすぎない。だがパスサッカーが大好きな日本人は、パスをつなぐこと自体が目的化してしまっている。

 日本人はパスサッカー信仰が強いため、ゴール前でシュートできる局面でも、まだパスできる味方をさがす。自分でゴールを決めて落とし前をつけようとせず、だれかにボールを預けようとする。責任回避する。だからフィニッシュで終われない。これは致命的な欠点だ。

 またボールをもらったとき、まず自分で「前を向こう」としない。少しでも敵のプレッシャーを受けたらバックパスに逃げる。結果、バックパスばかりで、ボールは一向に敵のゴールへ向かわない。この点も日本人にシュートが少ない一因だ。

 結論として日本人の歪んだパスサッカー信仰は、消極的で後ろ向きな日本人特有のサッカースタイルを生む原因になってしまっている。

ハリルは日本サッカーを変える「破壊者」だ

 こんなふうに日本人は弱くて短いパスばかりつなぐ。しかもボールを持ちすぎたり、ひんぱんにバックパスする。そんな日本人の「小さいサッカー」を見て、ハリルは「タッチ数を少なく」「ボールをタテに入れろ」「ダイアゴナルな長いサイドチェンジを使って大きく展開しろ」と言い始めた。

 ハリルは相手チームの弱点を分析し、戦略を練るのが得意な監督だ。もちろんその分析能力は自分自身のチームにも向かう。

 つまり彼は日本代表を分析し、日本人のパスサッカーが抱える問題点を把握した。で、「大きく、強く、速く」と提言し始めた。加えてボディコンタクトを避ける日本人の欠点も見抜き、「デュエルだ。激しく競れ」とも言い出した。すなわちハリルは日本サッカーが抱える課題を修正するための方策を打ち出しているわけだ。

 おわかりだろうか?

 確かに戦術は「自分たちのよさを生かす」ためにある。だが反面、「自分たちの欠点を修正する」ための処方箋にもなる。物事には両面あることを忘れてはいけない。

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