
儚く日ごろ過ぎて
―弔問向かう靫負命婦―
日々が儚く 過ぎて行く
桐壺更衣実家なる 法要に
帝忠実やか 弔問を
時は経つれど 増す悲哀
女御・更衣も 召されずの
涙に濡れる 明け暮れの
お尊顔拝する 女房胸に
露ぞ積もれる 秋の日々
帝悲嘆の ご様子も
「憎しの寵愛 死し後も
我が胸乱す 女ぞかし」
容赦無きなは 弘徽殿女御ぞ
気遣い訪ね 弘徽殿で
第一皇子ご覧 目の底に
浮かぶ若宮 帝にて
忘れ形見の 恋しさに
腹心女房 己の乳母
様子伺い 遣い為す
秋の野分の 風が吹き
肌寒さ覚える 夕暮れに
帝偲びの 思い増し
靫負命婦 遣わさる
空懸かれるは 夕月夜
【命婦】
・後宮の中級の女官
・夫や父の官名を付けて呼ぶ
※靫負=衛門府の官人
※衛門府=宮城諸門の警護任務
靫負命婦出した その後に
帝しみじみ 月眺め
思わず沈む 物思い
(斯かる月好き 夕暮れは
管弦遊び 為したるに
床し響くの 琴の音や
取り留め無きの 言葉にも
常の女とは 異なりて・・・)
浮かぶ面影 容貌姿形
見るに儚き 幻ぞ
(さても及ばず ありし日の
例え闇中 なりとても
この手抱きし 現実姿には)
〈歌に云うなは 違いぞな〉
【例え闇中】
ぬばたまの
闇の現は
定かなる
夢にいくらも
勝らざりけり
―古今集―
(確かとて
真っ暗闇の
現実は
はるか勝らず
清かな夢に)