【掲載日:平成21年6月22日】
秋山の 樹の下隠り 逝く水の
われこそ益さめ 御思いよりは
「姉上 どうしたのですか」
額田王は 笑みのこぼれる鏡王女に声をかけた
「文が 来たのです」
「まあ 久しく なかった便りが・・・」
中大兄皇子は 多忙であった
難波の宮での政務は
天皇 孝徳の行うところではあるが
重要な事柄は すべて皇子の意向が尊重された
都が難波長柄豊崎の宮に移される前 皇子に召された鏡王女
都移りの後 飛鳥の地で ままならぬ逢瀬を待つ身となっていた
妹が家も 継ぎて見ましを 大和なる 大島の嶺に 家もあらましを
《高安山に お前の家が あったらな お前思うて ずっと見られる》
―中大兄皇子―(巻一・九一)
「飛鳥の 私のもとに 来られないのを こうして 思いやってくださる 皇子さまのお気持ち 大事にしなくてはと 思うのです
わたし 返し歌を作りました
歌の上手な お前に見てもらうのは すこし 恥ずかしいのだけれど」
秋山の 樹の下隠り 逝く水の われこそ益さめ 御思いよりは
《木の下を 潜って流れる 水みたい うちの思いが 深いであんた》
―鏡王女―(巻一・九二)
【鏡王女墓への道脇・犬養孝揮毫歌碑】
額田王は 微笑ましく思った
(姉は 年嵩なのに 私より 可愛いわ
姉の思い 皇子に 伝わればいいが・・・)
運命の悪戯か
後
額田王は 中大兄の寵愛を受け
鏡王女は 藤原鎌足の正妻に・・・
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