【掲載日:平成22年8月20日】
わが君に 戯奴は恋ふらし 賜りたる
茅花を喫めど いや痩せに痩す
〈安貴王 ああ どうして
あんな 年寄りに嫁いだのかしら
でっぷり 太った
当初は 世間知った 逞しい人だった
あの当時 若い男は 頼りなかったわ
今は 違うの 細身の 若いのが いい
そう あの 貴公子然の 家持なんか 抜群
あの人 すごく 恋人 多いの
私には 若すぎて 恋人は 無理だけど
小母さま いえ お姉さま でのお付き合い
ちょっと からかって みようかしら〉
紀郎女は 侍女を 花摘みに やらせた
〈「茅花と合歓」この 取り合わせが いいわ
これに 歌を添えて と〉
戯奴がため わが手もすまに 春の野に 抜ける茅花そ 食して肥えませ
《ぼんちをば 思うて採った 茅花食べ ちょっと肥えてや 痩せ身のぼんち》
―紀郎女―〈巻八・一四六〇〉
昼は咲き 夜は恋ひ寝る 合歓木の花 君のみ見めや 戯奴さへに見よ
《昼咲いて 夜は恋見る 合歓の花 姉さま見たで ぼんちも見いや》
―紀郎女―〈巻八・一四六一〉
ほどなく 家持からの 返歌が 届く
〈まあ 早速に
家持坊や まんざらでもないのね〉
わが君に 戯奴は恋ふらし 賜りたる 茅花を喫めど いや痩せに痩す
《姉さまに ぼんち恋した 貰ろた茅花 喰たけど痩せる またまた痩せる》
―大伴家持―〈巻八・一六六二〉
吾妹子が 形見の合歓木は 花のみに 咲きてけだしく 実にならじかも
《合歓の花 いとしあんたに 似てる花 華やかやけど 〈恋の〉実ぃ成らへんわ》
―大伴家持―〈巻八・一六六三〉
〈ふむ ふむ
魅力的だけど 恋はしません だって
照れているのね あの坊や
男ごころ って 複雑なんだ〉
春の朧
月明かりに 梅の花 かそけく 匂う
家持の許に 清らかな 歌が
ひさかたの 月夜を清み 梅の花 心開けて 我が思へる君
《清々し 月夜光に 梅咲いた うちの心も あんたに咲いた》
―紀小鹿郎女―〈巻八・一六六一〉
〈紀郎女は紀鹿人の娘 ために「小鹿」の愛称〉
〈あの 小鹿のばあさん 取り違えたか〉
家持は 苦笑するしかない
まさか妻問いは なかろうと思いつつ
居待ちの月を 眺めやる 紀郎女
闇夜ならば 宜も来まさじ 梅の花 咲ける月夜に 出でまさじとや
《闇夜なら 来えへのんは 仕様ないが 梅花咲く月夜 なんで来んのや》
―紀女郎―〈巻八・一四五二〉
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