令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

人麻呂編(1)川音高しも

2009年08月17日 | 人麻呂編
【掲載日:平成21年8月3日】

ぬばたまの 夜さりれば 巻向まきむく
           川音かはと高しも 嵐かも


【弓月が嶽(中央奥)と巻向川 左は穴師の山】


人麻呂は 馬を急がせていた 
ここしばらく 吉野行幸みゆきの はからい事で
妻問つまどいが 遠ざかっていた
昨日降った 春の雪 
ぬかるみ  
馬の足取りが もどかしい 

新妻にいづまを待たせてしもうた 巻向郎女まきむくのいらつめ
 待ち焦がれているじゃろう 急がねば) 
三輪山を 右手に見ながら 
馬は 三輪の大社おおやしろを過ぎた 
泥道が続く 
霧の立ち込める中 檜原ひばらもりが見える

巻向まきむくの 檜原ひばらに立てる 春霞 おぼにしおもはば なづみめやも
《霧みたい すぐ消えるよな 思いちゃう そんな気ィなら 無理して来んわ》
                       ―柿本人麻呂歌集―(巻十・一八一三)
夕闇の 訪れに 湿しめの広がり
穴師あなし川の 橋を渡り 川上に 馬首ばしゅめぐらす
(川に 波 立ってきた) 
痛足川あなしがは 川波立ちぬ 巻目まきもくの 由槻ゆつきたけに 雲居くもゐ立てるらし
《穴師川 波立ってるで ざわざわと 由槻ゆつきたけに 雲出てるがな》
                       ―柿本人麻呂歌集―(巻七・一〇八七)
(おお 瀬が 鳴っている) 
あしひきの 山川の瀬の るなべに 弓月ゆつきたけに 雲立ち渡る
《山筋の 川瀬鳴ってる やっぱりな 弓月ゆつきたけに 雨雲あめぐもでてる》
                       ―柿本人麻呂歌集―(巻七・一〇八八)

「今 戻った」 
馬を 飛び降り 門前から 呼びかける 
まろぶが如き 出迎えの 巻向郎女いらつめ
「雨には 合わずに済んだぞ」 
微笑ほほえみ 面伏せる 巻向郎女いらつめ

夕餉ゆうげを 済ませ
くつろぎの ひと時 
山間やまあいの静寂に 川音かわおとが 高い
ぬばたまの 夜さりれば 巻向まきむくの 川音かはと高しも 嵐かも
よるけた 川の水音 こなった 今に一荒ひとあれ じき来るみたい》
                       ―柿本人麻呂歌集―(巻七・一一〇一)

至福しふくの一夜
激しかった雨脚あまあし しだいに 遠のく




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