誠心誠意論:
黙って最後まで聞いていていただけ:
社内で敏腕の評判が極めて高かったDonは、同時に「日本人キラー」とも呼ばれていた。彼はさらに日本市場では「Donさんは本当に良い人」と圧倒的に評判が良かったし、日本市場における地盤を着々と拡張していた。ある時に、彼の帰国と私の本部出張が同じフライトとなり、空港のラウンジで顔を合わせた。
Donとは事業部は違っていたが、顔見知りだったので思い切って「何故貴方は日本の客先に歓迎されているのですか」と尋ねてみた。彼は意外にも淡々と語り出したのだった。彼が語る「日本市場に受け入れられる手法」は、何と言って良いか俄に判断できない微妙なものだった。だが、微妙に示唆に富んでいて考えさせられる話だった。
彼が日本市場における地盤の拡張を目指していた頃には、多くの見込み客(prospective customerまたはaccount)の方から接触があったほど、我が社の評判は既に高かったそうだ。彼が難渋した事があった、それは、到底我が社が取引を望まないような小規模な会社の社長さんが本社まで来られて、何が言いたいのか疑問に思う話を延々と続けるので閉口して、会談を途中で打ち切った事まであったとか。
だが、中には何度でも繰り返し出張して、一所懸命に「取引開始」を真摯に要望される社長さんも何名もおられたそうだ。Donはあるとき、退屈ではあったがその懸命に訴えておられる話を最後まで聞き通したのだそうだが、取引を承諾した訳ではなかった。ところが、その社長さんは「Donさんは良い人だ。私の願いを最後まで聞いてくれた。誠意を示せば解ってくれる」と、同業者に触れ回ったのだそうだ。
そこで、彼が解った事は「日本のお客との接触の時には、未だ取引があろうとなかろうと、その言わんとするところ(喩え退屈な内容であっても)に反論などせず、途中で打ち切ることなく、最後まで聞き終える事が肝心なのだ。そこで初めて心が通じ合うのだ」という点だったそうだ。お客様が示す誠心誠意に応える事が重要だと悟ったと言う話だ。
一旦「良い人」との評価が確定したのが成功の鍵だったので、Don某(ナニガシ)は何処に行っても歓迎され、親しい間柄を築いて行けたのだったと語ってくれた。別な視点に立てば「日本市場にはイエスかノーかで迫るのは望ましい手法ではなく、辛抱強く何度でも誠心誠意を示す態度が肝心なのだ」という事なのである。
それと似たような事例を見聞した事もあった。60年以上も昔のことだった。私が担当していたエンドユーザーの購買担当者に何度面会を断られても、「宜しくお願いします」とのメッセージと会社概要と名刺と商品見本を置いて帰る営業マンがおられたそうだ。
私もその方と何度かすれ違った時もあった。ある日、担当者が「もう根負けした。名刺から何から20組も貯まったから、会う事にした」と言われた。古き良き時代の営業マンの典型的な売り込みの姿勢だったと思う。成功への切掛けとなるだろう要点は「誠心誠意を示す事」と「怯まず、負けず、諦めずに、何度でも上手く行くまで通い続ける事」にあるようだ。
赤沢大臣の相互関税交渉:
ここまで長々と述べてきた訳は「赤沢大臣がこれほどの短期間に懸命にベセント財務長官他2名の交渉相手に怯まず、負けず、諦めることなく相互関税と自動車他に対する高率のtariffs撤回の交渉に赴かれる姿勢に、誠心誠意と直向きさが痛いほど見えてくるからなのである。
ベセント氏他がトランプ大統領の意を帯しているだけで、何かを具体的に決定するとか、譲歩する権限など与えられていないかも知れない代理人と見抜いておられても、懸命に交渉を続けておられる努力に敬意を表したいのだ。TACO論もお聞き及びだろう。トランプ大統領に何とかして「形勢我に利あらずという事態」を一刻も早く認識させて、撤回させねばなるまいと思う。それこそが国益になるのだ。
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