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ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

源氏:桐壺(07)儚く日ごろすぎて

2014年01月20日 | 七五調 源氏物語



はかなく日ごろ過ぎて
     ―弔問ちょうもん向かう靫負命婦ゆげいのみょうぶ




日々がはかなく 過ぎて行く
桐壺更衣こうい実家さとなる 法要に
みかど忠実まめやか 弔問おつかい



時はつれど 増す悲哀
女御にょうご更衣こういも されずの
 に濡れる 明け暮れの
尊顔かお拝する 女房ひと胸に
 ぞ積もれる 秋の日々

みかど悲嘆ひたんの ご様子も
「憎しの寵愛おぼえ 死しあと
 我が胸みだす ひとぞかし」
容赦ようしゃ無きなは 弘徽殿女御こきでん



づかい訪ね 弘徽殿こきでん
第一いち皇子みこご覧 目の底に
浮かぶ若宮 みかどにて

忘れ形見 の 恋しさに
腹心女房にょうぼ 乳母めのと
様子 伺い 遣い為す









秋の野分のわきの 風が吹き
肌寒さむさ覚える 夕暮れに

みかど偲びの 思い増し
靫負命婦ゆげいのみょうぶ つかわさる
 懸かれるは 夕月夜

                          【命婦】
                          ・後宮の中級の女官
                          ・夫や父の官名を付けて呼ぶ
                          ※靫負=衛門府の官人
                          ※衛門府=宮城諸門の警護任務





靫負命婦みょうぶいだした そのあと
みかどしみじみ 月眺め
思わず 沈む 物思い

かる月き 夕暮れは
 管弦遊び したるに
  床し響くの 琴の音や
  取り留め無きの 言葉にも
 常のひととは 異なりて・・・)

浮かぶ面影 容貌かお姿形かたち
見るにはかなき 幻ぞ

 さても及ばず ありし日の
 例え闇中やみなか なりとても
 この手いだきし 現実姿すがたには)
 〈歌に云うなは たがいぞな〉

                          【例え闇中】
                           ぬばたまの
                            闇のうつつ
                           定かなる
                            夢にいくらも
                             勝らざりけり
                              ―古今集―
                          (確かとて
                            真っ暗闇の
                              現実は
                            はるか勝らず
                             さやかな夢に)




源氏:桐壺(06)同じ煙に上りなむと

2014年01月16日 | 七五調 源氏物語



同じけぶりに上りなむと
 ―桐壺更衣こうい死後にて三位を賜う―




身内葬場そうばを 避くべきを
桐壺更衣こうい母君 泣きがれ
同じ 煙に 我れもとて

葬送牛車ぎっしゃ 追いて乗り
葬場そうば愛宕おたぎへ 向かいたる

おごそか極む 葬場そうば着き
火葬 儀式に 臨みたる
胸中むねなかなるや 如何いかばかり







亡骸なきがら見ても 生けるがに
  見えるも甲斐の 無きし故
 灰成るさまを 見つれなば
 あきらめきっと 付くもの」と

気丈きじょう言うたも 裏腹と
牛車ぎっしゃ落ちの 狼狽うろたえ
も」と手焼きの 女房らし



内裏だいり使者つかいぞ まいりての
追贈ついぞう三位さんみ 今悲し

せめて前以まえもて 女御にょうごにと
思う 心も 果たせずの
悔やみみかどの あと贈り

女御にょうご相当 三位さんみをば
「この及びの またぞろや」
改め憎み 数多あまた


                          【更衣の位階】
                          ・女御は三位以上
                          ・更衣は通常五位
                          ・この時桐壺更衣は四位


されどなおなる ひと胸に
立ち居振る舞い その美貌きりょう
気立ておだやで 短所きずなしの
憎みがたきの 性質さが女人ひと
ありし の思い 浮かびくる



過分かぶん寵愛おぼえ それ故の
素気すげなきねたみ 受けたれど

情け の深き お人柄
みかどお付きの 女房にょうぼらも
懐かし思い 偲び


 亡くてぞ人の」 言うなるは
くなる時の ことならし
   
                       【亡くてぞ】
                           在るときは
                           在りのすさびに
                              憎くかりき
                           亡くてぞ人の
                             恋しかるける
                          (居りし時
                            ただ居るだけで
                              憎きやに
                           死するに何故か
                             思われるにて)



源氏:桐壺(05)いたう面痩せ

2014年01月13日 | 七五調 源氏物語



いたう面痩せ
  ―下がりし桐壺更衣こうい身罷みまかりて―







まかり出到る 経緯いきさつ
 更ながら 見返るに

照りうばかり 美しく
愛らし女人ひとの おも痩せて
辛さはかなさ あふ胸中むね
伝え果たしも 随意ままならず
今も消えな 耐え姿

ご覧みかどは お狼狽うろたえ
前後見境 さらずと

ああもさんに こうも
 ながらに 誓えども

こたえ気力 さえ無しに
目差まなざだるげ 力
朦朧もうろう意識 れば
みかどは暮れる 途方にぞ




随意ままの歩みも ならずとに
輦車てぐるま用意 宣旨のたまい
許可ゆるしの心 早やつぶ

退出いではならぬと 桐壺更衣こうい抱き

 限り命の 世なれども
 遅れ先立ち はせぬと
  誓いしものを 我れ残し
 行けるべきかや なれひとり」





桐壺更衣こうい絶え絶え 息いて

 この命
   果てんとするの
      今際いまわやに
    生き長らえを
       願うに悲し

                           限りとて
                            別れる道の
                              悲しきに
                            生かま欲しきは
                               命なりけり


こう なる身とは 知らませば・・・」

尚も言わんも 苦し
あえあえぎを 前にして

宮中きゅうちゅ亡骸なきがら 禁忌きんきなを
みかどそれすら 構わずと
最期さいご見定む 積りとぞ






見たる桐壺更衣こういの 仕え人

「今日の祈祷いのりの 始めるに
  僧等集いし 刻限が
 よいに迫れり なにとぞ」と

き立て言うに これまでと
みかど止む無く 許し






桐壺更衣こういまかりし あとからも
みかどの胸は ふさがりて
まどろみ無しの 終夜よもすがら
使者つかい行きの 待つさえ
絶えずのらし お気掛かり

行きし使者つかいが 門口かどぐち
着くや 着かずに 聞こえしは
 夜半過ぎに・・・」の 叫び泣き

すべ無しの 立ち戻り
悲嘆ひたん報告しらせを 聞くみかど
懊悩おうのう心惑まどい こも




みたるの 時なるも
みかど皇子みこをば 手許にと
思われ 為すの 心なも

亡きのえにしを 留めたる
前例ためしこれまで 無かりせば
実家さとへ戻りの 支度したく

仕え人の 泣き惑い
みかど絶え無き ほほ
無心 見上げの ご様子は

死別れ 悲し さら増しの
いとけなさにぞ 胸迫り
言う べく無しの 哀れにて


源氏:桐壺(04)この御子三つに

2014年01月09日 | 七五調 源氏物語



この御子三つに
    ―袴着はかまぎ後に桐壺更衣こうい病む―



生まれし皇子みこも 三歳みつとなり

袴着はかまぎ儀式 第一いち皇子みこ
負けず 劣らず 豪華にて

貯蔵 宝物 総出しの
みかどご意志の 盛大さ

世人よひとそしりの 声あれど
皇子みこ容貌かんばせ 心映こころば
比類ひるい無きにて おのず止む

またの世人よひとは 目見張りて
うっとり ばかり 言うことに

「未だわれ見ず く如き
 人の俗世このよに 生まれを」


                          【袴着】
                           幼児から少年への成長を祝う儀式


この年夏に 桐壺更衣こうい病み
実家さとまかり出を 願い
みかどならじと め置かる

病勝やまいがちなは 常と見て
しばし様子」の 仰せぞも
日に日病患わずらい 重み増し
五、六日に 重篤じゅうとく


桐壺更衣こうい母君 泣く泣くに
みかど願い出 退出まかで許可

退出まかで当たりて 共に
如何いかおとしめ 皇子みこ及び
災禍さいか受くやと め置きて

人目しのびに で給う








とどめ置きたき 思えども
あつきを 宮中に
置いて 置けぬは 道理にて

更衣こうい身分に ありしかば
見送り さえも ならぬ身を
 し思えど 定めにて


源氏:桐壺(03)畏(かしこ)きお陰をば

2014年01月06日 | 七五調 源氏物語



かしこきお陰をば
   ―重なるいじ桐壺更衣こういにと―







みかど庇護ひごを 一身に
受けるに増して 桐壺更衣こういをば
おとしめなして あら探す
ひとの多くに なるにては

弱き 身なるの 更増すに
寵愛ちょうあい無くば 斯くもやと
勿体もったい無きに 悩み為す

桐壺更衣こうい部屋なる 桐壺は
宮の東北うしとら 北の端

みかどお渡り かよ
数多あまた部屋なる 女御にょうごらの
なき通いの 胸つぶ
そねふくれも うべなりし

しに桐壺更衣こうい こたえ行く
通い 度々 なるにつれ
打橋うちはしなるや 渡殿わたどの
通り道なる 此処ここ彼処かしこ
不浄なる物 き散らし
送迎人おくりむかえの 衣裾ころもすそ
耐え難 きにの 台無しに

                     打橋】
                      殿舎と殿舎の間に渡した板の通路
                     渡殿】
                      寝殿造の建物と建物とを繋ぐ屋根のある廊下
































またもある時 け無しの
馬道めどうを行くに 双方で
示し合わせの 戸ふさぎで
きまり悪 きに 困らせる

重なるいじめ 苦しみに
悩みわずらう 桐壺更衣こういをば

みかど不憫ふびんと 思い為し
宮中 殿舎 我が住まう
清涼殿せいりょうでんの すぐ脇の
後涼殿こうりょうでんに 住む更衣こうい
追いり部屋を 与えしに
元更衣こうい恨むは 一入ひとしお

                     馬道】
                     殿舎の中を貫通している長廊下
                     元々は殿舎と殿舎の間に厚板を渡した通路、馬を中庭に入れるときに取外せる簡単な物
                     清涼殿】
                     ・内裏の殿舎の一つ
                     ・帝の日常の居所


源氏:桐壺(02)御契(おんちぎ)りや深かりけむ

2014年01月01日 | 七五調 源氏物語

御契おんちぎりや深かりけむ
    ―玲瓏れいろう皇子みこの生まれ為す―



みかど 桐壺更衣こういの 前世まええにし
深くあるらし 証左あかしにや

玲瓏れいろう玉の 如くなる
うるわ皇子みこの お産まれに


みかど心の はやるにて
いまだ赤児の 皇子みこなるを
急ぎ参らせ らんずるに
類稀たぐいまれなる 美貌きりょうなり



先に生まれし 第一いち皇子みこ
母の女御にょうごの 父なるは
権勢 誇る 右大臣

重き後楯ささえに この皇子みこ
次の春宮とうぐう 言われ為し
うやまわれしは 並ならで
みかど第一皇子このみこ 大切だいじ為す

                          【春宮】=東宮
                          ・皇太子を称して言う
                          ・皇太子の宮殿が皇居の東にあった
                          ※五行説で春は東に当たる
                          ※この時の春宮は帝の弟君

した が新たに 生まれしの
若宮美貌きりょう 勝るにて
みかど若宮このみこ 秘蔵だいじ子と
あつき育ての 限りなし


桐壺更衣きりつぼこうい 元々は
 の女官と 同じくの
軽き扱い 受くる
性格さがひとには あらずして
周辺ひとの覚えも 涼やかな
高貴身分の 風格たたずまい

したがみかどの ちょうあつ
管弦うたげ 始めとし
重き儀式も 先ずの

一夜過ごせし 夜の寝所おとど
下がらせず もの ご執心

しかる扱い 重なるに
軽き性格さがなる ひとなりと
周辺ひとの目さえに 見えたるも



皇子みこの生まれし のちにては
みかど扱い お変えなり
重々 しにと 成りしかば

「もしやこの皇子みこ 次春宮とうぐうや」
第一いち皇子みこ女御ははぞ 疑念ぎねん抱く

これなる女御にょうご 宮中きゅうちゅう
やかた弘徽殿こきでん 住まうにて
弘徽殿女御こきでんにょうご 申しなる





弘徽殿女御こきでんにょうご 入内じゅだい
右大臣みぎのおとどの 権勢を
後楯たてしての 一番まず入内

若きみかどは この弘徽殿女御にょうご
配慮 深きに 扱われ
皇女こうじょもすでに されしの
言葉 重きの 故にてぞ

弘徽殿女御にょうごいさめ たぐいなを
しと思いつ お受け為す





源氏:桐壺(01)いづれの御時(おほんとき)にか

2013年12月31日 | 七五調 源氏物語

いづれの御時おほんときにか
    ―寵愛おぼえ目出度めでた桐壺更衣きりつぼこうい


いずれの御代みよで あったぞな

女御にょうご更衣こういが 数多あまたかず
お仕えなさる  その中に

身分 並には ありしかど
寵愛おぼえ目出度めでたの 女人ひとありき

                          【女御】
                           帝の正室である皇后・中宮を選び出す妃の中の第一身分
                          【更衣】
                           女御の階級に続く第二の身分
                          ※この時まだ「皇后・中宮」は居ない

かねて「我れこそ」 思いたる
女御にょうご 女人ひと 憎らしと
さげすねたむ 限り無し

身分女人ひと 同じなも
低きも共に ねたましと
おだやかならぬ 胸の内


朝夕なしの お都度つど
ひと妬心こころの ざわめきが
恨みとなりて 女人ひと
 に次第と 積り行き

病勝やまいがちにて 気もえて
実家 戻りの 相次ぐに




みかどそれをば 不憫ふびんなと
周辺ひとそしりも かまわずに
可憐あわれいとしと さら
世人よひと「これは」と 思うまで


上達部かんだちめやら 殿上人てんじょびと
不興ふきょうがおにて 目をそむ
「見ていられぬの ご寵愛ちょうあい
 これなんまさに 唐土もろこし
 起こりし世乱みだれ 本朝わがくにに」
言う とは無しの 胸痛め

                          【上達部】=公卿
                           摂政・関白・太政大臣・左大臣・右大臣・内大臣・大納言・中納言・参議・及び三位以上
                          【殿上人】
                           公卿以外で清涼殿の殿上昇殿を許された人

周辺ひと懸念けねんも こうじ果て
悩みの種と 楊貴妃ようきひ
例証ためしも口に 登らんに

渦中女人ひと 漏れ聞くの
たまれずの むねの内

さあれどみかど ご寵愛ちょうあい
無下むげは成らずと 仕え


これなる女人にょにん その名をば
桐壺更衣きりつぼこうい 申し上ぐ




父大納言 既に

母なる人は 旧家きゅうけ出の
由緒ゆいしょある身の 気丈夫きじょうぶ

桐壺更衣むすめこういを 盛り立つと
両親ふたおや揃う 世評せひょうなの
華やかなりし 高貴人きひとにも
負けずと儀式 支度したく

父をくせし 片親の
後楯ささえの薄き 身にあれば
心細なる おや桐壺更衣むすめ