【掲載日:平成22年2月16日】
玉藻刈る 辛荷の島に 島廻する 鵜にしもあれや 家思はざらむ
【唐荷島三島 遠景家島 室津賀茂明神より】

韓泊を出た船
次の停泊地 室津へと向かう
沖合い 家島群島の島影
行く手に 三っつの唐荷島
地ノ唐荷 中ノ唐荷 沖の唐荷
暗礁多い 陸寄りを避け
船は 地と中の間を進む
夕日に染まる西空
振り返る 大和島嶺は はるか 霞の彼方
あぢさはふ 妹が目離れて 敷栲の 枕も纏かず
桜皮纏き 作れる舟に 真楫貫き わが漕ぎ来れば
《お前の顔も 見られへん 安らか眠りも 出けん旅
桜の皮を 張った船 梶いっぱいに 漕いできた》
淡路の 野島も過ぎ 印南都麻 辛荷の島の 島の際ゆ 吾家を見れば
青山の 其処とも見えず 白雲も 千重になり来ぬ
《淡路の島の 野島過ぎ 印南都麻島 後にして 唐荷の島の 間から 家のある方 見たけども
山連なって 分かれへん 雲重なって 見えやせん》
漕ぎ廻むる 浦のことごと 行き隠る 島の崎々 隈も置かず 思ひぞわが来る 旅の日長み
《漕ぎ廻り行く 浦々や 通りすぎてく 島々で お前のことを 思い出す 旅の日数が 長なったんで》
―山部赤人―〔巻六・九四二〕
玉藻刈る 辛荷の島に 島廻する 鵜にしもあれや 家思はざらむ
《辛荷島 エサ捕る海鵜 島廻る 呑気でええな わし家恋し》
―山部赤人―〔巻六・九四三〕
島隠り わが漕ぎ来れば 羨しかも 大和へのぼる 真熊野の船
《島伝い 船で来たなら 熊野船 大和行くんや 羨ましいで》
―山部赤人―〔巻六・九四四〕
風吹けば 浪か立たむと 伺候に 都太の細江に 浦隠り居り
《風が出て 浪立ってくる 風待ちに 細江の浦で 船足止めや》
―山部赤人―〔巻六・九四五〕
赤人の歌に 景が 同化していく
心は 公の柵から 自由となり
私の執着からも 解き放たれていく
さながら 景と遊ぶかの歌心

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