【掲載日:平成21年8月14日】
・・・夏草の 思ひ萎えて 偲ふらむ 妹が門見む
靡けこの山
【「石見の海」和木真島にて東方。遠景浅利富士】
人麻呂は
寒風に吹かれて 石見の 浜を歩いていた
日本海 荒波風を まともに受け
岩剥き出しの山 這いつくばる木々
荒涼そのままを 見せている浜
波打ち際 打ち寄せる藻 その絡まる様
人麻呂の眼に 共寝の妻依羅娘子が映る
胸に湧き上がる 寂寞の気
妻と離れての 都への公務旅
歌心が 突き上げる
石見の海 角の浦廻を 浦無しと 人こそ見らめ 潟無しと 人こそ見らめ よしゑやし 浦は無くとも よしゑやし 潟は無くとも
《石見の国の 都野の浦 よろし湊も 浜もない 構へん良えで 湊なし 浜は無うても この海は》
鯨魚取り 海辺をさして 和多豆の 荒磯の上に か青なる 玉藻沖つ藻 朝羽振る 風こそ寄せめ 夕羽振る 浪こそ来寄れ
《魚捕れるし 磯の上 朝には風が 夕べ波 青い玉藻を 持って来る》
浪の共 か寄りかく寄り 玉藻なす 寄り寝し妹を 露霜の 置きてし来れば
《その藻みたいに 寄り添うて 寝てたお前を 置いてきた》
この道の 八十隈毎に 万たび かへりみすれど いや遠に 里は放りぬ いや高に 山も越え来ぬ
《振り向き振り向き 来たけども お前居る里 遠なるし 山高なって 隔たるし》
夏草の 思ひ萎えて 偲ふらむ 妹が門見む
《胸の潰れる 思いして お前の居るとこ 見たなった》
靡けこの山
《邪魔する山よ 飛んでまえ》
―柿本人麻呂―(巻二・一三一)
石見のや 高角山の 木の際より
わが振る袖を 妹見つらむか
《恋しいて 高角山の 木の間 袖振ったけど 見えたかお前》
小竹の葉は み山もさやに 乱げども
われは妹思ふ 別れ来ぬれば
《笹の葉が ざわざわ揺れる ざわざわと わしの胸かて 風吹き抜ける》
―柿本人麻呂―(巻二・一三二、一三三)
容赦ない 凍てる烈風
吹きちぎれる 袖 裾
人麻呂の影が 遠ざかる
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