畏きお陰をば
―重なる苛め桐壺更衣にと―
帝ご庇護を 一身に
受けるに増して 桐壺更衣をば
貶めなして 粗探す
女の多くに なるにては
弱き身なるの 更増すに
寵愛無くば 斯くもやと
勿体無きに 悩み為す
桐壺更衣部屋なる 桐壺は
宮の東北 北の端
帝お渡り 通い路の
数多部屋なる 女御らの
間なき通いの 胸潰れ
嫉み膨れも 諾なりし
お召しに桐壺更衣 応え行く
通い度々 なるにつれ
打橋なるや 渡殿の
通り道なる 此処彼処
不浄なる物 撒き散らし
送迎人の 衣裾
耐え難きにの 台無しに
【打橋】
殿舎と殿舎の間に渡した板の通路
【渡殿】
寝殿造の建物と建物とを繋ぐ屋根のある廊下
またもある時 避け無しの
馬道を行くに 双方で
示し合わせの 戸塞ぎで
きまり悪きに 困らせる
重なる苛め 苦しみに
悩み煩う 桐壺更衣をば
帝不憫と 思い為し
宮中殿舎 我が住まう
清涼殿の すぐ脇の
後涼殿に 住む更衣
追い遣り部屋を 与えしに
元更衣恨むは 一入ぞ
【馬道】
・殿舎の中を貫通している長廊下
・元々は殿舎と殿舎の間に厚板を渡した通路、馬を中庭に入れるときに取外せる簡単な物
【清涼殿】
・内裏の殿舎の一つ
・帝の日常の居所