【掲載日:平成21年8月27日】
桜田へ 鶴鳴き渡る 年魚市潟
潮干にけらし 鶴鳴き渡る
【高の槻群 高神社の登り口】

黒人は 放浪していた
鶴女から 音沙汰なしの 三月が過ぎる
官の勤めも 滞りがち
あの夜・・・
「なに 鶴女が 国に帰ったというか」
国で 床に伏したままの 病の父親 その看病の母も倒れたという
「行幸途上での知らせ 私的なこと故 お知らせを 見合せており 申し訳ありません」
・・・家人の声が 今も 耳にある
今日も 鶴女との 思い出の地に出向く
難波潟の 島々を見やる 黒人
四極山 うち越え見れば 笠縫の 島漕ぎかくる 棚無し小舟
《四極山 越えたら見えた 笠縫の 島に隠れた 棚なし小舟》
―高市黒人―〔巻三・二七二〕
住吉の 得名津に立ちて 見渡せば 武庫の泊ゆ 出づる船人
《武庫泊 船を漕ぎ出す 船頭ら よう見えてるで 住吉浜で》
―高市黒人―〔巻三・二八三〕
今日も 今日とて 足は 山城多賀へ
とく来ても 見てましものを 山城の 高の槻群 散りにけるかも
《もっと早よ 来たら善かった 山城の 多賀の槻森 黄葉散ってもた》
―高市黒人―〔巻三・二七七〕
足は伸び 三河
本海道 姫街道の分岐 追分に 黒人の姿
妹もわれも 一つなれかも 三河なる 二見の道ゆ 別れかねつる
《二見道 男と女の 別れ所 離れるもんか お前とわしは》
―高市黒人―〔巻三・二七六〕
〔鶴女との旅 わしが 一・二・三の戯れ歌を 詠いし折 鶴女が 返した歌が 思い出される
なんと 今を 暗に 示めしておったか〕
三河の 二見の道ゆ 別れなば わが背もわれも 独りかも行かむ
《三河国 ここの二見で 別れたら あんたもうちも 一人旅やで》
―高市黒人―〔巻三・二七六、一本云〕
〔ああ 鶴が 飛んで行く 鶴が 鶴が・・・〕
桜田へ 鶴鳴き渡る 年魚市潟 潮干にけらし 鶴鳴き渡る
《年魚市潟 潮引いたんや 桜田へ 鶴鳴きながら 飛んで行くがな》
―高市黒人―〔巻三・二七一〕
旅にして 物恋しきに 山下の 赤のそほ船 沖へ漕ぐ見ゆ
《なんとなく 物の恋しい 旅やのに 丹塗り船が 沖通ってく》
―高市黒人―〔巻三・二七〇〕
〔官の船が 大和へ 帰って行く
わしも 戻らねば ならぬな
誰も居らぬ 大和へ〕

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