【掲載日:平成23年7月29日】
・・・平瀬には 小網さし渡し 早き瀬に 鵜を潜けつつ
月に日に 然し遊ばね 愛しき我が背子
この夏 もしやの最後やも知れぬ
思う 家待胸に
去来する 赴任当初からの
大伴池主との友好
無性の 逢いたさ募りに
一月前の 辟田川での鵜飼を思い
そちらの川でもと
鵜を持たせ 文を託して 池主の元へ
天離る 鄙としあれば 彼所此間も 同じ心ぞ 家離り 年の経ぬれば うつせみは 物思繁し
《都から 遠に離れた この田舎 ここもそっちも 同心じや 家を離れて 月日経ち 憂い深うに 沈む日々》
そこ故に 心慰に 霍公鳥 鳴く初声を 橘の 玉に合へ貫き 蘰きて 遊ばむ間も
《気の紛らしに ならんかと 鳴くほととぎす 初声を 聞いて橘 珠に貫き 蘰を付けて 遊んだな》
大夫を 伴なへ立てて 叔羅川 なづさひ上り 平瀬には 小網さし渡し 早き瀬に 鵜を潜けつつ 月に日に 然し遊ばね 愛しき我が背子
《この次どやろ 友連れて 叔羅の川を 漕ぎ上り 浅瀬に小網 張り渡し 早瀬で鵜鳥 潜らせて 月日重ねて お遊びよ 気心知れた 我が友よ》
―大伴家持―(巻十九・四一八九)
叔羅川 瀬を尋ねつつ 我が背子は 鵜川立たさね 心慰に
《叔羅川 早瀬辿って 鵜飼して 楽しみなはれ 気晴らしがてら》
―大伴家持―(巻十九・四一九〇)
鵜川立ち 取らさむ鮎の 其が鰭は 我れにかき向け 思ひし思はば
《鵜飼して 捕った鮎魚 その鰭を わしに送って 礼する云なら》
―大伴家持―(巻十九・四一九一)
【四月九日】