令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

人麻呂編(2)引手の山に

2009年08月16日 | 人麻呂編
【掲載日:平成21年8月4日】

衾道ふすまぢを 引手ひきての山に いもを置きて
          山路やまぢを行けば 生けりともなし

【引手の山(竜王山)手前は大和神社の裏の溜池】


巻向郎女まきむくのいらつめと 人麻呂の 住みどころ
穴師川あなしがわのほとり
庭先の川堤かわづつみに 大きなつきの木が 葉を広げる

うつせみと 思ひし時に たづさへて わが二人見し  
走出はしりでの 堤に立てる つきの木の こちどちのの 
春の葉の しげきが如く 思へりし いもにはあれど 
たのめりし らにはあれど
 
《元気でる時 二人で見たな 若葉のいっぱい茂ったけやき
 そんないっぱい 好きたお前 末おもてた お前やけども》
世の中を そむきし得ねば かぎろひの 燃ゆる荒野あらのに 
白拷しろたへの 天領巾あまひれがくり 鳥じもの 朝立ちいまして 
入日いりひなす かくりにしかば
 
《世の中ならいに 逆らいできず 陽炎かげろう消えて 天行くみたい
 鳥飛び立って 帰らんみたい  太陽ィ沈むよに 隠れてしもた》
吾妹子わぎもこが 形見かたみに置ける みどり児の ひ泣くごとに 
取りあたふ 物し無ければ をとこじもの わきはさみ持ち
 
《残った赤ん 泣くたびごとに 乳も出んのに 胸抱きかかえ》
吾妹子わぎもこと 二人わが宿し まくらつく 嬬屋つまやの内に 
昼はも うらさび暮し 夜はも 息づき明し  
嘆けども せむすべ知らに 恋ふれども  よしを無み

《お前と暮らした 住まいにこもり 昼間ひるまぼっとし よる溜息ためいき
 なげいてみても どうにもならん 恋しがっても うことでけん》
大鳥おほとりの 羽易はがひの山に わが恋ふる いもすと 人の言へば 
石根いはねさくみて なづみ

《後ろの山で お前の姿 見たと聞いたら  岩道いわみち分けて
 らんもんかと 探しに行った》
けくもそなき うつせみと 思ひし妹が  玉かぎる ほのかにだにも 見えぬ思へば 
《生きてるはずと おもてたお前 影も形も 見えんよなった
 あってえんか こんなこと》
                         ―柿本人麻呂―(巻二・二一〇)
衾道ふすまぢを 引手ひきての山に いもを置きて 山路やまぢを行けば 生けりともなし
引手ひきて山 お前まつって 降りてきた ひとり生きてく 気ィならんがな》
                         ―柿本人麻呂―(巻二・二一二)
去年こぞ見てし 秋の月夜つくよは 照らせども あひ見しいもは いや年さかる
去年きょねん見た 秋のえ月 今もええ 一緒いっしょ眺めた お前らんが》
                         ―柿本人麻呂―(巻二・二一一)

つきの木の住みどころ 嘆きの枯れない 人麻呂がいる




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