【掲載日:平成23年7月22日】
霍公鳥 聞けども飽かず
網取りに 捕りて懐けな 離れず鳴くがね
【四月四日】聞きに聞いても まだ聞きたいで
春過ぎて 夏来向へば あしひきの 山呼び響め さ夜中に 鳴く霍公鳥 初声を 聞けばなつかし
《春過ぎて 夏が来たなら 声立てて 夜中鳴く鳥 ほととぎす 初声聞いたら 床しいて》
菖蒲草 花橘を 貫き交へ 蘰くまでに 里響め 鳴き渡れども 猶し偲はゆ
《菖蒲の草と 橘を 混ぜて通して 蘰する 日まで里中 響かせて 鳴き飛びするん うきうき聞くよ》
―大伴家持―(巻十九・四一八〇)
さ夜更けて 暁月に 影見えて 鳴く霍公鳥 聞けばなつかし
《夜が更けて 夜明けの月に 影映し 鳴くほととぎす 心引かれる》
―大伴家持―(巻十九・四一八一)
霍公鳥 聞けども飽かず 網取りに 捕りて懐けな 離れず鳴くがね
《ほととぎす 聞いても飽きん 網張って 捕り馴らそかな ずっと鳴く様に》
―大伴家持―(巻十九・四一八二)
霍公鳥 飼ひ通せらば 今年経て 来向ふ夏は まづ鳴きなむを
《ほととぎす 飼い続けたら 年越して また夏来たら 真っ先鳴くで》
―大伴家持―(巻十九・四一八三)
【四月九日】二上山で 鳴く声床し
桃の花 紅色に にほひたる 面輪のうちに 青柳の 細き眉根を 笑み曲がり 朝影見つつ 娘子らが 手に取り持てる
《紅に 輝く様な 桃花に 似た面差しの 娘子児が 柳の様な 眉あげて 笑顔作って 覗き見る》
真澄鏡 二上山に 木の暗の 繁き谷辺を 呼び響め 朝飛び渡り 夕月夜 かそけき野辺に 遥遥に 鳴く霍公鳥
《その手鏡の 二上の 山の繁みの 谷間から 朝に飛び立ち 鳴き騒ぎ 月の光の 差す野辺で 遥か聞き鳴く ほととぎす》
立ち潜くと 羽触に散らす 藤波の 花なつかしみ 引き攀ぢて 袖に扱入れつ 染まば染むとも
《潜り飛んでは 散らす花 その藤波が 愛して 手に取り袖に 扱き入れた 色が染みても 構へんで》
―大伴家持―(巻十九・四一九二)
霍公鳥 鳴く羽触にも 散りにけり 盛り過ぐらし 藤波の花
《ほととぎす 鳴く羽ばたきで 散って仕舞た 盛り過ぎたか 藤の花房》
―大伴家持―(巻十九・四一九三)