古今相聞往来（下）編（16）まだらの蘰

【掲載日：平成25年7月26日】

紫むらさきの　まだらの蘰かづら　花やかに　今日けふ見し人に　後のち恋ひむかも



女の恋は　純情じゅんじょう可憐かれん
相手姿を　良よう見も出来ず
じっと焦こがれて　待つ一方で
今が良よけりゃと　撓垂しなだれ掛かる　　
　　
春日野かすがのに　照れる夕日の　外よそのみに　君を相見あひみて　今ぞ悔くやしき
《今思もうと　横射さす夕日　横の方ほで　あんた見ただけ　悔くやみ頻しきりや》【日に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三〇〇一）
　　　
ぬばたまの　夜よ渡わたる月の　清さやけくは　よく見てましを　君が姿を
《夜空照る　月澄んでたら　しっかりと　あんたの姿　充分よう見たのんに》【月に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三〇〇七）
　　　
夕月夜ゆふづくよ　暁あかとき闇やみの　おほほしく　見し人ゆゑに　恋ひ渡るかも
《ぼんやりと　見ただけやのに　気になって　なんや焦こがれて　仕様しょうないのんや》【月に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三〇〇三）
　　
紅くれなゐの　薄うす染そめ衣ころも　浅あさらかに　相見あひみし人に　恋ふるころかも
《薄赤うすあかの　衣ふくの様よ浅い　軽い気で　逢おうた人やに　なんや恋しわ》【衣に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九六六）
　　　
紫むらさきの　まだらの蘰かづら　花やかに　今日けふ見し人に　後のち恋ひむかも
《今日逢おうた　蘰かずらの似合にあう　あの人に　後あとでこのうち　焦こがれんやろか》【蘰に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九九三）
　　　
祝部はふりらが　斎いはふみもろの　真澄鏡まそかがみ　懸かけて偲しのひつ　逢ふ人ごとに
《気ぃ懸かけて　あんた偲んで　行き違ちがう　人見る度たんび　顔覗のぞくんや》【鏡に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九八一）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（鏡を懸ける→気に懸ける）
　　
梓弓あづさゆみ　末すゑはし知らず　然しかれども　まさかは君に　寄りにしものを
《　行く末の　こと分らんが　今うちは　心べったり　あんた寄ってる》【弓に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九八五）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（弓の末→行く末）
　　
梓弓あづさゆみ　末すゑのたづきは　知らねども　心は君に　寄りにしものを
《先々の　ことどうなるか　分らんが　心あんたに　寄って仕舞しもてる》【弓に寄せて】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・二九八五　或る本）