【掲載日:平成23年6月17日】
朝床に 聞けば遥けし
射水川 朝漕ぎしつつ 歌ふ舟人
【三月二日 夜】千鳥鳴くのを聞いて 二首
夜ぐたちに 寝覚めて居れば 川瀬尋め 心もしのに 鳴く千鳥かも
《夜半過ぎ 寝んと居ったら 瀬ぇ探し 心細気に 千鳥啼いとる》
―大伴家持―〔巻十九・四一四六〕
夜ぐたちて 鳴く川千鳥 うべしこそ 昔の人も 偲ひ来にけれ
《夜半過ぎ 啼く川千鳥 切ないで そうか古人も そう思たんや》
―大伴家持―〔巻十九・四一四七〕
昔の人・・・
家待の胸に浮かぶは 人麻呂 赤人
淡海の海 夕浪千鳥 汝が鳴けば 心もしのに 古思ほゆ
《おい千鳥 そんなに啼きな 啼くたんび 古都思うて 堪らんよって》
―柿本人麻呂―〔巻三―二六六〕
ぬばたまの 夜の更けぬれば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く
《夜更けた 久木生えてる 川原で 千鳥啼き声 しきりと響く》
―山部赤人―〔巻六・九二五〕
【三月三日 暁】鳴く雉を聞いて 二首
杉の野に さ躍る雉 著ろく 哭にしも泣かむ 隠り妻かも
《杉の野で 鳴き騒ぎ居る 雄雉よ 偉ろ声高い 連れ来んのかな》
―大伴家持―〔巻十九・四一四八〕
あしひきの 八峰の雉 鳴き響む 朝明の霞 見れば悲しも
《あちこちの 峰で雄雉 鳴いとおる 夜明けの霞 悲しゅう見える》
―大伴家持―〔巻十九・四一四九〕
【 〃 】川上る 遥かな歌を聴いて
朝床に 聞けば遥けし 射水川 朝漕ぎしつつ 歌ふ舟人
《射水川 上る漁師の 船歌や 夜明けの床で 遥か聞こえる》
―大伴家持―〔巻十九・四一五〇〕
【三月三日】守の館にての宴
今日のためと 思ひて標し あしひきの 峰の上の桜 かく咲きにけり
《今日の為 目っこ付けてた 峰上の 桜見事に 咲いとおるがな》
―大伴家持―〔巻十九・四一五一〕
奥山の 八峰の椿 つばらかに 今日は暮らさね 大夫の伴
《奥山で 咲く椿見て 一日を 心行くまで 過ごそや皆》
―大伴家持―〔巻十九・四一五二〕
漢人も 筏浮かべて 遊ぶといふ 今日ぞ我が背子 花蘰せな
《唐人も この日筏で 遊ぶ云う さあさ皆で 花蘰かぶろや》
―大伴家持―〔巻十九・四一五三〕