軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ガラスの話(4)中・東欧ガラス記-3/3

2017-12-29 00:00:00 | ガラス
 翌朝、ウィーンを出て、南東方向に228km離れた、今回の3番目の目的地であるブダペストにバスで向かった。出発時に高速道路脇にうっすらと積もっていた雪は、南下するにつれて次第に見えなくなり、周囲のなだらかな平原には風力発電機が多数現れて、しばらくの間続いた。


ウィーンからブダペストに向かう高速道路から見える多数の風力発電機(2017.12.6 撮影)

 3時間ほどで到着したブダペストの街はプラハと似通ったところがあり、ヨーロッパ第2の河川ドナウ川の両側に広がる街並みは「ドナウの真珠」と讃えられるというが、そのとおりで特に夜景はとても美しい。

 ドナウ川西岸のブダ地区は丘陵地が続き、古く静かな町並みが残っている。東岸のペスト地区は平坦地で、国会議事堂など文化的建物が立ち並んでいる。

 現地ガイドの案内で、まずドナウ川西岸の小高い丘、ゲレルトの丘(235m)に向かった。ここにはかつてハプスブルグ時代に刑務所があって、見せしめのために市街地から良く見える場所を選んだとされる。


ゲレルトの丘にある刑務所としても使われた、要塞ツィタデッラの横を通り過ぎる(2017.12.6 撮影)

 今はその逆で、この場所はブダペスト市内とドナウ川の雄大な流れを一望にできる絶景スポットして人気がある。


ゲレルトの丘からのペスト地区の街並み、中央は聖イシュトバーン大聖堂(2017.12.6 撮影)


ゲレルトの丘からの王宮とブダ地区の眺め(2017.12.6 撮影)

 この場所から正面に見える「くさり橋」は、ブダ地区とペスト地区を初めて結んだ、ドナウ川にかかる最古の橋として知られ、ブダペストのシンボル的な存在とされている。名前の由来は、夜ライトアップされると電球の光がくさりのように連なって見えることからきていて、橋がくさりで吊られているわけではない。


ドナウ川とブダ・ペストの市街地の眺望。くさり橋が見える(2017.12.6 撮影)


雄大なドナウ川の流れと、そこにかかるくさり橋。その後方に見えるのは、マルギット島とマルギット橋(2017.12.6 撮影)


ドナウ川のクルーズ船から見た夜のくさり橋、橋の名前の由来となった電球列が美しい(2017.12.6 撮影)

 さて、雄大な眺望を楽しんだ後、ブダ地区の標高167mの丘の上にある王宮に向かった。ここは歴代の国王の居城で、13世紀にブダペストの北西方向のエステルゴムからの遷都後に建築が始められ、15世紀のマーチャーシュ時代に王宮は黄金期を迎え、ゴシック様式からルネサンス様式に大改造された。その後約700年間のトルコ軍の侵攻や大戦による崩壊と再建を繰り返したというが、そのためにさまざまな様式に改築されている。

 現在見られるゴシックとバロック(ネオ・バロック)の折衷様式に改装されたのは18世紀のハプスブルグ帝国の時代という。そして第二次大戦後の1950年に現在の姿になり、今は美術館や博物館として公開されている。この王宮の眺めも夜の方が圧倒的に美しい。


ドナウ川のクルーズ船から見た王宮の夜景(2017.12.6 撮影)

 この丘の上には王宮のほかいくつかの観光スポットがあり、マーチャーシュ教会、漁夫の館、イシュトヴァーンの騎馬像などを順次見て回った。
 

マーチャーシュ教会(2017.12.6 撮影)

 13世紀後半に建立されたこの教会は、1479年にマーチャーシュ王により再建されたことから、マーチャーシュ教会と呼ばれている。この教会のステンドグラスは第二次大戦中、戦禍を避けて取り外され地下室に大切に保管されて、戦後再び現在のように取り付けられたという。そのステンドグラスの美しい様子は外からは見ることができなかったが、偶然、内部からの照明があたっているためか、夕陽がどこかに反射しているためか、一箇所明るく照らされて、きれいな色の見える場所があった。


マーチャーシュ教会のステンドグラスが一ヵ所だけ明るく見える(2017.12.6 撮影)


見えたのはキリスト像?(2017.12.6 撮影)


漁夫の館(2017.12.6 撮影)

 1896年に建国1000年を記念して建てられたこの白亜の砦である「漁夫の館」からは、ドナウ川対岸のペスト地区を一望にできる。一風変わったこの名称は、かつてここに魚市場と漁業組合があり、戦の時に漁師がここを守っていたことに由来するとされる。


聖イシュトヴァーン騎馬像(2017.12.6 撮影)

 建国の父とされる初代国王のイシュトヴァーン1世(970?-1038)は国内のキリスト教化を達成しているが、その功績により聖人に列せられ、騎馬像はその印としての2重十字架を持つ姿に造られている。

 見学の後、ブダ地区から普段は重量制限のため大型バスは通れないという「くさり橋」を何故か特別に通行して、ペスト地区のヴルシュマルティ広場で開かれているクリスマス・マーケットに向かった。

 このくさり橋のライトアップ用の電球の設置に日本が協力したということや、近く大改修が計画されているので通れなくなるといったことが理由となっての大サービスだったようだ。


バスでくさり橋を渡る(2017.12.6 撮影)

 ヨーロッパではこの時期どこもクリスマス・マーケットが立ち、観光客も加えて賑わいを見せているが、このブダペストでも同様であった。


クリスマス・マーケットに集まる人でにぎわうヴルシュマルティ広場の夜景(2017.12.6 撮影)

 今回はガラスショップを見ることが目的であったので、賑わいを離れて、優れたエングレーヴィング加工を施したガラス器を製造・販売している店「ヴァーガ・クリスタル」を訪問した。

 場所は、クリスマスマーケットが開かれている広場から数分のところにある。日本でも磁器で有名なヘレンドのショップが隣にある。


ヘレンドとヴァーガ・クリスタルのショップが並んでいる(2017.12.7 撮影)


ヴァーガ・クリスタルの直営店(2017.12.6 撮影)


ショーウィンドウを飾るガラス器(2017.12.6 撮影)

 店の入り口上部に示されているが、この工房の製品はハンガリー国内のほか、海外ではニューヨーク、ビヴァリー・ヒルズ、ロンドン、ドバイなど限られた場所で販売されているようである。

 事前の調査ではまだ日本での販売はないと思われたので、その点を質問すると思いがけない答えが女性店長から返ってきた。それは、日本にはいい印象を持っていないということであった。

 以前、日本のある会社と取引をしようということになり、工房の技術者など数名を派遣するなどして交流を深めたが、その後うまくいかなくなったため、日本とはそれ以来取引をしていないという。

 店内に陳列されている種々の素晴らしいガラス器をしばらく鑑賞してこの店を出た。

 次に向かったのは、ガイドブックにも紹介されているアイカ・クリスタルの店。この店は本の中で次のように紹介されている。

 「19世紀、バラトン北部のアイカ地方で誕生したガラス製品。ガラスの紫色カラー製法には世界で初めて成功した。同店では、古都ペーチで建築用のタイル文化をはぐくんだ、ジョルナイ陶器も扱う。濃紺の模様に金の装飾など、格調の高さが特徴。」とある。

 ここでいう紫色は希土類金属のネオジムの添加だろうか。デパートのガラスショップで見たことがあるのだが、ネオジムを添加したうす紫色のガラスは、宝石のアレキサンドライトのように照明光によりその色がうす紫から青に変化することで知られる。

 また、私が入社間もないころ、ガラス溶解を行う研究室で、ガラスレーザー用に製造されたネオジムガラスを見たことがある。やはり、美しいうす紫色をしていたことが思い出される。

 さて、店は間口に比して奥行きのずいぶん長い、京都などの町屋のようなつくりになっていて、非常に多くの商品が整然と陳列されている。しばらく見せていただいた後、カップ部分が金赤の被せガラスにカットを施した美しいワイングラスを一対お土産に購入することにした。


金赤を被せたカット装飾のあるワイングラス(2017.12.12 撮影)

 この金赤というのは、ガラスに金を添加することでピンク~赤に発色させたものであるが、添加する金の量は僅かでこのために価格が大幅に上がることはないようである。それよりも添加した金を最適な状態でコロイド化させる技術の難度が高いことが指摘されている。

 店に並んだ膨大な数の、形や色の異なるガラスの陳列に驚いていると、店長と思しき女性が、写真を撮っていきなさいと勧めてくれたので、妻が支払いをしている間、喜んで撮影にかかった。


青色や淡青色のガラス器が並ぶ店内(2017.12.6 撮影)


透明や緑色のガラス器が並ぶ店内(2017.12.6 撮影)


黄色や透明のガラス器が並ぶ店内(2017.12.6 撮影)


様々な色のガラス器が並ぶ店内(2017.12.6 撮影)


大型の花瓶類が並ぶ店内(2017.12.6 撮影)

 このアイカ・クリスタルを最後に今回の中・東欧のガラスを見る旅を終えることになった。

 日本に帰る前日の夕刻にはドナウ川に舟で出て、美しい夜景を楽しむことができた。先に示した王宮やくさり橋のほか対岸の国会議事堂の夜景もまたとても美しいものであった。


ドナウ川に沿って建つ国会議事堂の夜景1/2(2017.12.6 撮影)


ドナウ川に沿って建つ国会議事堂の夜景2/2(2017.12.6 撮影)

 ハンガリーは国土全域から温泉が噴出している温泉王国でもある。幸い宿泊したホテルでも温泉浴や温泉プールなどを利用できることが事前に判っていたので、水着を用意していった。今回の旅行の最後の思い出はこの温泉に入ったことであった。(中・東欧ガラス記 完)

 








 


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