【掲載日:平成21年8月20日】
鴨山の 岩根し枕ける われをかも
知らにと妹が 待ちつつあるらむ
【湯抱の鴨山】

しみじみと 見る 依羅娘子
人麻呂が託した歌
鴨山の 岩根し枕ける われをかも 知らにと妹が 待ちつつあるらむ
《鴨山で わしこのままで 死ぬのんか
何も知らんと お前待つのに》
―柿本人麻呂―〔巻二・二二三〕
〔あなた 有難う 間際まで 私のこと〕
〔あの「靡けこの山」の 私の返し歌 覚えていますか 心配した通りでしたよ〕
な思ひと 君は言へども 逢はむ時 何時と知りてか わが恋ひずあらむ
《安心し また逢えるやん 言うたけど 逢われんかったら どないするねん》
―依羅娘子―〔巻二・一四〇〕
〔いつも 言ってましたね「雲は良い」って だから 荼毘にしました〕
〔灰は 霧の立つ 山間の川に
好きだった海にも 行けますね〕
直の逢ひは 逢ひかつましじ 石川に 雲立ち渡れ 見つつ偲はむ
《雲あがれ 逢いたなったら 雲あがれ 逢われへんけど 雲雲あがれ》
―依羅娘子―〔巻二・二二五〕
今日今日と わが待つ君は 石川の 貝に交りて ありといはずやも
《どこおるん 今か今かと 待ちよるに 貝と一緒に 居るて言うんか》
―依羅娘子―〔巻二・二二四〕
〔丹比笠麿さまが あなたに代わって 返し歌を下さいました〕
荒波に 寄りくる玉を 枕に置き われここにありと 誰か告げなむ
《ここに居る 波を枕に ここ居ると みんなに言うてや ここ居るよって》
―丹比笠麿―〔巻二・二二六〕
〔村の人 私の気持ちを 詠ってくれたの〕
天離る 夷の荒野に 君を置きて 思ひつつあれば 生けりともなし
《どう思う こんな田舎に 眠らして あんたどないや うち辛いけど》
―作者不詳―〔巻二・二二七〕
「歌人人麻呂」としてでなく
一人の 「人」としての 安らかな眠り

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