古今相聞往来（上）編（18）御津（みつ）の埴生（はにふ）の

【掲載日：平成25年1月22日】

白しら真砂まなご　御津みつの埴生はにふの　色に出いでて　言ことはなくのみぞ　我あが恋ふらくは



女心は　揺ゆれ浮き舟か
籠こもる家やの内うち　鬱々うつうつ晴れん
本気この恋　揺ゆらぎはせんが
もひとつ燃もえん　心根こころねよぎる
　　
大夫ますらをは　友の騒さわきに　慰なぐさもる　心もあらむ　我れぞ苦しき
《男はん　仲間興きょうじて　憂うさ晴らす　うちら女は　苦してならん》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五七一）
　　
敷栲しきたへの　枕響とよみみて　寝いねらえず　物思もふ今夜こよひ　早はやも明けぬかも
《この枕　ごそごそ動き　寝られへん　思い沈む夜よ　早はよ明あけんかな》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五九三）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（枕響とよむ＝頭転々てんてん　枕が軋きしむ）

ひさかたの　天あま飛ぶ雲に　ありてしか　君を相見あひみむ　おつる日なしに
《空を飛ぶ　雲成なれたらな　うち飛んで　逢あいに行けるで　抜ける日なしに》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六七六）
　　
白しら真砂まなご　御津みつの埴生はにふの　色に出いでて　言ことはなくのみぞ　我あが恋ふらくは
《御津みつ埴生はにゅう　良ええ色出すが　口出して　言いわんだけやで　うちの思いは》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七二五）
　　
住吉すみのえの　浜に寄るといふ　うつせ貝がひ　実みなき言こともち　我あれ恋ひめやも
《住吉すみのえの　空から貝かい違ちゃうで　うちの恋　実ぃある気ぃで　慕しととんやから》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七九七）
　　
朝あさ柏かしは　潤八うるや川辺かはへの　小竹しのの芽の　偲しのひて寝ぬれば　夢いめに見えけり
《あのお人　偲しのんで寝たら　夢に出た　潤八うるや川辺の　小竹しのかて芽め出た》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七五四）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（小竹しの→偲しのひて）

玉藻たまも刈る　井ゐ堤でのしがらみ　薄みかも　恋の淀よどめる　我あが心かも
《うちの恋　なんや燃もえんが　何なんでやろ　邪魔じゃまがないんか　気ィ無いからか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七二一）





――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（17）三島菅笠（すげがさ）

【掲載日：平成25年1月18日】

三島みしま菅すげ　いまだ苗なへなり　時とき待たば　着ずやなりなむ　三島菅笠すげがさ



独り　ごち歌　まだまだ続く
男夢見る　艶あでやか赤あか裳も
待つはあの児の　色いろ好よい返事
滲にじむ自信に　労いたわり心

三島みしま菅すげ　いまだ苗なへなり　時とき待たば　着ずやなりなむ　三島菅笠すげがさ
《三島みしま菅すげ　まだ苗やけど　待ってたら　笠に被かぶるん　逃のがすん違ちゃうか》
（可愛かわい児を　まだ少女こどもやと　待ってたら　そのうち他人ひとに　盗とられん違ちゃうか）【比喩】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八三六）
　　
川上かはかみに　洗ふ若菜の　流れ来て　妹いもがあたりの　瀬にこそ寄らめ
《川上で　洗あろてる若菜わかな　流れ行き　お前の瀬ぇに　寄よらへんもんか》【比喩】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八三八）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（若菜＝作者・自分自身）

山吹やまぶきの　にほへる妹いもが　はねず色の　赤あか裳もの姿　夢いめに見えつつ
《思うてる　可愛かわいお前の　あでやかな　赤い裳も姿　よう夢出よる》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七八六）
　　
道の辺への　いつ柴原しばはらの　いつもいつも　人の許さむ　言ことをし待たむ
《柴原しばはらの　いつやないけど　何時いつかても　あの児こウン言ゆん　わし待まってんや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七七〇）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（いつ<繁る？>→いつも）

大和やまとの　室生むろふの毛け桃もも　本もと繁しげく　言ひてしものを　成ならずは止まじ
《たっぷりの　言葉ことばを掛かけて　誘さそたんや　実みのらしせんと　措おくかこの恋こい》【比喩】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八三四）
　　
ま葛くず延はふ　小野をのの浅茅あさぢを　心ゆも　人引かめやも　我がなけなくに
《小野おの浅茅あさじ　まさか本気で　引き抜く人ん　そら居おらんやろ　わし差さし措おいて》【比喩】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八三五）
　　
思ひ出いでて　音ねには泣くとも　著いちしろく　人の知るべく　嘆かすなゆめ
《わし思おもて　声上あげ泣くん　仕様しょうないが　他人ひと知れるほど　溜息ためいきしなや》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇四）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（16）月の空なる

【掲載日：平成25年1月15日】

この山の　嶺みねに近しと　我が見つる　月の空なる　恋もするかも


逢えん　女は　いじらし限り
待つ　に逢えんし　邪魔され逢えん
袖そで切り刻きざみ　占いしても
逢えん続くが　諦あきらめせんで

時守ときもりの　打ち鳴なす鼓つづみ　数よみみれば　時にはなりぬ　逢はなくもあやし
《怪おっ訝かしな　聞こえる鼓つづみ　数かぞえたら　もう時間やに　あんた来こんがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六四一）
　　
港みなと入いりの　葦あし別わけ小舟をぶね　障さはり多おほみ　我あが思ふ君に　逢はぬころかも
《邪魔じゃまな葦あし　別わけ行く舟や　近頃は　うちも邪魔じゃま多おて　あんたに逢あえん》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七四五）
　　
玉桙たまほこの　道行き疲れ　稲蓆いなむしろ　しきても君を　見むよしもがも
《疲つかれたで　休やすみにするわ　稲筵むしろ敷しき　頻しきり何度なんども　あんた逢あいたい》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六四三）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（敷しきて→しきても＝頻しきりに）

逢はなくに　夕占ゆふけを問ふと　幣ぬさに置くに　我が衣手ころもでは　またぞ継つぐべき
《逢あわれんに　袖そで切きり幣ぬさで　占うが　良ええ卦け出やんで　袖そで継つがならん》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六二五）
　　
この山の　嶺みねに近しと　我が見つる　月の空なる　恋もするかも
《山の端はし　あったあの月　いま上空うえや　うちの恋かて　宙ちゅうぶらりんや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六七二）
　　
我がやどの　穂蓼ほたで古幹ふるから　摘つみ生おほし　実みになるまでに　君をし待たむ
《蓼たでの茎　摘んで育てて　実なるまで　うちは気き長なごに　あんたを待つわ》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七五九）
　　
恋死なむ　後のちは何せむ　我が命いのち　生ける日にこそ　見まく欲ほりすれ
《この命いのち　死んで仕舞しもたら　おしまいや　生いきて逢あわんと　意味あらへんわ》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五九二）
　　
紀伊きの国の　飽等あくらの浜の　忘れ貝がひ　我れは忘れじ　年は経へぬとも
《飽等あくら浜はま　忘わすれ貝がいある　そやけども　うち忘わすれへん　年とし経たったかて》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七九五）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（15）荒びにけらし

【掲載日：平成25年1月11日】

妹いもが髪　上あげ竹葉野たかはのの　放はなち駒ごま　荒あらびにけらし　逢はなく思へば



逢えん　男は　色々思う
絶えず常時しょっちゅう　逢えんかあの児
手立て切きっ掛かけ　探さぐってみるが
段だん取どり悪わるて　怒おこらす始末しまつ

行きて見て　来くれば恋こほしき　朝香潟あさかがた　山越ごしに置きて　寝いねかてぬかも
《逢あい行いって　帰ったらまた　恋し児を　山向むこ置いて　寝付きも出来ん》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六九八）
　　
我妹子わぎもこに　逢はず久しも　うまし物もの　阿倍あへ橘たちばなの　苔こけ生むすまでに
《美味うまいユズ　苔こけ生はえるほど　長いこと　あの児逢あえんで　過ごして仕舞もたで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七五〇）
　　
山高み　谷たに辺へに延はへる　玉葛たまかづら　絶ゆる時なく　見むよしもがも
《谷向むこて　延のびる葛かずらは　蔓つる絶えん　絶えず欲しいで　逢あう切きっ掛かけが》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七七五）
　　
住吉すみのえの　岸の浦廻うらみに　しく波の　しばしば妹いもを　見むよしもがも
《住吉すみのえに　始終しょっちゅ寄る波　常時しょっちゅうに　あの児に逢あえる　伝手つてないやろか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七三五）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（しく波＝重なり来る波）
明日香あすか川がは　行く瀬を早み　早けむと　待つらむ妹いもを　この日暮らしつ
《早いこと　逢あいに来てやと　待つあの児　段取だんどり悪わるて　日ィ暮れて仕舞もた》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七一三）
　　
妹いもが髪　上あげ竹葉野たかはのの　放はなち駒ごま　荒あらびにけらし　逢はなく思へば
《野のに放はなつ　馬うま荒あれるけど　あの児こ気きィ　荒あれて怒おこるか　逢あおとせんがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六五二）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（14）浮田の社(もり)の

【掲載日：平成25年1月8日】

かくしてや　なほや守まもらむ　大荒木おほあらきの　浮田うきたの社もりの　標しめにあらなくに



焦がれ逢えんの　心しん底そこ辛つらい
嘆いて　みても　逢えんは同じ
燻くすぶる思い　胸抱き続け
このまま正気しょうき　保たれ出来ん

百代ももよしも　千代ちよしも生きて　あらめやも　我あが思ふ妹いもを　置おきて嘆かむ
《百年も　千年もわし　生いけへんに　あの児逢あわんと　嘆いてるやて》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇〇）
　　
みさご居ゐる　州すに居ゐる舟の　夕ゆふ潮しほを　待つらむよりは　我れこそまされ
《干潟ひがた洲すに　残された舟　夕潮しお待つが　待まち遠どし思い　わしのが上うえや》【比喩】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八三一）
　　
二上ふたがみに　隠かくらふ月の　惜をしけども　妹いもが手本たもとを　離かるるこのころ
《月二上やまに　隠かくれん悔くやし　ここんとこ　お前逢あえんも　悔くやしいこっちゃ》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六六八）
　　
かくしてや　なほや守まもらむ　大荒木おほあらきの　浮田うきたの社もりの　標しめにあらなくに
《逢あえんまま　見守るだけか　このわしは　浮田うきた神社やしろの　標縄しめなわ違ちゃうに》【比喩】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八三九）
　　
真澄鏡まそかがみ　直ただにし妹いもを　相見あひみずは　我あが恋止やまじ　年は経へぬとも
《顔合あわし　直じかにあの児に　逢あわへんと　焦がれ止とまらん　時期じき待ったかて》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六三二）
　　
相見あひみては　恋慰なぐさむと　人は言へど　見て後のちにぞも　恋まさりける
《直じか逢あうと　焦こがれ直なおると　皆みな言ゆうが　逢おうたら焦こがれ　酷ひどなったがな》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五六七）
　　
我妹子わぎもこに　逢ふ縁よしを無み　駿河するがなる　富士の高嶺たかねの　燃えつつかあらむ
《あぁあの児　逢あえる手立てが　何なも無のうて　燻くすぶる思い　富士の火やがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六九五）
　　
玉たまの緒をの　現うつし心ごころや　年月の　行きかはるまで　妹いもに逢はずあらむ
《正気しょうきまま　お前まえ逢あわんと　この年としが　変かわるの待まつん　わし出来できるかな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七九二）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（13）煙（けぶり）焼き立てて

【掲載日：平成24年12月28日】

志賀しかの海人あまの　煙けぶり焼き立てて　焼く塩の　辛からき恋をも　我あれはするかも




忍びに忍び　女も焦じれる
塩しょっぱい恋に　心は萎なえて
日増し焦こがれが　続いて行けば
いま　に命も　無いかと思う

甘南備かむなびの　打廻うちみの崎の　岩いは淵ぶちの　隠こもりてのみや　我あが恋ひ居をらむ
《うちの恋こい　じっと隠れて　忍しのぶだけ　岩淵いわふち水みずが　隠れてる様よや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七一五）
志賀しかの海人あまの　煙けぶり焼き立てて　焼く塩の　辛からき恋をも　我あれはするかも
《志賀しか海人あまの　煙けむで焼やく塩　塩しょっぱいで　うちの恋かて　偉えろ塩っぱいわ》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―石川君子いしかわのきみこ―（巻十一・二七四二）
　　
海原うなはらの　沖つ縄海苔なはのり　うち靡なびき　心もしのに　思ほゆるかも
《縄海苔なわのりは　波間靡なびくで　うちかても　靡なびき慕しとうて　萎しおれるばかり》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七七九）
　　
隠こもりには　恋ひて死ぬとも　み園生そのふの　韓藍からあゐの花の　色に出いでめやも
《押し隠かくし　焦こがれ死んでも　はっきりと　顔出ださへんで　この胸むね内うちは》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七八四）
　　
隠こもり津づの　沢たつみなる　岩いは根ねゆも　通してぞ思ふ　君に逢はまくは
《このうちの　逢あいたい気持ち　分かるかな　大おっきい岩を　突つき通とす程や》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七九四）

慰なぐさもる　心はなしに　かくのみし　恋ひや渡わたらむ　月に日に異けに
《紛まぎらわす　ことも出来できんで　苦しいに　焦こがれ続くか　日ひ増まし日ひ増ましに》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五九六）
　　
明日香あすか川がは　水行きまさり　いや日異ひけに　恋のまさらば　ありかつましじ
《川の水　増す様よに焦がれ　日増ひましやと　うちこのままで　生きて行けんわ》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七〇二）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（12）しがらみ越して

【掲載日：平成24年12月25日】

我妹子わぎもこに　我あが恋ふらくは　水ならば　しがらみ越して　行くべく思ほゆ



男焦がれは　激はげしになって
苦しさ募つのり　胸溢あふれ出す
そうか思えば　沈みに耽ふけり
挙あげ句くの果はては　自暴自棄じぼじき走る

我妹子わぎもこに　我あが恋ふらくは　水ならば　しがらみ越して　行くべく思ほゆ
《お前にと　寄せる思いは　堰せき止とめの　柵しがらみ越えて　溢あふれる水や》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七〇九）
　　
大船おほぶねの　たゆたふ海に　碇いかり下おろし　いかにせばかも　我あが恋やまむ
《沈みおる　碇いかりみたいな　この苦思おもい　どないにしたら　収まるやろか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七三八）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（碇いかり→いかに）

我妹子わぎもこを　聞き都賀野辺つがのへの　しなひ合歓木ねぶ　我あれは忍びず　間まなくし思へば
《絶たえ間ま無のに　あの児こ思おもてて　もうあかん　撓しないの合歓ねむや　忍び出けんで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七五二）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（しなひ→忍しのび）

物部もののふの　八十やそ宇治うじ川がはの　早き瀬に　立ちえぬ恋も　我あれはするかも
《わしの恋　激はげし流れの　中なか立って　流され相そやで　偉えろ苦しいて》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七一四）
　　
高山ゆ　出いで来くる水の　岩いはに触れ　砕くだけてぞ思ふ　妹いもに逢はぬ夜よは
《わしの胸　岩にぶつかる　水みたい　砕くだけ散り相そや　逢あわれん夜よるは》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七一六）
　　
息いきの緒をに　思へば苦し　玉たまの緒をの　絶えて乱れな　知らば知るとも
《息殺し　焦こがれん苦し　ええいもう　ぶちまけ様か　知れても良ええで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七八八）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（11）よしこのころは

【掲載日：平成24年12月21日】

心をし　君に奉まつると　思へれば　よしこのころは　恋ひつつをあらむ



男焦がれの　もう一方ひとかたで
焦がれ女も　切せつ無のに詠うたう
懸かる　夕雲　あの人偲び
思い揺蕩たゆたい　夢にも見えん

朽網山くたみやま　夕ゆふ居ゐる雲の　薄れゆかば　我あれは恋ひむな　君が目を欲ほり
《朽網山くたみやま　夕暮れ雲ぐもが　薄れてく　日暮れ切せつ無のて　逢あいたなるがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六七四）
　　
心をし　君に奉まつると　思へれば　よしこのころは　恋ひつつをあらむ
《うち気持ち　全部進呈あげたと　思おもうから　ここは暫しばらく　我慢がまんで待つわ》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇三）
　　
真澄鏡まそかがみ　手に取り持ちて　朝あさな朝さな　見む時さへや　恋の繁けむ
《手てに取とって　鏡かがみ見みる様よに　毎朝まいあさに　あんた見みたかて　焦こがれんやろか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六三三）
　　
里さと遠どほみ　恋わびにけり　真澄まそ鏡かがみ　面影おもかげ去さらず　夢いめに見えこそ
《離れ住み　侘わびし思てる　せめてもに　面影おもかげ見せて　夢に出てんか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六三四）

みさご居ゐる　沖つ荒磯ありそに　寄する波　行方ゆくへも知らず　我あが恋ふらくは
《焦こがれする　このうち思おもい　何処どこ行いくか　寄よせる波なみの様よ　ゆたゆたゆたと》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七三九）
　　
鱸すずき取る　海人あまの燈火ともしび　外よそにだに　見ぬ人ゆゑに　恋ふるこのころ
《外目よそめにも　見ること出けん　人やのに　このごろなんで　恋しんやろか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七四四）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（燈火ともしび＝遠くにある→外よそに）

夢いめにだに　何かも見えぬ　見ゆれども　我れかも惑まとふ　恋の繁しげきに
《夢かても　なんで見えへん　見えてても　焦こがれ昂こうじて　目ぇ怪お訝かしんか》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五九五）
　　
君が着る　御笠みかさの山に　居ゐる雲の　立てば継つがるる　恋もするかも
《御笠山みかさやま　懸かかる雲立つ　次々と　思い次々　切せつ無ない恋や》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六七五）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（10）鴨の浮寝の

【掲載日：平成24年12月18日】

我妹子わぎもこに　恋ふれにかあらむ　沖に棲すむ　鴨かもの浮寝うきねの　安けくもなし




首尾　良い恋の　ある一方で
思い届かぬ　　焦がれの恋や
じっと　我慢の　忍びの恋が
数多数よけ続く　恋路の定め

独りごち歌　七十ななじゅう数首
相手向むこうて　言うんやなしの
独りごちする　呟つぶやき似てる
先ず　は男の　焦がれの歌を

片糸かたいともち　貫ぬきたる玉の　緒をを弱み　乱れやしなむ　人の知るべく
《一ひと糸いとの　玉紐弱よわい　気ぃ弱よわて　焦こがれ出て仕舞もて　知れて仕舞まい相そや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七九一）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（片かた糸いと＝片恋かたこいをイメージ）
【　旋頭歌】
海原うなはらの　道に乗りてや　我あが恋ひ居をらむ
大船おほぶねの　ゆたにあるらむ　人の子ゆゑに
《わしの恋　覚束おぼつかないで　波浮く様ようや
焦こがれてん　手ぇの届かん　良ええ処とこの児や》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二三六七）
　　
我妹子わぎもこに　恋ふれにかあらむ　沖に棲すむ　鴨かもの浮寝うきねの　安けくもなし
《こんなにも　気ぃふわふわと　落ち着かん　あの児一途いちずと　焦こがれるからか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八〇六）
　　
真澄鏡まそかがみ　清き月夜つくよの　ゆつりなば　思ひはやまず　恋こそまさめ
《照っとおる　月が陰かげって　仕舞しもうたら　気紛まぎれ出来んで　恋焦こがれ募るで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六七〇）
　　
数多あまたあらぬ　名をしも惜をしみ　埋うもれ木ぎの　下したゆぞ恋ふる　行方ゆくへ知らずて
《取る足らん　面子めんつ気にして　胸むね中なかで　焦こがれてるだけ　目途めど立たへんに》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七二三）
　　
あしひきの　山田守もる翁をぢが　置く鹿火かひの　下した焦こがれのみ　我あが恋ひ居をらむ
《田たぁ守まもる　翁おきな鹿遣火かやりび　燻くすぶるで　胸むねも燻くすぶる　焦こがれをしてて》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六四九）
　　
いかにして　忘れむものぞ　我妹子わぎもこに　恋はまされど　忘らえなくに
《どしたなら　消えるんやろか　あの児への　増ふえても消えん　切せつ無ない思い》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五九七）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（09）袖返（かへ）す夜の

【掲載日：平成24年12月14日】

我が背子せこが　袖そで返かへす夜の　夢いめならし　まことも君に　逢ひたるごとし



問答　楽しや　お互い心
通かよい通わし　増す睦むつまじさ
打てば響くの　歌遣やり取とりは
ほんに良ええ仲　聞く方が妬やける

【　問答】
我妹子わぎもこに　恋ひて術すべなみ　白栲しろたへの　袖そで返かへししは　夢いめに見えきや
《恋こいしいて　仕様しょう無のて袖そでを　折おり返かえし　寝ねたけどお前まえ　夢ゆめ見みたやろか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八一二）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（袖返し寝＝夢で逢あえる呪まじない）
我が背子せこが　袖そで返かへす夜の　夢いめならし　まことも君に　逢ひたるごとし
《あの夢ゆめは　袖そで返かえし寝ねの　夢ゆめなんや　ほんま間近まぢかに　逢おうた様よやった》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八一三）
　　
【　問答】
眉まよ根ね掻き　鼻はなひ紐ひも解とけ　待まてりやも　何時いつかも見みむと　恋こひ来こし我あれを
《眉まゆ掻かいて　くしゃみ帯解とき　待ってたか　早はよう来たいと　思てたわしを》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂歌集―（巻十一・二八〇八）
今日けふなれば　鼻はなの鼻はなひし　眉まよかゆみ　思ひしことは　君にしありけり
《くしゃみ出て　眉まゆ痒かいよって　もしや思もた　やっぱあんたや　やっぱり今日や》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八〇九）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（眉が痒い・くしゃみが出る・紐が解ほどける＝逢える前兆）
　　
【　問答】
思ふ人　来こむと知りせば　八重葎やへむぐら　覆おほへる庭に　玉敷かましを
《焦こがれてる　人来くるんやと　知ってたら　むさいこの庭　玉敷しいたのに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八二四）
玉敷ける　家も何なにせむ八重葎やへむぐら　覆おほへる小屋をやも　妹いもと居をりせば
《玉敷しいた　家なぞいらん　荒あばら屋やも　一緒いっしょ居おれたら　もう極楽ごくらくや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八二五）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（08）笑(ゑ)まむ眉引(まよび)き

【掲載日：平成24年12月11日】

思はぬに　至らば妹いもが　嬉しみと　笑ゑまむ眉引まよびき　思ほゆるかも



互い許せば　妻問い通がよい
今日も待つかな　愛いとしいあの児
今日も逢えるか　頼たのもしあんた
野外逢瀬おうせも　またぞろ楽し

待つらむに　至らば妹いもが　嬉しみと　笑ゑまむ姿を　行きて早はや見む
《待ってる児　訪たずねて行って　早よ見たい　お前喜び　微笑ほほえむ姿》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五二六）
　　
思はぬに　至らば妹いもが　嬉しみと　笑ゑまむ眉引まよびき　思ほゆるかも
《ひょっこりと　訪たずね行ったら　喜んで　微笑ほほえむ眉まゆが　見える様よやがな》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五四六）
　　
た徊もとほり　行箕ゆきみの里に　妹を置きて　心空そらにあり　地つちは踏めども
《行箕ゆきみ里さと　お前居おる里　訪たずねるに　足あし地ぃ踏むが　気ぃ上うわの空》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五四一）
　　
我妹子わぎもこが　袖を頼みて　真ま野のの浦の　小菅こすげの笠を　着ずて来にけり
《小菅こすげ笠がさ　着きんと来たんや　雨降るに　お前抱だけるん　楽しみにして》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七七一）
　　

甘南備かむなびの　浅あさ小竹しの原はらの　愛うるはしみ　我あが思ふ君が　声の著しるけく
《聞きこえるで　うちの良ええ人ひと　あの声こえや　ほうらはっきり　聞きこえて来きたで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七七四）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（浅あさ小竹しの原はら＝美しい→愛うるはしみ）

水鳥の　鴨かもの棲すむ池の　下樋したび無なみ　いぶせき君を　今日けふ見つるかも
《逢あえるんか　逢あわれへんかと　鬱々うつうつに　待まってたあんた　今日きょう逢あえたがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七二〇）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（下樋したび無なみ＝水を通す管がない→隠こもる→　　　　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　いぶせき＝鬱陶うっとおしい）

早はや行きて　いつしか君を　相見あひみむと　思ひし心　今ぞ凪なぎぬる
《早はよ早はよに　行って逢あいとて　堪たまらんと　思おもてた気持ち　今収おさまった》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五七九）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（示しめし合あわせた野外の出会い）



――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（07）倭文機(しつはた)帯を

【掲載日：平成24年12月7日】

古いにしへの　倭文しつ機はた帯を　結び垂れ　誰たれといふ人も　君にはまさじ




恋得えた女　惚れるは一途いちず
どんな　男も　あんたに勝てん
身ぃも心も　進呈あげるで全部
逢えば逢瀬おうせの　思い出話ばなし

さ丹につらふ　色には出いでず　少なくも　心のうちに　我わが思はなくに
《顔色に　出ださへんだけや　心では　あんた満々いっぱい　思うてるんや》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五二三）
　　
古いにしへの　倭文しつ機はた帯を　結び垂れ　誰たれといふ人も　君にはまさじ
《伝統の　倭文しつ機はた帯を　結ゆい垂らす　誰だれ持もてきても　あんたに勝てん》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六二八）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（垂たれ→誰たれ）

古いにしえの　狭織さおりの帯を　結び垂れ　誰たれしの人も　君にはまさじ
《伝統の　狭織さおりの帯を　結ゆい垂らす　誰だれが来きたかて　あんたに勝てん》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六二八　或る本）
　　
垂乳根たらちねの　母に知らえず　我が持てる　心はよしゑ　君がまにまに
《母かあちゃんに　分からん様に　隠かくしてた　心全部ぜぇんぶ　あんたに進呈あげる》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五三七）
　　
笠無なみと　人には言ひて　雨あま障つつみ　留とまりし君が　姿し思ほゆ
《笠無ないと　皆みなにそう言ゆて　雨宿あまやどり　為さした姿を　思い出すがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六八四）
　　
【　旋頭歌】
岡をかの崎さき　廻たみたる道を　人な通かよひそ
　ありつつも　君が来きまさむ　避よき道にせむ
《岡先を　廻めぐる細道　通りな誰も　
　隠かくしてて　あんた通かよえる　抜け道するわ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二三六三）
　　
泊瀬はつせ川がは　早み早瀬を　むすび上げて　飽あかずや妹いもと　問ひし君はも
《あの時に　泊瀬はつせ早はやせの　水掬すくて　ちゃんと飲んだか　言ゆうたなあんた》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七〇六）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（野遊び途中の思い出―あの優しさに　うち惚れたんや）



――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（06）笑(ゑ)みみ怒(いか)りみ

【掲載日：平成24年12月4日】

はね蘰かづら　今する妹いもが　うら若み　笑ゑみみ怒いかりみ　付けし紐解とく




深まる仲は　契ちぎりへ進み
結べば男　もう有頂天うちょうてん
この　児手にした　喜ぶ胸に
惚気のろけ心が　知らずと湧くぞ

天地あめつちの　寄り合ひの極きはみ　玉たまの緒をの　絶えじと思ふ　妹いもがあたり見つ
《いつまでも　愛し続け様よ　思うてる　あの児居おる処とこ　見た見た見たで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七八七）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（天地の寄り合う極み＝天地が接する遙か彼方までの長さ＝長時間）
　　
玉桙たまほこの　道行きぶりに　思はぬに　妹いもを相見あひみて　恋ふるころかも
《偶たまさかの　道の往き来いきで　お前逢あい　焦こがれ居おるんや　このごろずっと》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇五）
　　
眉まよ根ね掻かき　誰たをか見むと　思ひつつ　日け長く恋ひし　妹いもに逢へるかも
《眉まゆ痒かゆて　逢あえるん誰か　思おもてたら　焦こがれ続けた　お前逢おたがな》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六一四　或る本）
　　
はね蘰かづら　今する妹いもが　うら若み　笑ゑみみ怒いかりみ　付けし紐解とく
《まだ初うぶな　蘰かずらの児やで　笑いかけ　叱しかりつけして　紐ひも解ほどくんや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六二七）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（はね蘰かづら＝女子成人の祝いに着ける）
若草の　新にい手枕たまくらを　まき初そめて　夜よをや隔へだてむ　憎くあらなくに
《新妻にいづまと　初はじめて共寝ねたで　一晩ひとばんも　放ほっておけるか　可愛かわいい児こやに》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五四二）
　　
大君おほきみの　御笠みかさに縫ぬへる　有馬菅ありますげ　ありつつ見れど　事なき我妹わぎも
《ずううっと　見続けてても　良ええ児やで　悪い処とこなぞ　有馬菅ありますげ笠かさ――ありませんがな――》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七五七）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（有馬ありま→ありつつ）
奥山の　岩いは本もと菅すげの　根深くも　思ほゆるかも　我あが思ひ妻づまは
《菅すがの根は　深ふこ深ふこ張るよ　妻の奴やつ　わしの心の　深ふこ深ふこ居おるよ》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七六一）




――――――――――――――――――――

【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（05）妹が笑(ゑ)まひし

【掲載日：平成24年11月27日】

燈火ともしびの　影にかがよふ　うつせみの　妹いもが笑ゑまひし　面影おもかげに見ゆ




あの　児手に入れ　男ははしゃぐ
他人ひとに知れたら　盗ぬすまれそうで
嬉し気持ちの　頬強張こわばらせ
胸　に隠して　心ではしゃぐ

相見あひみては　幾久いくびささにも　あらなくに　年月としつきのごと　思ほゆるかも
《逢おうてから　まだ何日も　経たたへんに　もう何年も　経たった様よ思おもう》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五八三）
　　
駅路はゆまぢに　引き舟渡し　直ただ乗りに　妹いもは心に　乗りにけるかも
《渡し船　向岸きしへ真ま直すぐや　真まっ直すぐに　あの児わし胸　入はいり込んだで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七四九）
　　
あぢの棲すむ　渚沙すさの入江いりえの　荒磯ありそ松まつ　我あを待つ子らは　ただ一人ひとりのみ
《渚沙すさ入江いりえ　荒磯あらいその松まつ　一本ひとつだけ　わし待まつ児こぉは　一人ひとりだけやで》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七五一）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（荒磯ありそ松まつ→我あを待まつ）
燈火ともしびの　影にかがよふ　うつせみの　妹いもが笑ゑまひし　面影おもかげに見ゆ
《燈火ともしびの　火影ほかげに揺れて　光ってた　あの児笑顔えがおが　目ぇ浮かぶがな》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六四二）
　　
大船おほぶねに　葦荷あしに刈り積み　しみみにも　妹いもは心に　乗りにけるかも
《大船おおぶねに　積んだ葦荷あしには　山盛やまもりや　わし心こころ中なか　あの児山盛やまもり》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七四八）
　　
息の緒をに　妹をし思へば　年月の　行くらむ別わきも　思ほえぬかも
《わしあの児　命いのち思おもたら　年月が　過ぎて行くのん　上うわの空やが》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五三六）




――――――――――――――――――――
【古事記ものがたり】への誘い
古事記編纂1300年を期し　一大叙事詩を作ってみました
こちらを　ご覧下さい。
【古事記ものがたり】へ

古今相聞往来（上）編（04）下いふかしみ

【掲載日：平成24年11月2日】

眉まよ根ね掻かき　下したいふかしみ　思へりし　妹いもが姿を　今日けふ見つるかも



逢おうた二人は　焦がれが晴れる
晴れた　焦がれは　直ぐまた募る
逢えん辛つらさを　振る袖託たくし
瞼まぶた浮かべる　お前の姿
逢おうた逢あえたで　愛いとしいお前
来　たで来たがな　待ってたあんた

昨日きのふ見て　今日けふこそ隔へだて　我妹子わぎもこが　幾許ここだく継つぎて　見まくし欲ほしも
《昨日きの逢おうて　今日の日逢あえん　だけやのに　なんで逢あいとて　堪たまらんのやろ》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二五五九）
　　
水底みなそこに　生おふる玉たま藻もの　生おひ出いでず　よしこのころは　かくて通かよはむ
《当分は　そっと見えん様よ　通かよおうか　見えん水底みなそこ　生はえる藻みたい》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七七八）
　　
玉たまの緒をの　間あひだも置かず　見まく欲ほり　我あが思ふ妹は　家いへ遠どほくありて
《間ま置かんと　ずっと逢あいたい　お前やに　お前住む処とこ　偉えろ遠いんや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二七九三）

白栲しろたへの　袖はまゆひぬ　我妹子わぎもこが　家のあたりを　やまず振りしに
《わしの袖そで　解ほつれて仕舞しもた　お前居おる　家の方ほ向いて　振り続けたで》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇九）
　　
敷栲しきたへの　衣手ころもで離かれて　我あを待つと　あるらむ子らは　面影おもかげに見ゆ
《ここんとこ　わしに逢あえんで　待ってる児　思おもたら目先　ちらつき見える》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇七）
　　
眉まよ根ね掻かき　下したいふかしみ　思へりし　妹いもが姿を　今日けふ見つるかも
《眉まゆ痒かゆて　ひょっとしたらと　思おもてたら　お前姿を　今日見たのんや》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六一四　一書）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（眉が痒い＝逢える前兆）

眉まよ根ね掻かき　下したいふかしみ　思へるに　古いにしへ人を　相見あひみつるかも
《眉まゆ痒かゆい　なんでやろかと　思おもてたら　昔むかし馴染なじみの　あんた来たがな》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六一四）
　　
現うつつにも　夢いめにも我れは　思はずき　古ふりたる君に　此処ここに逢はむとは
《ほんまにも　夢にもうちは　知らなんだ　馴染なじんだあんた　ここで逢あうとは》【正述心緒】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六〇一）




――――――――――――――――――――
【新しい試みです】
「歌心関西訳」の作成過程をご覧ください。
これなら　あなたも　訳せますよ。
｛訳してみよう万葉集】へ