人麻呂歌集編（25）安の渡りに

【掲載日：平成24年5月1日】

天の川かは　安やすの渡わたりに　舟浮うけて　秋立つ待つと　妹いもに告つげこそ


【天上】毎夜窺うかがう　川向こ辺あたり

白雲の　五百重いほへに隠かくり　遠とほくとも　宵よひさらず見む　妹いもがあたりは
《白雲が　隠し隠して　遠いけど　毎晩見るで　お前居おる所とこ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇二六）
白玉しらたまの　五百いほつ集つどひを　解ときもみず　我れは寝かてぬ　逢はむ日待つに
《白玉の　多数ようけの飾り　付けたまま　うち寝つけんわ　逢う日待ってて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇一二）

【地上】星が揺ゆらめく　川岸向むこて

彦星ひこぼしは　嘆かす妻に　言ことだにも　告げにぞ来きつる　見れば苦しみ
《彦星は　妻嘆くんを　可哀想かわいそと　言葉掛けよと　岸出て来てる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇〇六）

【天上】声よ届くか　向むこ岸までも

天の川　い向むかひ立ちて　恋こひしらに　言ことだに告げむ　妻問ふまでは
《　川に向き　立って見てても　恋しだけ　言葉交わそや　せめて逢うまで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇一一）
天の川かは　安やすの渡わたりに　舟浮うけて　秋立つ待つと　妹いもに告つげこそ
《天の川　安の渡し場　舟浮かし　秋待ってるて　織姫あのこに言うて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇〇〇）
よしゑやし　直ただならずとも　ぬえ鳥の　うら嘆なけ居おりと　告げむ子もがも
《逢われんの　仕様しょうないのんで　恋しいて　嘆いとる云ゆて　告ゆう子居おらんか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇三一）
ぬばたまの　夜霧に隠こもり　遠とほくとも　妹いもが伝へは　早く告つげこそ
《夜霧出て　隠れ遠とおうて　見えんけど　妻の言伝ことづて　早よ聞かしてや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇〇八）
秋されば　川霧立てる　天の川　川に向き居ゐて　恋ふる夜よぞ多き
《秋来たら　霧立つ川に　向かい合おて　恋し思うて　過ごす夜多おいで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・二〇三〇）

【地上】ああ待ち焦こがれ　星消えかかる

久方の　天の川原かはらに　ぬえ鳥の　うら歎なげましつ　術すべなきまでに
《天の川　川原待つ人　織姫おりひめは　嘆き萎しおれて　労いたわしほどや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十・一九九七）



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