【掲載日:平成22年6月29日】
あらたまの 年の経ぬれば 今しはと
勤よ我が背子 我が名告らすな
互いが 互いを思い
気に入られようと 心を砕く
相手あってこその 心配り
これがまた 自分の喜び
白鳥の 飛羽山松の 待ちつつぞ 我が恋ひわたる この月ごろを
《待ってんの もう長いこと なって仕舞た あんた慕うて 恋し続けて》
―笠郎女―〈巻四・五八八〉
衣手を 打廻の里に ある我れを 知らにぞ人は 待てど来ずける
《打廻里居って じっと待ってる 心内 知ってるやろに あんた来えへん》
―笠郎女―〈巻四・五八九〉
あらたまの 年の経ぬれば 今しはと 勤よ我が背子 我が名告らすな
《年月が 経ったから言て うちの名を ええやろ思て 言うたらあかん》
―笠郎女―〈巻四・五九〇〉
我が思ひを 人に知るれか 玉匣 開き明けつと 夢にし見ゆる
《隠してる うちの思いが 知れたんか 櫛箱開いてる 夢見てしもた》
―笠郎女―〈巻四・五九一〉
闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに
《暗い夜に 鳴く鶴みたい 逢われんで あんたの噂 聞いてるだけや》
―笠郎女―〈巻四・五九二〉
君に恋ひ 甚も術なみ 平城山の 小松が下に 立ち嘆くかも
《恋しゅうて どう仕様も無うて 奈良山の 松の下来て 嘆息してる》
―笠郎女―〈巻四・五九三〉
我が屋戸の 夕蔭草の 白露の 消ぬがにもとな 思ほゆるかも
《庭に咲く 夕影草に置いてる 露みたい 心もとない 気持ちやうちは》
―笠郎女―〈巻四・五九四〉
我が命の 全けむ限り 忘れめや いや日に異には 思ひ益すとも
《あんたはん うちは死んでも 忘れへん 日に日に募る 思い抱えて》
―笠郎女―〈巻四・五九五〉
歌に滲む 笠郎女の恋に懸ける直向さ
知りつつも これが 家持の腰を引かせる
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