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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・越中編(二)(16)聞けば遥(はる)けし

2011年06月28日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月17日】

朝床あさどこに 聞けばはるけし
        射水川いみづかは 朝ぎしつつ 歌ふ舟人ふなびと



 三月二日 夜】千鳥鳴くのを聞いて 二首
ぐたちに めてれば 川瀬め こころもしのに 鳴く千鳥ちとりかも
夜半やはん過ぎ 寝んとったら 瀬ぇ探し 心細気ぼそげに 千鳥啼いとる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四六〕
ぐたちて 鳴くかは千鳥ちとり うべしこそ 昔の人も しのにけれ
夜半やはん過ぎ 啼く川千鳥 せつないで そうか古人むかしも そうおもたんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四七〕

 の人・・・
家待 の胸に浮かぶは 人麻呂 赤人

淡海あふみうみ 夕浪ゆうなみ千鳥ちどり けば こころもしのに いにしへおもほゆ
《おい千鳥 そんなに啼きな 啼くたんび 古都みやこ思うて たまらんよって》
                         ―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ―〔巻三―二六六〕
ぬばたまの けぬれば 久木ひさきふる 清き川原に 千鳥しば鳴く
よる更けた 久木えてる 川原かわはらで 千鳥啼き声 しきりと響く》
                         ―山部赤人やまべのあかひと―〔巻六・九二五〕

【三月三日 暁】鳴くきじを聞いて 二首
杉の野に さをどきぎし いちしろく にしも泣かむ こもり妻かも
《杉の野で 鳴きさわる おすきじよ ろ声高い 連れんのかな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四八〕
あしひきの 八峰やつをきぎし 鳴きとよむ 朝明あさけの霞 見れば悲しも
《あちこちの 峰でおすきじ 鳴いとおる 夜明けの霞 悲しゅう見える》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一四九〕

【  〃  】川さかのぼる 遥かな歌を聴いて
朝床あさどこに 聞けばはるけし 射水川いみづかは 朝ぎしつつ 歌ふ舟人ふなびと
射水川いみづがわ のぼる漁師の 船歌や 夜明けのとこで はるか聞こえる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五〇〕

【三月三日】かみの館にてのうたげ
今日けふのためと 思ひてしめし あしひきの の桜 かく咲きにけり
《今日のため 目っこ付けてた 峰上みねうえの 桜見事に 咲いとおるがな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五一〕
奥山の 八峰やつをの椿 つばらかに 今日けふは暮らさね 大夫ますらをとも
《奥山で 咲く椿見て 一日を 心行くまで 過ごそやみんな
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五二〕
漢人からひとも いかだ浮かべて 遊ぶといふ 今日けふぞ我が背子せこ はなかづらせな
唐人からひとも この日いかだで 遊ぶう さあさみんなで 花蘰かずらかぶろや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五三〕





家待・越中編(二)(17)かき撫(な)で見つつ

2011年06月24日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月21日】

矢形やかたの 白の鷹を やどに
               かき撫で見つつ はくししも



 の 連続詠歌
気分高揚に 勃然ぼつぜん 長歌が湧く
 に 作年七月以来 八ヶ月ぶり
取り上げしは 白鷹しろたか
昨秋 の 鷹狩りを 思うて詠う
〔おお そう云えば 「大黒おおくろ」を失くししあと
  一年八ヶ月の 長歌詠わず があった
  「大黒」の 引き合わせやも知れぬ〕

あしひきの 山坂やまさか越えて 行きかはる とし長く しなざかる 越にし住めば 大君おほきみの きます国  
《山や坂 越えてこし来て 住み続け 新し年を 何回も 迎えたけども 大君おほきみの おおさめなさる この国は》 
都をも 此処ここおやじと 心には 思ふものから かたけ 見くる人目 ともしみと おもひししげ  
《都もここも おんなじと おもては見るが 気心きごころを 許し話せて 顔わす 人すくのうて 気落ちする》
そこゆゑに こころなぐやと 秋づけば 萩咲きにほふ 石瀬野いはせのに 馬だき行きて 遠近をちこちに 鳥踏み立て 白塗しらぬりりの 小鈴こすずもゆらに あはせり 振りけ見つつ いきどほる 心のうちを 思ひ 
《そんな心を いやそうと 秋になったら 萩の咲く 石瀬野いはせの馬を 走らせて あちらこちらで 鳥飛ばし 銀鈴すず付け鷹を 追いはなち はるかな空を 眺めては 積もったさを 吹き飛ばす》
うれしびながら まくら付く 妻屋つまやのうちに くらひ ゑてぞ我が飼ふ 白斑しらふの鷹
《楽し気持ちで うちの中 鳥の棲家すみかを 作らせて うてるのんや 白斑しらふの鷹を》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五四〕

矢形やかたの 白の鷹を やどにゑ かき撫で見つつ はくししも
《矢のかたち した尾の白鷹たかを うちで飼い 撫でたり見たり 嬉しいかぎり》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五五〕
                                     三月八日】




家待・越中編(二)(18)鵜飼(うかひ)伴(とも)なへ

2011年06月21日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月24日】

・・・川の瀬に 年魚子あゆこばし
    島つ鳥 鵜飼うかひともなへ かがりさし なづさひ行けば・・・


白鷹しろたか詠いし 家待
同じく  好み鳥 鵜を思う
 今の季節 そろそろ 鵜飼じゃ
 思いついたが吉日 辟田さきたがわへと 繰り出すか〕

あらたまの 年行きかはり 春されば 花のみにほふ あしひきの 山下とよみ 落ちたぎち 流る辟田さきたの 川の瀬に 年魚子あゆこばし
《新しに 年あらたまり 春なって 花いっぱいの 山裾を とどろくだる 辟田さきた川 瀬では子鮎が 飛び跳ねる》
島つ鳥 鵜飼うかひともなへ かがりさし なづさひ行けば 
《そこで鵜飼うかいの 漁師連れ かがり燃やし 波まれ のぼって行った その時に》
我妹子わぎもこが 形見かたみがてらと くれなゐの 八入やしほに染めて おこせたる ころもの裾も とほりて濡れぬ
《妻がえにしと 送り来た 濃いくれなゐの ふくの裾 波をかぶって 濡らして仕舞しもた》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五六〕

くれなゐの ころもにほはし 辟田川さきたがは 絶ゆること無く 我れかへり見む
くれないの ふくえさして 辟田さきた川 ずっとかようで またまた来るで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五七〕

毎年としのはに あゆし走らば 辟田さきたがは 八頭やつかづけて 川瀬たづねむ
《毎年に たずねてるで 辟田さきた川 鮎泳ぐとき もぐらしに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十九・四一五八〕
                                    三月八日】




家待・越中編(二)(19)都万麻(つまま)を見れば

2011年06月17日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年6月28日】

磯のうへの 都万麻つままを見れば
          根をへて 年深からし かむさびにけり



天平しょうほう二年(750)三月九日
春出挙はるすいこに出る かみ家待
渋谿しぶたに
岩礁がんしょうの上
した地がり根 いわおからませ
他を威圧いあつするが如き 
 おお これが
 これこそ都万麻つままじゃ
  聞き及びし都万麻じゃ」

磯のうへの 都万麻つままを見れば 根をへて 年深からし かむさびにけり
《磯の上 都万麻つままえてる 根ぇ見たら 年期ねんきもんやな 神さんおるで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一五九)

 では 見ることのできない 風物
こしでも まれにみる 暖地だんち常緑樹じょうりょくじゅ
対馬つしま暖流だんりゅう運びし 種の根付ねづきか
役目だしの 幸運
家持 晴れ晴れの 出発いでたち

その夜 射水郡いみずのこおりに 泊まりを取る
宿舎駅家うまやの柱
何やら 落書らくしょめく書き物
 おおぅ これは なんとした
 山上臣やまのうえのおみと云えば 憶良殿御子息ごしそく
 ここへ おでか
  何たる奇遇
 都万つま出会いしに きこと 予感有りしが
  これは これは・・・)

朝開き 入江ぐなる かぢおとの つばらつばらに 我家わぎへし思ほゆ
《朝船の 入江ぐ梶 しきりやで しきりに家が 思い出される》
               ―山上臣やまのうえのおみ山上憶良やまのうえのおくら・息)―(巻十八・四〇六五)

 先日の 千鳥
  図らずも 人麻呂殿 赤人殿の 歌思い出し
  今日は 今日とて
  憶良殿
  憶良殿と云えば
 七夕歌たなばたうた連作が 秀逸しゅういつであった
 七夕あきには早いが 作り置くか)

妹が袖 我れまくらかむ 川の瀬に 霧立ち渡れ さけぬとに
《妻の袖 まくら共寝るぞ 川の瀬に 霧よ出て来い よるけんに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六三)





家待・越中編(二)(20)暮(ゆふべ)変(かは)らひ

2011年06月14日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月1日】

・・・朝のみ ゆふべかはらひ
        吹く風の 見えぬが如く く水の とまらぬ如く・・・
 


 憶良殿と云えば
 筑前ちくぜん に居られし折
  世の無常を詠まれたのがあった
  確か・・・)

・・・遊びけむ 時の盛りを とどみかね すぐりつれ みなわた かぐろき髪に 何時いつか しもの降りけむ くれなゐおもての上に 何処いづくゆか しわきたりし・・・ 
《・・・たわむれる 年の盛りは またたく間 緑黒髪 白髪しらが生え 綺麗きれえな顔に しわ増える・・・》
                          山上憶良―(巻五・八〇〇抜粋)

我輩それがし まだまだ 憶良殿辿たどりし この世の辛酸しんさん
めてらぬが なろうてみるか)

天地あめつちの とほき初めよ 世間よのなかは つね無きものと 語りぎ ながらへきた 
《天と地が 出来た始めの 昔から 世の中うん はかないと 語りがれて 来たことよ》
あまの原 振りけ見れば 照る月も ち欠けしけり 
 天見上げたら 照る月は 満ち欠けするん 当たり前》
あしひきの 山の木末こぬれも 春されば 花咲きにほひ 秋づけば つゆしもひて 風まじり 黄葉もみち散りけり 
《山の木見ても 春来たら 綺麗きれえ花咲き 秋来ると しもつゆ降りて 風吹いて 黄葉もみじその葉ぁ 散らすやろ》
うつせみも かくのみならし くれなゐの 色もうつろひ ぬばたまの 黒髪かは 
《人のかても おんなじや 顔の紅色あかいろ おとろえる 黒い髪かて しろ変わる》
朝のみ ゆふべかはらひ 吹く風の 見えぬが如く く水の とまらぬ如く 
《朝の笑顔えがおも 日暮ばん変わり 吹き過ぎ風は 見えんやせん 流れゆく水 とどまらん》
つねも無く うつろふ見れば にはたづみ 流るる涙 とどめかねつも
《世の中みんな 変わるんや それを見てたら はかうて あふれる涙 止められん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六〇)

言問こととはぬ 木すら春咲き 秋づけば 黄葉もみち散らくは つねみこそ
《物言わん 木も春咲いて 秋来たら 黄葉もみじ散らすよ はかないもんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六一)

うつせみの 常無き見れば 世間よのなかに こころつけずて 思ふ日ぞ多き
《世の中が むなし思たら 何事も 手に着かへんと 沈む思いや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六二)





家待・越中編(二)(21)名をし立つべし

2011年06月10日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月5日】

大夫ますらをは 名を立つべしと
         のちの代に 聞きぐ人も 語りぐがね




 そう云えば 憶良殿 伝えられし最後の歌)

をのこやも 空しくあるべき 万代よろづよに  語りくべき 名は立てずして
丈夫ますらおと 思うわしやぞ のちの世に 名ぁ残さんと 死ねるもんかい》
                          山上憶良―(巻六・九七八)

 この歌残し 憶良殿は 亡くなられた
 死ぬ間際まぎわまでの この確たるこころざし
 天平五年(733) 御歳おんとし七十四と聞く
 天平五年と云えば 父上身罷みまかられの二年後
 当時  わしは十七であった)

ちちのの 父のみこと ははその 母のみこと おほろかに こころつくして 思ふらむ その児なれやも 
《このわしを 生んで育てた 父や母 平凡無事ぶじに 過ごせたら それでんやと うてたが そんな子供で えもんか》
大夫ますらをや むなしくあるべき 梓弓あづさゆみ すゑ振り起し 投矢なげやち 千尋ちひろ射渡いわたし つるぎ大刀たち 腰に取りき あしひきの 八峰やつを踏み越え さしくる こころさやらず 
《男たるべき 大夫ますらおが むなしゅうこの世 過ごせんぞ あずさの弓を 振り起こし 投げ矢遠くに 飛ばして つるぎを腰に 取りいて 峰から峰を 踏み越えて 役目果たすぞ 懸命けんめいに》
後の代の 語りぐべく 名を立つべしも
のちの世名前 残すぞよ 語りがれる 名ぁ立てるぞよ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六四)

大夫ますらをは 名を立つべしと のちの代に 聞きぐ人も 語りぐがね
のちの世も 語りがれる 名ぁ立てる 男一匹 生まれたからは》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六五)

 わしは 今三十三
 それ を思えば 憶良殿 
 老年にしての あの気概きがい
 すことの多くを前に
 逡巡しゅんじゅんの時ではないわ
 家待よ 如何いかに生きるぞよ)

しみじみ思う ふるき日々
 良 旅人
筑紫の少年の日が よみがえ
(あの梅花うめはなうたげ 素晴らしかった
 つどいし面々
 それぞれに 良きみやこりであられた)

詠われ し 三十六首
そらんじる家待に 歌が生まれる

春のうちの 楽しきをへは 梅の花 手折たをきつつ 遊ぶにあるべし
梅枝えだ折って 手元取り寄せ 遊ぶんが 春一番の 楽しみごとや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七四)




家待・越中編(二)(22)やどに引き植ゑて

2011年06月07日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月8日】

・・・見る毎に こころぎむと
      しげやまの たにふる 山吹を やどに引き植ゑて 


 まあ 憶良様のお子さんの歌
 それは 奇遇きぐうでしたね
 それで 旅人伯父おじ様のこと お思い出されて」
大嬢おおいらつめは 出挙すいこから戻りし 家待に
旅先 の 色々を聞くうち 都が恋しくなった

【大嬢に 強請せがまれ 都への代作】
妹を見ず 越の国辺くにへに 年れば 我がこころどの ぐる日もなし
わんまま こし田舎いなかで ご暮らし 心休まる 日ィあれへんわ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七三)
 都よりの 返し歌】
山吹の 花取り持ちて つれも無く れにし妹を しのひつるかも
《山吹の 花手に持って うち一人 行った大嬢あんたを しのんでるんや》
                         ―留女女郎りゅうじょのいらつめ―(巻十九・四一八四)

 都からの返信に また贈る代作】
妹に似る 草と見しより 我がしめし 野辺のへの山吹 たれれか手折たをりし
《山吹を 留女あんた似てると おもたんで 目っこ付けたに 誰ったんや(離れて仕舞しもた)》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九七)
つれも無く れにしものと 人は言へど 逢はぬ日まねみ 思ひぞ我がする
《そっけう ったて留女あんた おっしゃるが なごう逢わんで 恋しおもてる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九八)

 家待自身の添え歌】
うつせみは 恋をしげみと 春けて 思ひしげけば 
《世の中は 人恋しいは 常のこと 春になったら なおさらや》
引きぢて りも折らずも 見る毎に こころぎむと しげやまの たにふる 山吹を やどに引き植ゑて  
手折たお手折たおらん 別にして 見たら気持ちが 安らぐと 繁った山の 谷にある 山吹庭に 植え替えた》
つゆに にほへる花を 見る毎に 思ひはまず 恋ししげしも
《朝露える その花を 見たが心は 安まらん よけい恋しさ つのるだけ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八五)

山吹を やどに植ゑては 見るごとに 思ひはまず 恋こそまさ
《山吹を 庭に植えたが 見るたんび 恋しさつのり 安らぎせんわ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八六)

しばらくしてのち 家待自身の歌】
東風あゆいたみ 奈呉なご浦廻うらみに 寄する波 いや千重ちへしきに 恋ひ渡るかも
奈呉なごの浦 東風かぜつようて 次々に 寄せる波やで 恋し思いは》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一三)





家待・越中編(二)(23)現(うつ)し真子(まこ)かも

2011年06月03日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月12日】

・・・くれの 四月うづきし立てば ごもりに 鳴く霍公鳥ほととぎす
     いにしへゆ 語りぎつる うぐひすの うつ真子まこかも・・・


初夏の訪れは 間近まぢかであった
家持は 気もそぞろ
 の静けさに向け 耳を澄ます
待ちどおの気 呼び寄せ歌を詠わせる

【三月二十日】めて呼んだら 来てくれるかな
時ごとに いやめづしく 八千種やちくさに 草木くさき花咲き 鳴く鳥の 声もかはらふ 
《毎年の めぐる季節の 折々おりおりに いろんな草木 花咲かせ 鳥鳴く声も 変わってく》
耳に聞き 目に見るごとに うち嘆き しなえうらぶれ しのひつつ ありけるはし 
《咲いて喜び 散り嘆き 声待ちがれ 聞きれて そうこする内 月日過ぎ》
くれの 四月うづきし立てば ごもりに 鳴く霍公鳥ほととぎす いにしへゆ 語りぎつる うぐひすの うつ真子まこかも 
《葉ぁ繁り出す 四月なり 闇中やみなかで鳴く ほととぎす これ鶯の 育てと 伝え言うてる 昔から》
菖蒲草あやめぐさ 花たちばなを 娘子をとめらが たまくまでに あかねさす 昼はしめらに あしひきの 八峰やつを飛び越え ぬばたまの よるはすがらに 
娘子おとめ菖蒲あやめ 花橘たちばなを 薬玉くすだまにする 五月まで 日中ひなか昼間は 山へ飛び 夜中よなか朝まで 鳴き通し》
あかときの 月に向ひて 行きかへり 鳴きとよむれど なにからむ
《夜明けの月に こてび 行ってかえって 鳴きしきる ずっと聞いても きはん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六六)

時ごとに いやめづしく 咲く花を りも折らずも 見らくししも
 次々と 四季咲く花を 見るのんは 折っても楽し 折らんも楽し》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六七)
毎年としのはに 鳴くものゆゑ 霍公鳥ほととぎす 聞けばしのはく 逢はぬ日をおほ
《どの年も 聞けるんやけど ほととぎす 聞いたらゆかし なごう待つんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一六八)

【三月二十三日】明日あした夏立つ 楽しみ待とや
常人つねひとも 起きつつ聞くぞ 霍公鳥ほととぎす このあかときに 来鳴く初声はつこゑ
《人みんな んと聞くう ほととぎす 夜明けて鳴く その初声はつこえを》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七一)
霍公鳥ほととぎす 来鳴きとよめば 草取らむ 花たちばなを やどには植ゑずて
《ほととぎす 来て鳴いたなら 野ぉに行こ たちばな植えて 待つんやなしに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七二)





家待・越中編(二)(24)告げ無くも憂(う)し

2011年05月31日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月15日】

・・・しかれども
      谷片付かたづきて 家れる 君が聞きつつ 告げ無くも




立夏りっか過ぎても 鳴かない霍公鳥ほととぎす
春遅いこしとは云え
この時 聞こえないは 苛立いらだち募る
鳴くと聞けば 野にいでてでも との家待に
人伝ひとづてうわさが 届く
 なになに
 じょう久米広縄ひろつなが屋敷 山陰やまかげ故 初音聞いたとか
 しからぬ仕儀しぎかな 申すべし申すべし)

此処ここにして 背向そがひに見ゆる 我が背子せこが 垣内かきつの谷に 
《ここからは うしろに見える 広縄あんたいえ 屋敷の庭は 谷の中》
明けされば はりのさえだに 夕されば 藤のしじみに はろばろに 鳴く霍公鳥ほととぎす 
よるが明けたら はんの枝 夕方来たら 藤の蔭 はるかに鳴くよ ほととぎす》
我がやどの 植木たちばな 花に散る 時をだしみ 鳴か無く そこはうらみず 
《庭先植えた たちばなは 花散ったのに 時期ちゃうと 鳴きにんのは 仕様しょうがない》
しかれども 谷片付かたづきて 家れる 君が聞きつつ 告げ無くも
《それはそうやが 谷ちかに 住んどる広縄あんた 聞いたでと うてんのは うらめしで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二〇七)

我が幾許ここだだ 待てど鳴かぬ 霍公鳥ほととぎす 一人聞きつつ 告げぬ君かも
 ほととぎす こんな待っても 鳴かんのに 一人で聞いて 知らん顔かい》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二〇八)

上官 かみ家待からの 詰問きつもん
実直久米広縄ひろつな あわてての返し

谷近く 家はれども だかくて 里はあれども 霍公鳥ほととぎす いまだ鳴かず 
《谷ちこう いえを構えて 住んでるに 木ィたこ繁る 里やのに ほととぎすどり まだ鳴かん》
鳴く声を 聞かまくりと あしたには かどに出で立ち ゆふへには 谷を見渡し 恋ふれども 一声ひとこゑだにも いまだ聞こえず 
《鳴く声よに 聞きたいと 朝方あさがた門の 外に立ち 夕方谷を 見渡して がれるけども 一声も 聞いてまへんで わしかてホンマ》 
                         ―久米広縄くめのひろつな―(巻十九・四二〇九)




家待・越中編(二)(25)安眠(やすい)寝(ね)しめず

2011年05月27日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月19日】

・・・菖蒲草あやめぐさ たまくまでに 鳴きとよ
             安眠やすいしめず 君をなやませ



【三月末】まだ鳴かんのか なあ霍公鳥ほととぎす
霍公鳥ほととぎす 鳴き渡りぬと ぐれども 我れ聞きがず 花は過ぎつつ
《ほととぎす 鳴いて飛んだと みな言うが わし聞いとらん 花過ぎてくで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九四)
我が幾許ここだだ しのはく知らに 霍公鳥ほととぎす 何方いづへの山を 鳴きか越ゆらむ
《ほととぎす わしがこんなに しとてるに 知らんと何処どこへ 飛んでったんや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九五)
月立ちし 日よりきつつ うちじのひ 待てど鳴かぬ 霍公鳥ほととぎすかも
《月変わり 始めの日から 恋がれ 待つのに鳴かん あのほととぎす》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九六)

 四月始】嬉し 嬉しい 初鳴き聞いて
霍公鳥ほととぎす 今鳴きむ 菖蒲草あやめぐさ かづらくまでに るる日あらめや
《ほととぎす やっと鳴いたで 菖蒲草あやめぐさ かずらするまで 鳴き続けてや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七五)
我がかどゆ 鳴き過ぎ渡る 霍公鳥ほととぎす いやなつかしく 聞けどき足らず
うちの前 鳴き飛んでいく ほととぎす ゆかしゅ聞いたが まだ足らへんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七六)

【四月三日】一緒聞きたい 池主あんたに届け
我が背子せこと 手たづさはりて 明ければ 出で立ち向ひ ゆふされば 振りけ見つ 思ひべ ぎし山に 
なつかしい 池主あんたと手取り 眺めたな 朝来た時に き仰ぎ 夕べが来たら 振り返り こころらしに 見た山は 
八峰やつをには 霞たなびき 谷辺たにへには 椿花咲き うら悲し 春し過ぐれば 霍公鳥ほととぎす いやき鳴きぬ ひとりのみ 聞けばさぶしも 
峰々みねみね霞 棚引いて 谷には椿 花咲かす 春が過ぎたら ほととぎす 今をしきりに 鳴いとるが 独り聞くのん さみしいで》 
君とれ へなりて恋ふる 砺波山となみやま 飛び越え行きて 明けたば 松のさえだに 夕さらば 月に向ひて  
池主あんたとわしを へだてとる 砺波となみの山を 飛び越して 朝来た時は 松の枝 夕方来たら 月こて》
菖蒲草あやめぐさ たまくまでに 鳴きとよめ 安眠やすいしめず 君をなやませ
菖蒲あやめの草を 薬玉たまにする 端午たんごの日まで 鳴き続け ささんといて 悩ましたって》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七七)

我れのみし 聞けばさぶしも 霍公鳥ほととぎす 丹生ひふ山辺やまへに い行き鳴かにも
《わしひとり 聞いてるのんは さみしいな 丹生にうの山行き 鳴けほととぎす》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七八)
霍公鳥ほととぎす 鳴きをしつつ 我が背子せこを 安眠やすいしめ ゆめこころあれ
《ほととぎす わしの気持を さっしたら 池主あいつさすな なかじゅ鳴いて》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一七九)





家待・越中編(二)(26)捕りて懐(なつ)けな

2011年05月24日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月22日】

霍公鳥ほととぎす 聞けどもかず
         あみ取りに りてなつけな れず鳴くがね




 四月四日】聞きに聞いても まだ聞きたいで
春過ぎて 夏むかへば あしひきの 山呼びとよめ さ夜中に 鳴く霍公鳥ほととぎす 初声はつこゑを 聞けばなつかし  
《春過ぎて 夏が来たなら 声立てて 夜中よなか鳴く鳥 ほととぎす 初声はつね聞いたら ゆかしいて》
菖蒲草あやめぐさ 花たちばなを まじへ かづらくまでに 里とよめ 鳴き渡れども なほしのはゆ
菖蒲あやめの草と たちばなを ぜて通して かずらする 日まで里じゅう 響かせて 鳴き飛びするん うきうき聞くよ 
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八〇)

さ夜けて あかとき月に かげ見えて 鳴く霍公鳥ほととぎす 聞けばなつかし
《夜がけて 夜明けの月に 影うつし 鳴くほととぎす 心引かれる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八一)
霍公鳥ほととぎす 聞けどもかず あみ取りに りてなつけな れず鳴くがね
《ほととぎす 聞いてもきん 網張って 捕りらそかな ずっと鳴くに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八二)
霍公鳥ほととぎす とほせらば 今年て 来向きむかふ夏は まづ鳴きなむを
《ほととぎす い続けたら 年して また夏来たら っ先鳴くで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八三)

【四月九日】二上ふたがみ山で 鳴く声ゆか
桃の花 くれなゐ色に にほひたる おものうちに 青柳あおやぎの 細き眉根まよねを み曲がり 朝影見つつ 娘子をとめらが 手に取り持てる 
くれないに 輝く様な ももはなに 似た面差おもざしの 娘子おとめが 柳の様な 眉あげて 笑顔作って のぞき見る》
真澄まそかがみ 二上山ふたがみやまに くれの しげ谷辺たにへを 呼びとよめ 朝飛び渡り ゆふ月夜づくよ かそけき野辺のへに はろばろに 鳴く霍公鳥ほととぎす 
《その手鏡てかがみの 二上ふたがみの 山の繁みの 谷間から 朝に飛び立ち 鳴きさわぎ 月の光の 差す野辺で はるか聞き鳴く ほととぎす》
立ちくと 羽触はぶりに散らす 藤波ふぢなみの 花なつかしみ 引きぢて 袖に扱入こきれつ まばむとも
もぐり飛んでは 散らす花 その藤波が うるわして 手に取り袖に き入れた 色がみても かまへんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九二)

霍公鳥ほととぎす 鳴く羽触はぶりにも 散りにけり さかり過ぐらし 藤波の花
《ほととぎす 鳴く羽ばたきで 散って仕舞た さかり過ぎたか 藤の花房》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九三)





家待・越中編(二)(27)この布勢(ふせ)の海を

2011年05月20日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月26日】

・・・春花の しげさかりに 秋の葉の 黄色もみちの時に
           ありがよひ 見つつしのはめ この布勢ふせの海を




こしへの赴任以来 
丸四年がとうとしていた
かみとしての地方赴任 通常は四年
ひなと思いし 越
  居ついてみると 住めば都とか
  ことに 暗く長い冬を過ごし
 一度に花開く春のおもむき ほかに代えがた
 短い春は またた
 いま  初夏を迎え 水辺が恋しい)

かみ家待の 呼びかけ
仲間うち面々 布勢ふせ水海みずうみを目指す

思ふどち 大夫ますらををのこの くれの しげき思ひを 見あきらめ こころらむと 布勢ふせの海に 小舟をぶねつらめ 真櫂まかいけ いめぐれば 
つかえ仲間の 気の合う同士どうし まったうさの 気晴きばらし仕様しょうと 布勢ふせ水海みずうみ 小船を浮かべ かい取り揃え めぐりする》
乎布をふの浦に 霞たなびき 垂姫たるひめに 藤波ふぢなみ咲きて 浜清く 白波さわき 
乎布おふの浦々 霞がなびき 垂姫たるひめ崎に 藤波ふじなみ咲いて 浜はきようて 白波さわぐ》
しくしくに 恋はまされど 今日けふのみに らめやも かくしこそ いや毎年としのはに 
《楽し気分が 益々ますます湧いて 今日の遊びで 満足出来できん こんな楽しみ 毎年仕様しょうや》
春花の しげさかりに 秋の葉の 黄色もみちの時に ありがよひ 見つつしのはめ この布勢ふせの海を
《春の盛りの 花咲く時に 秋の季節の 黄葉もみじの時に かよい続けて 見てでようや このえ景色 布勢ふせ水海みずうみを》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八七)

藤波ふぢなみの 花の盛りに かくしこそ 浦つつ 年にしのはめ
藤波ふじなみの 花の盛りに また仕様しょうや 浦々めぐり 来る年々に》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八八)
                                    【四月六日】





家待・越中編(二)(28)鵜を潜(かづ)けつつ

2011年05月17日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年7月29日】

・・・平瀬ひらせには 小網さでさし渡し 早き瀬に 鵜をかづけつつ
               月に日に しかし遊ばね しき我が背子せこ



この 夏 もしやの最後やも知れぬ
思う  家待胸に
去来きょらいする 赴任当初からの
大伴池主いけぬしとの友好
無性 の 逢いたさ募りに
一月ひとつき前の さき川での鵜飼を思い
そちら の川でもと
鵜を持たせ ふみを託して 池主の元へ

天離あまざかる ひなとしあれば 彼所此間そこここも おやじ心ぞ 家さかり 年のぬれば うつせみは 物思ものもひしげし 
《都から とおに離れた この田舎いなか ここもそっちも 同心おんなじや 家を離れて 月日ち うれふこうに 沈む日々》
そこ故に こころなぐさに 霍公鳥ほととぎす 鳴く初声はつこゑを たちばなの たまき かづらきて 遊ばむはし
《気のまぎらしに ならんかと 鳴くほととぎす 初声はつごえを 聞いてたちばな たまき かずらを付けて 遊んだな》
大夫ますらをを ともなへ立てて 叔羅くしら川 なづさひのぼり 平瀬ひらせには 小網さでさし渡し 早き瀬に 鵜をかづけつつ 月に日に しかし遊ばね しき我が背子せこ
《この次どやろ 友連れて 叔羅くしらの川を のぼり 浅瀬に小網こあみ 張り渡し 早瀬でどり もぐらせて 月日重ねて お遊びよ 気心知れた 我が友よ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一八九)

叔羅くしら川 瀬を尋ねつつ 我が背子せこは 鵜川うかは立たさね こころなぐさ
叔羅くしら川 早瀬辿たどって 鵜飼うかいして 楽しみなはれ 気晴きばらしがてら》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九〇)

鵜川うかは立ち 取らさむ鮎の はたは 我れにかき向け おもひしおもはば
鵜飼うかいして 捕った鮎魚あゆうお そのひれを わしに送って 礼するなら》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九一)
                                    【四月九日】





家待・越中編(二)(29)馬暫(しま)し停(と)め

2011年05月10日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年8月2日】

渋谿しぶたにを 指して我が
           この浜に 月夜つくよきてむ 馬しま



部下からの たっての望みにこた
再度の みずうみへの遊覧
 花は 前にも増して 房をたわわにし
はなむらさきを 水に映している

藤波ふぢなみの 影なす海の 底清み しづいしをも たまとぞ我が見る
藤房ふじの影 うつしてる水 んどって 底にある石 たま見える》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四一九九)

多胡たこの浦の 底さへにほふ 藤波ふぢなみを 插頭かざして行かむ 見ぬ人のため
多胡たこの浦 底にる 藤房ふじふさを 髪挿かみさし帰えろ られん人に》
                         ―内蔵縄麻呂くらのつなまろ―(巻十九・四二〇〇)

いささかに 思ひてしを 多胡たこの浦に 咲ける藤見て 一夜ひとよぬべし
《まあまかと おもて見に来た 多胡たこの浦 咲く藤見たら 泊りとなった》
                         ―久米広縄くめのひろつな―(巻十九・四二〇一)

藤波ふぢなみを 仮廬かりほに作り 浦廻うらみする 人とは知らに 海人あまとか見らむ
《藤波を 船屋根やね乗せ浦巡めぐり してるのに 見たら漁師と 思うんちゃうか》
                         ―久米継麻呂くめのつぎまろ―(巻十九・四二〇二)

家に行きて 何を語らむ あしひきの 山霍公鳥ほととぎす 一声ひとこゑも鳴け
《帰ったら 土産みやげ話に するのんで 鳴けほととぎす せめて一声》
                         ―久米広縄くめのひろつな―(巻十九・四二〇三)

とある水辺みずべ
巨大 は葉を持つ ほほがしわを見つけ
驚きとともに 歌心もよお
それぞれ に 詠う

我が背子せこが ささげて持てる ほほがしは あたかも似るか 青ききぬがさ
守殿あんたはん ささげ持ってる ほほがしわ ほんにそっくり 青衣笠きぬがさに》
                         ―恵行えぎょう―(巻十九・四二〇四)
皇神祖すめるきの とほ御代みよ御代みよは いき折り 飲みきといふぞ このほほがしは
いにしへの 神代かみよ時代に 折り畳み 酒飲んだう このほほがしわ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二〇五)

初夏 の日が 暮れていく
 が 頬に心地よい
馬を駆る先 渋谿しぶたに
左手 満月間近まぢかの月が昇り
ありの海に 月影揺れる

渋谿しぶたにを 指して我がく この浜に 月夜つくよきてむ 馬しま
渋谿しぶたにを 目指めざし行く浜 月えで う味わおや 一寸ちょっとめ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二〇六)
                                   【四月十二日】




家待・越中編(二)(30)御母(みおや)の命(みこと)

2011年05月06日 | 家待・越中編(二)歌心湧出
【掲載日:平成23年8月2日】

・・・垂乳根たらちねの 御母みおやみこと 何しかも 時しはあらむを
      真澄まそかがみ 見れどもかず たまの しき盛りに・・・




転任 の知らせ 
待つ 家待に 思わぬ知らせが届く
娘婿継縄つぐただ母 身罷みまかりの知らせ

かつて 仲麻呂二男 麻呂まろからのえんぐみ申し出
うまく かわせたものの 
何時いつ何どきの 再度有るやも
これ を避けつつ 
藤原忌避きひとの勘ぐり打ち消しのため
仲麻呂 とは やや距離ある 藤原豊成が二男
藤原継縄ふじわらのつぐただとの娘縁組 
家持  必死の処世であった

天地あめつちの はじめの時ゆ うつそみの 八十やそともは 大君おほきみに まつろふものと 定まれる つかさにしあれば 大君おほきみの みことかしこみ ひなさかる 国ををさむと 
《天と地が 出来た始めの 昔から 宮につかえる 人はみな 天皇すめらみことに 従うと されてるので めい受けて いこここし やってきた》
あしひきの 山川へなり 風雲はぜくもに ことかよへど ただに逢はず 日のかさなれば 思ひ恋ひ 息衝いきづるに 玉桙たまほこの 道る人の 伝言つてことに 我れに語らく 
便たより届くと うものの 山川へだて とおい国 じかに逢えんで 日ィ過ぎて どしてるかと 思う時 都から来た 人うに》
しきよし 君はこのころ うらさびて なげかひいます 世間よのなかの けくつらけく 咲く花も 時にうつろふ うつせみも 常無くありけり  
《「今あのかたは 心え 沈み返って 嘆きる 世の中ろて うとましい 花もしおれる 世は無常むじょう
垂乳根たらちねの 御母みおやみこと 何しかも 時しはあらむを 真澄まそかがみ 見れどもかず たまの しき盛りに 立つ霧の せゆく如く 置くつゆの ぬるが如く 玉藻たまもなす なびこいし く水の とどみかねつと 
《母上様に 何事や そんな年とは 違うのに 元気達者たっしゃで られたに 霧や置くつゆ 消えるに なびみたい 病床とこして 水くみたい うなった」》
狂言まがごとか 人の言ひつる 逆言およづれか 人の告げつる 梓弓あづさゆみ つま引く夜音よとの 遠音とほとにも 聞けば悲しみ にはたづみ 流るる涙 とどめかねつも
《嘘つきないな だましなや 遠いはるかな 知らせ聞き かなしばかりで 嘆きる 流れる涙 止まらへん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一四)

遠音とほとにも 君が嘆くと 聞きつれば のみし泣かゆ あひ思ふ我れは
 便り来て あんた嘆くて 聞いたがな わしも悲して 涙に暮れる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一五)
世間よのなかの 常無きことは 知るらむを こころつくすな 大夫ますらをにして
《世の中の 無情むじょう知らんて こと無かろ そんな悩みな 男やないか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―(巻十九・四二一六)