新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

年末に当たってトランプ大統領の1年10ヶ月を振り返れば

2018-12-15 14:29:37 | コラム
年末に当たって:

今年の漢字だの流行語大賞などと言われる時期が来たので、私はここでこの際トランプ大統領の就任後の約1年10ヶ月ほどを振り返ってみようかと思うに至った。今や屡々「アメリカを分化させたであるとか、二分割させた」と批判されているトランプ政治であるが、私が未だ嘗て見たこともないような大統領だったことは間違いないと思わせて貰えたほど、彼独特の政権運営だった。別な見方をすれば「彼一人の意向で世界中に混乱を招いたというか、これまでの慣習も約束事も破壊し切ってしまいそうな『アメリカファースト』政治だった」ように思えてならない。

「アメリカファースト」は「アメリカ第一」という訳し方もあるかのようだが、私にはトランプ大統領の政権運営というか外交政策を見ていると「アメリカさえ良ければ良いのだ」との方針を、躊躇うことなく真っ向から振りかざして他国との交渉事に、“Take it or leave it”(我が申し入れを飲むのかのか飲まないのかを明確にせよ)と迫っては譲歩を引き出していたようにしか見えなかった。

こういう手荒いと感じさせるような折衝の手法に余り対座したか聞いたことがない向きには「強引だ」か「高飛車だ」と受け止められるのだ。だが、“Take it or leave it”には別段目新しいものなどない在り来たりのアメリカ式交渉術だと、私は経験上も看做している。ただ、トランプ方式ではその交渉に際して甘い言葉を使う訳でもなく、むき出しに「さー、どうする」と迫っていたところが「これぞトランプ式交渉術」と受け止められてしまうだけだったと思っている。

思い出してみただけでも、選挙キャンペーン中からTPPからの離脱、メキシコとの国境に壁を建設する、NAFTAの改訂、貿易赤字の削減等々を標榜しておられたし、その就任後には京都議定書だったかパリ協定からの脱退、イランとの協定からの離脱、DPRKとの非核化の交渉で金正恩委員長と会談する、中国と十分に折衝の上で貿易赤字の解消の為に高率の関税を課していく、輸出入取引がある各国とFTAを締結する等々の新機軸を次から次へと打ち出して来られた。

特に貿易面の交渉の進め方で如何にもというか、非常に斬新に見えたことがあった。それはトランプ式交渉術にあっては従来の国際的取引の基準であったWTAなどは全く歯牙にもかけておられないように見えた点が「トランプ大統領は国際的な貿易取引には古きWTAを忘れて、新機軸を打ち立てて行かれる意向がある」とすら見えた時期すらあったのだ。だが、事がここまでに至ると、トランプ大統領は新体制を構築されようとする意図よりも「アメリか第一主義」を前面に打ち出しておられるのであり、その結果乃至は副産物として新体制が出来るかも知れないという辺りだと、私は認識しているのだ。

この辺りを別な視点から見れば「対中国や日本との場合のように貿易赤字が大きいままに長年推移してきたのは、これら2ヶ国のやり方が不公平(unfair)であったとのみ主張されて、私がこれまでに繰り返してきた1994年にカーラ・ヒルズ大使が認められた「アメリカの労働力の質に問題がある為に輸出が伸びないのである」というような実態をご承知かどうかは知らぬが、その辺りを一切無視して「当該相手国に責任がある」という単純明快な論法で臨んできておられるのだ。

私に単純に言わせて貰えば「非常に誤ったものの見方であり、反論すべき余地が多々あるのだ」となるし、中国と我が国を同一に論じられてはたまらないのである。私は我が国の対アメリカ輸出は「アメリカの産業界の至らざる点を補っている」のであって、中国のように最早アメリカで作っていては採算が取れなくなった非耐久消費財を輸出しているのとは訳が違うと認識して頂きたいのだ。我が国がアメリカ産の車を輸入していない要因は上記のヒルズ大使の言を引用すれば事足りると思っている。

私はトランプ大統領という方は、もしも単純なで悪ければ簡単に言えば、何が何でも「アメリカ第一」を徹底的に推進しておられるのであって、そこを飽くまでも推進すれば他国との間に多少の軋轢を生じるのは先刻ご承知の上であり、そのような「アメリカファースト」と「アメリカを再び偉大に」と公約した以上、そこを何処まで行っても推進するのは当然であるとお考えなのだと思う。また、これほど解りやすい政治をすれば、彼の岩盤の非知識階級以下の支持層にも解りやすく、既に届け出ある再選を有利にすると見込んでおられると思っているのだが。

しかしながら、そうは看做していても、私如きには解らないことがある。それは飽くまでも「アメリカ第一主義」を推し進められ、もしも世界にトランプ大統領主導の新体制が樹立(出現?)した際に「世界はどうなってしまっているのだろうか」という簡単には解けない疑問が残るという点だ。中国は貿易戦争勃発かと騒がれた時のように「アメリカに完膚なきまでに叩きのめされているのだろうか」という点や、EU圏内の諸国はどうなっているのかとか、ロシアやイスラエル対パレスチナの関係はどうなってしまっているのか等々考えさせられる点もまた多いのではないだろうか。

私はトランプ大統領が現在の姿勢を維持し得る限りは国内でのトランプ支持層は動かないだろうから、再選の可能性は高いと思って見ている。トランプ大統領は厳しく移民の流入を制限する方向にあるが、その連中は一旦アメリカ市民権を得るやラストベルトの労働者やプーアホワイト以下と同様に「多数である少数派」としてトランプ大統領支持に回っていくのではないかと見ている。故に、従来の支持率の38%が限りなく50%に近くなっていくという気がするのだ。その辺りが「アメリカの分化」だと思って見ている。だからこそ「アメリカファースト」を推進し続けられるだろうと思っている。