Tariff man対カナダ(と日本も?):
掲題には「思い出話」とは言ったが、トランプ次期大統領の強硬姿勢がキチンとした歴史と事実認定と知識の上に立っているのかについては、疑問な点が多々あるので、その辺りにも触れておこうかとも考えている。
ドナルド・トランプ次期大統領は国境を隔てる隣国カナダからの輸入にも、25%の関税をかけると既に表明。これについて先頃会談したカナダのトルドー首相は抵抗したかのようだ。それに対してトランプ氏は「それならば、アメリカの51番目の州になれば」と言ったとか言わなかったとか。「アメリカファースト」を強く推進する同氏の事だから、それくらいは言うのかな、程度に受け止めた。
今回はその会談というかトランプ氏の乱暴な発言の是非を論じようというのではない。紙パルプ産業界におけるアメリカ対カナダの貿易関係というか輸出入関連の回顧をしようという企画。
カナダは広大な国土を有し、そこには膨大にして質が高い豊富な木材資源を有している。その資源を活かして世界最大の高質の紙パルプ製品を輸出して業界が成り立っているし、国としても財源にしている。因みに、私がMead社で輸出を担当した製紙用パルプはカナダの工場の製品。
嘗ては、カナダの大手製紙会社はアメリカの新聞社向けに、大量の新聞用紙を供給していた。即ち、大量に輸出していた。人口が少ないカナダは大量生産してアメリカに輸出して初めて事業が成り立つのだったし、アメリカ側もその輸入に依存する関係が成り立っていた。だが、カナダ側にとって困難な材料が発生していた。
それは「カナダドルがアメリカドルに対して高くなりすぎた為に、輸出すればするほど貿易赤字が増加する事」であり、長年契約して続けてきた事業なので、カナダ側は輸出を止める事も出来ないし、アメリカ側にも代替になる新聞用紙メーカーがおいそれと新規参入できるものでもなかった。即ち、カナダは長い間赤字垂れ流し状態に苦しみつつも供給を続けたのだ。
今や2024年の時であり、アメリカの大手新聞社の多くはWeb版を主とするように変わった。アメリカの新聞用紙メーカーは殆どが撤退するか製品を転換するか、廃業するかに追い込まれている。その時代になっても、カナダの新聞用紙メーカーが輸出を続けているかどうかまでは、私も追跡していない。
だが、指摘しておきたい事は「カナダの製紙会社、就中新聞用紙を主力製品としていた会社は、長い間赤字を耐え忍んでアメリカの新聞社に用紙供給を続けてきたのだ。その信頼関係に基づいた取引をしてきたカナダに対して、アメリカファーストのスローガンの下に、何が何でも25%の関税をかける事がfairだとお考えですか」と次期大統領に伺ってみたい気がするのだ。
恐らく、次期大統領はこれまでのカナダのアメリカ向け輸出の赤字の歴史があった事などご存じではないだろうと思う。敢えて言うが「関税とは輸出国が負担する税金」だと信じておられた方である。アメリカ対カナダの貿易取引の過去の事まで踏み込んで調査されたとは考え難い気がするのだ。「過去の事など知らん。現在から未来が重要だ」と次期大統領に撥ね付けられるかも知れない。
岩屋外務大臣も「我が国は貴国の執拗な要請があって、自動車は現地生産に切り替えて膨大な雇用を創出しました。繊維交渉だって貴国のたっての要望を受け入れて譲歩しました。貴国からの輸入品への関税は限界まで引き下げてあります。それでも輸出が増えないのは貴国の産業界の努力不足の為です」くらいは言って聞かせる必要がある。
22年も対日輸出の第一線に立って、アメリカ第2の日本向け輸出額を誇っていた会社に1994年1月末まで勤務して、実務を担当していたからこそ、ここまで言えるのだ。