トランプ政権の独善的な姿勢には不快感が:
そもそも「相互関税」=reciprocal tariffとは「相互関税は相手国が自国商品に賦課する関税率と同じ水準で関税を上げること」である。「リシプロケイト」と聞いて「レシプロエンジン」(=reciprocating engine)を思い浮かべられた方がおられるかもしれない。これは「往復動機関あるいはピストンエンジン・ピストン機関」のことである。何を言いたいのかと言えば「相互」なのである。
ところが、トランプ大統領が賦課すると唱えだした関税率は決して「相互」ではなく、「出鱈目な計算式によっている」と非難する声が上がったように同じ水準どころではないのだ。一方的な高率を、同盟国であろうと何だろうと遠慮会釈無くかけようとするものだった。しかも、そう宣言したかと思えば、一旦停止して90日間各国と交渉すると言い出したのだ。
これを聞いて真っ先に思い当たったことが「朝貢外交」である。トランプ大統領は既に「アメリカと世界を統治する」と言い出しているので、将に王様気取りである。そして、我が国の赤沢亮正大臣の交渉団を始めとして各国が「カード」とやらを携えてワシントンDC詣でを開始した。この事態には大いなる違和感を覚えるのだ。「関税をかけたいが如何か」と商務省が申し入れに来たという話は聞いていない。
20年以上もアメリカの対日本向け輸出の最大手メーカーの一員として交渉を担当してきた者から言えば「国際的な交渉とはかくも一方的なことではなく、相互に対等な立場から腹蔵なき意見を交換し、討論し、論争した上で結論に到達すべき性質なのである」なのだ。関税をかけられた国側が「カード」とやらいう貢ぎ物を持参して、譲歩の交渉をするような片務性があるものではないと信じている。
トランプ大統領が「MAGA」と「アメリカファースト」の旗印の下に「衰退の一途を辿っていたアメリカの製造業を復活させ、憎き貿易赤字を削減し、job(これは雇用と訳すべきではない)を増やし、景気を振興させる」との政策は理解できないでもないが、そこに導こうとする政策と手法に誤りがあるのだと思う。
それは、トランプ大統領はつい先頃まで「関税とはアメリカ向けの輸出国と輸出企業が負担すべき税」と思い込んでおられたので「tariffとは美しい言葉」という迷言を唱えておられた。また、知ってか知らずにか「アメリカの自動車が日本で売れないのは、日本の規制と非関税障壁の為だ」と、非常識なことを言って非難しておられた。アメリカ国内を走り回っている日本車が現地生産である点には触れようともしないで。
それだけではない「関税を払うのが嫌だったら、アメリカに来て作れば良い」とまで平然として言い出していた。アメリカの職能別労働組合員たちの労働力の質の低さと、時間給を上げすぎたが為に、多くの製造業の会社が海外の質が高くて労務費が低い労働力とを求めて「アメリカを空洞化させた」事実など知らん顔なのだ。現場の組合員たちの質の問題は、20年以上彼等と接してきた私は十分に承知しているのに。
アメリカの自動車業界の衰退は日本、ドイツ、イタリア、韓国の輸入車の所為ではないことは明白だし、海外の市場でアメリカ車が売れていないことはアメリカというかDetroitの不勉強の為であり、輸出相手国の品質の要求を満たそうとしない頑なな姿勢にあるのも明らかだ。簡単な例を挙げれば、ドイツやイタリアのメーカーはチャンと右ハンドルの車を作っている。
輸出業界が従うべき大原則は「輸出相手国の規格と品質のニーズ(カタカナ語なのだが、ニーズとは、「要求」「求めているもの」といった意味を持つ言葉で、語源は英語のneedであり、英語のneedは必要性や理由や義務という意味)に適合する製品を作る努力をするのは当然である。それをせずして「買わない方が悪い」とは不誠実であると決めつける。我が事業部がどれほどの努力をしたか教えてあげたい。
そういう努力をしようともせずに、非関税障壁だの規制がどうのと言い募っている不勉強なことは、アメリカ市場に揺るぎなき地盤を構築した日本の自動車メーカーが知らないとでも思っているのだろうか。知った上で言っているのであれば、自らの努力不足が招いた結果を他人の所為にしている無責任な姿勢ではないか。
嘗ては全アメリカの会社の中で日本向け輸出額がボーイング社に次いで第2だったウエアーハウザーの輸出担当者だった私は承知している。赤沢亮正大臣もベセント財務長官(ベッセントなどという「ッ」の発音は英語にはない)との交渉の場で、この点を充分に指摘されたことだと信じている。
私はトランプ大統領のtariff作戦は突っ込みどころ満載だと見ている。大統領には「何か重大なことを強引に要求したいか押し進めたいのであれば、他国の事情を充分に調べ上げた上で、自国内でやるべきことをやってから着手して下さい」と申し上げて終わる。
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