【掲載日:平成23年8月9日】
鮪突くと 海人の燭せる 漁火の
秀にか出でなむ 我が下思を
書持が 夢枕に立った
人懐っこい 笑み湛え 語りかける
「兄上 今日は一つ 歌修練のお浚い 如何です
近頃の歌 書持 些か 腑に落ちませぬ
人麻呂様 赤人様 それに憶良様
学は 良う御座いますが
ちと 模倣が過ぎまする
形は 出来申しても
心映え 少しも 兄上では ありませぬ
殊に 長歌に その兆し 多う見られます
それは ともあれ この弥生初めの
春苑桃李に始まる 一連
あれは 見事に 御座いました
正しく 家持ここにありの趣
いや 感服この上なく・・・」
(・・・おお 夢であったか
書持め 痛い所 突きおって
政治がらみ 人がらみ
忸怩たる 歌詠みも 致し方なしなのじゃ)
夢に気付かされたか その後の家持
書持との 歌修練が時思わせる
こころ直な歌が多い
【五月】
卯の花を 腐す長雨の 始水に 寄る木屑なす 寄らむ児もがも
《卯の花を 萎ます長雨の 水に浮く 木屑寄る様な わし寄る児欲し》
―大伴家持―(巻十九・四二一七)
鮪突くと 海人の燭せる 漁火の 秀にか出でなむ 我が下思を
《明こ燃える 鮪漁師の 漁火ィみたい 人知られ相や 秘めた思いが》
―大伴家持―(巻十九・四二一八)
【六月十五日】
我がやどの 萩咲きにけり 秋風の 吹かむを待たば いと遠みかも
《庭の萩 慌てもんやで もう咲いた 秋の来るのん 待てんて言うか》
―大伴家持―(巻十九・四二一九)
【九月三日】宴
この時雨 いたくな降りそ 我妹子に 見せむがために 黄葉採りてむ
《時雨れ雨 偉う降りなや 散る前に あの児に見せる 黄葉採りたい》
―久米広縄―(巻十九・四二二二)
青丹よし 奈良人見むと 我が背子が 標けむ黄葉 地に落ちめやも
《奈良で待つ あの児見せよと 目ぇつけた 広縄の黄葉 めった散らんで》
―大伴家持―(巻十九・四二二三)
【十月十六日】目秦石竹に勤務報告出発餞
あしひきの 山の黄葉に 雫あひて 散らむ山道を 君が越えまく
《石竹はん 雫に濡れた 黄葉葉の 散る山道を 越えて行くんや》
―大伴家持―(巻十九・四二二五)
【翌天平勝宝三年四月十六日】
二上の 峰の上の繁に 隠りにし その霍公鳥 待てど来鳴かず
《二上の 峰の繁みに 籠ってる あのほととぎす 鳴きに来んがな》
―大伴家持―(巻十九・四二三九)